狐と狸

ぴしか

狐と狸


深い深い森の奥、木漏れ日がきらきらと地面を照らしています。

そこに一匹の狐がとぼとぼと歩いておりました。狐は森の動物達から、「あいつはずるいやつだ」と嫌われていました。


「今日もひとりぼっちかぁ、誰か一緒に遊んでくれる友達ができないかなぁ」


狐は毎日毎日、一人で魚を捕っては寂しくご飯を食べながら思います。会話をする相手も居ないので、いつも独り言ばかり呟いているのでした。


ある朝、いつものように魚を捕った狐は、どこでご飯を食べようか考えながら森を歩いていると、遠くに小さな丘があるのを見つけました。


「あそこなら見晴らしも良さそうだ、今日はあそこでお昼にしよう」


そこは山道をずうっと登った先にある、切り立った崖になった丘でした。そこからはどこまでもどこまでも続く大きな青い海が見えました。


「わあ、すごいや!とっても綺麗!いつか友達ができたらここに連れてきてあげよう!」


狐は、たいそうその場所を気に入りました。

ご飯を食べた後はしばらくそこで海を眺めていました。


次の日、

狐はまたあの丘から見える景色を見ながら魚を食べようと思い、河辺へと向かいました。河辺へつくと、一匹の狸の姿が見えました。


「やぁ、こんにちは狸さん、一緒にご飯でもいかが?」


狐は狸に声をかけましたが、狸は一言も喋らずにただこちらをじっと見つめているだけでした。狐は少し戸惑いましたが、続けて話しかけました。


「こう見えて僕は魚を捕るのが上手いんだ!君の分も捕まえてあげるよ」


狐はひょいひょいと、あっという間に二匹の魚を捕まえて、一匹を狸にあげました。ですが狸はニコっと笑うだけで、魚を食べはしませんでした。

狐は不思議に思いましたが、誰かと出会うのなんていつぶりのことでしょうか。嬉しくなってたくさんたくさん話続けました。

狸はニコニコしながら、頷いて狐の話をずっと聞いてくれました。


とっても楽しかった狐は、鼻歌を歌いながら家に帰りました。狸との時間が嬉しくて、丘から見える景色のことはすっかり忘れていました。


「明日も会えるかなぁ」


そう呟いて、狐はぐっすり眠りました。


次の日も、狐は狸が居た河辺へと向かいました。そこには昨日と同じ狸がちょこんと座っていました。狐は狸の元へとすっ飛んで行ってまた話しかけました。狸はニコニコとして狐の話をたくさん聞いてくれました。


「お腹が空いていないかい?そろそろお昼にしようか」


狐は見事に魚を捕ると、狸にあげました。しかし狸はひとつも口をつけませんでした。狐は、もしかしたら狸は魚が嫌いなのかと思い、木の実をとってきては差し出しました。

それでもやっぱり狸は食べようとはしませんでした。


「そうだ!この森をずっと登った先に、とっても素敵な場所を見つけたんだ!今度連れていってあげるよ!」


狐は狸に言いました。狸は目をキラキラと輝かせながら、狐の話を聞いていました。


次の日も次の日も、狐は狸の元へと向かいました。狸はいつだってそこにいましたが、狐の話をニコニコとしながら聞くだけで、ご飯も食べず、一言も喋らず過ごしていました。


日を追うに連れて、みるみる狸は痩せこけて行きました。心配になった狐は、何度も何度も魚を捕って狸に食べるよう促しましたが、それでも狸は何も食べませんでした。


次の日も狐は河辺へと、狸に会いに行きましたが、そこに狸の姿はありませんでした。狐はとても悲しくなって、あちこち探し回りました。大声で狸を呼んでみても返事はありません。

肩を落とした狐が帰ろうとした時、手紙が落ちているのに気付きました。それは狸からの手紙でした。


きつねさんへ、


いつも僕のところへ来てくれてありがと

う。毎日とっても楽しかったよ、君はほ

んとうに魚を捕るのが上手だね。たくさ

ん僕に魚をくれてありがとう。食べられ

なくてごめんね。僕は人間の罠にかかっ

てしまった時に喉を痛めたんだ。喋れな

くなったしご飯も食べられなくなった。

いずれ死んでしまうことはわかっていた

けど、毎日君が会いに来てくれるから全

然怖くなかったよ。ほんとうにありがと

う。君は僕の一番の親友だよ。


たぬきより


狸からの手紙にはこう書かれていました。

狐は手紙を読むと、狸を探して森中を駆け回りました。足がボロボロになっても、どれだけ喉が乾いても、走るのを止めませんでした。

どれだけ探しても、狸は見つかりませんでした。

狐はとぼとぼと、海が見えるあの丘にやって来ました。そこには狸が背中を丸めて横たわっていました。まるで眠っているようでしたが、もうとっくに狸は息をしていませんでした。狐は狸のそばに二匹の魚が置いてあるのを見つけました。


狐はその一匹を食べながら言いました。


「美味しいね狸さん、けれど今日の魚は何だかとっても塩っ辛いや、どうしてかなぁ」


狐は笑顔で魚を食べ続けましたが、その目から大粒の涙がぽろぽろと零れ続けました。


いつまでもいつまでも、狐の目から涙が止まることはありませんでした。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狐と狸 ぴしか @moyu02

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ