第四話 月曜日 昼の刻 ~呪いの元祖
言い伝えでは、
『
だけど、兄のあの呪いは、ただの呪いじゃない気がする。
兄の呪いは、もっと重くて、どす黒くて、凶々しい。生臭いにおいすら感じる呪いは初めてだ。
「……そうだ、郷土資料室なら、なにかわかるかもっ!」
そこにはこの土地の歴史から言い伝えまで資料としておいてあると校長先生がいっていた!
家から学校まで、走って10分。
すばやく上履きにはきかえて、図書室へむかっていく。
まだ8時前の学校は、ほとんど人がいなくて静かだ。
2階中央に位置する図書室の引き戸に手をかけた。
「……ん? 開かない……?」
戸の鍵がまだあいていない。
「早すぎた……」
がっくりと肩を落とし、教室へと足をむけたとき、
「朝読書ぉ?」
長い髪を耳にかけながら、白衣姿の大人が───!
「ひっ!」
「ごめんねぇ〜。ボク、
くねくねと腰を揺らしながらしゃべる姿は、さながら女性。
髪の毛も銀髪っていうのかな? きれいで腰まで長いし、細いつり目がきれいな女顔。
ただ声は、もろ男性だ。
「前任の高橋先生の代わりの図書室の司書だよ。君、お名前はぁ?」
「ぼ、ぼくは、
銀水先生はぐっと顔をよせると、にこりとほほえみ、白衣の大きなポケットから鍵を取りだして、図書室を開いた。
「探し物とか?」
「はい。ここの郷土資料を……」
銀水先生は図書室の奥にある郷土資料の棚へむかう。
慣れた手つきで1冊取りだすと、ぼくに差しだした。
「これ、
渡された本のタイトルは、『帝天の伝承と現在』というものだ。
探していた本そのもの!
「ありがとうございます」
「ほら、貸出しカードに名前書いてぇ」
日にちと名前を書きこみ手渡すと、またにこりと笑う。
「ボク、だいたいここにいるから、遊びにきてよ、凌くん」
すごく優しい声音なのに、背中が一瞬、ぞくりと震えた。
たぶんそれは、銀水先生がおネエ系だからだ……!
──ぼくは朝からその本を読みつづけた。
クラスの子に挨拶もほどほどに、授業の間もうまく隠して、授業の間の休み時間だって!
さらに、給食をおえた教室でもぼくは読み続けていた。
「凌、昼休みだぞ? まだ読んでんの?」
話しかけてきたのは、幼馴染の翔だ。
ぼくが読んでいる本をのぞきこみ、ヤバいものでもみたような顔をする。
「うわ、郷土資料じゃん」
「いろいろあるの!」
そして、放課後の教室─────
野球部の声が響いてくる。サッカーのシュート練習もしているみたい。
僕は帰宅部。だから誰もいない教室で本を読む。
図書室に行こうかとも思ったけど、その時間すらおしい気がして、読む手を止められない。
次のページに、あるいは、ページの中に書き込まれているんじゃないかって、くまなく探さなきゃいけないから。
なぜならこの本には、目次がない。
これは本として成立してるんだろうか。
でも、この土地の風習や伝承が細かく書き記されている。
まちがいなく、黒鎌鼬についてもあるはずだ!
……あくまで、希望だけど。
【帝天の山神】というページをめくったとき、ぼくの視線がかたまった。
「……これだ!」
タイトルとして【黒鎌鼬の呪い唄】と、太字で書いてある。
「ここまで半分以上読んじゃったよ……」
ぼくは改めて【黒鎌鼬の呪い唄】のページをすすめていく。
読むだけで呪われるんじゃないか、そう思えるほど、兄の呪いがリンクする───
『この帝天には、昔、
人々を守り、土地を肥やす神として崇められていたが、ひとり、旅芸人の女が帝天に訪れた。
その女は歌がうまく、人々を虜にしていった。
それはもちろん、神をも魅了したのだ。
だが女は旅芸人。さすらうのが仕事という。
そこで大鼬、女に離れてほしくないと、呪いをかけた。
どこにもいけないように、まずは右足。
次の日は、左足。
次の日は、右腕。
次の日は、左腕。
次の日は、体。
次の日は、頭。
そして、最後は、首。
女に唄えと大鼬が言うと、女は唄いだした。
だがそれは、呪いの唄だった。
すべてを聞き終えると、神をも殺す呪い唄。
それを女はどこで手に入れたのかはわからない。
大鼬はすぐに首を呪い、女を殺した。
しかし、手遅れだった。
女の呪い唄が大鼬を飲みこんだのだ。
それからだ。旋風に女の歌声が混ざるようになったのは。
うーうーと高く鳴く音は、彼女の声。
そして、旋風は大鼬の形なのだ。
奇しくも二人は、一つの呪いとなったのだった。
これは七日後に死ぬ運命を与える、重い重い呪いなのである』
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