第2話 魔物に転生とか聞いてない
こ、ここは誰? 私はどこ?
暗い。何も見えない。体も動かせない。怖い。
まあ、そんなことじゃないかと感じてたよ。
転生した瞬間、龍にリスキルを狙われて食われたり。
なんらかの死刑囚が秘密裏に産む子供だったり。
唐突に隕石が降ってきて、産まれた瞬間に死んだり。
これだけ思いついてしまうのが怖い。そして、すべて現実になりそうで怖い。
つまりは、今の私は龍の胃袋の中なのかもしれないのだ。
これで死んだらサメイ様にせっかくもらった力を使う前にくたばってしまう。それは避けたい。同情してくれたわけだし。
ここまでの待遇をしてくれたのだ。私は私なりに、この世界で生きなければ申し訳ない気持ちになる。
リスキルの時点で避けようがないけど。
もしかして詰んでる?
嫌だ! こんなところで死にたくない! 最後まで足掻いてみせる!
「誰かー! 助けてくださーい!」
……反応なし。私の声は反響し、すぐに耳に返ってきた。
ということは狭い場所に閉じ込められている……? 拷問部屋かなにかかな?
希望は捨てずに、今度は暴れまわってみることにした。
そこで新たな事実に気がつく。
足はギリギリ動かせるけど、なんか形が変だ。足の先が三つに分かれているのか? これは。
手に関しては五本の指すらない。それに葛藤するようなものはあるが、コレジャナイ感がする。
ピシッ
お。
ずっと狭い中でモゾモゾしていたら何かが聞こえた。もしかしたら出られるんじゃないかな?
ビシッ
あと一押しだ! 頑張れ私!
バキッ
私は外に飛び出した。
「生まれた!」
瞬間、誰かに肩を掴まれる。はい?
「生まれたっ!」
そいつの目は赤く、神話の龍のような翼が生えていた。こちら側からはよく見えないが、背中にゴツゴツとした岩が生えていたりもしている。私が知ってる中で1番近い生物は、鳥だ。なによりも……。
「化け物!? きもっ! ちょ、誰かー!!」
「きも!? 酷い!」
偽鳥は憤慨し、その目をチカチカさせる。
「キモいとか言うけどなあ! お前も同じ姿だからな!?」
「え? 嘘……」
自分の体を見下ろす。
「ああああああっ!」
ゴツゴツとした体に、翼。
いや、これはきっと私にだけ見えてる幻想だ!
「私の体、どうなってる!?」
「は? どうなってるもこうなってるも。たくましい鳥型のボディ!」
「嘘だああああっ!」
前言撤回。死にたい。
女子が命に次に大事なのは見た目。これがなければモテないし、人生何かしら損をする。もちろん内面も大事だと思うけど、これはショック……。
『不運を感知。チャージされました。現在の充電量は30です。なお、充電分を10使うことで【ブースト・極小】を発動できます』
なんか聞こえた。誰?
「今、何か言った?」
「何も言ってねえよ。……くそっ、可愛い妹だと期待した俺がバカだったぜ」
「妹? 私が?」
「それ以外に何がある」
「へえ。じゃぁ、君はお兄ちゃんか」
「お、お兄ちゃん……! ま、まあそういうことになるかな!」
あ、照れてる。案外可愛いかも。
「親はいないの?」
「ああ。親は卵を産むと死んじまうんだ。早く卵から産まれた者から上位関係が決まっていく。ちなみに俺は村で3番目だ」
「それって結構すごいじゃん!」
村とかあったんだ。友達できるかな。
「そ、そうか?」
「うん!」
お兄ちゃんはそっぽを向き、照れを隠す。
「私は何番目なの?」
「……最後だ」
「うん? ちょっと聞こえなかったなー」
「最後だ」
「う、嘘だああああっ!」
「本当だ」
じゃぁ、私は村の関係でいうと1番下? 馬鹿にされる存在? 友達どころじゃない!
「お前も災難だな……」
「ついてないなぁ……」
肩を落とす。
『不運を感知。チャージされました。現在の充電量は70です』
「またなんか聞こえた!」
「はあ?」
これは……天の声みたいなやつかな? よくわからないけど、私が不幸な目にあうと聞こえる。チャージとか言うけど、全く意味が分からない。
「それよりも、だ! ステータスって言ってみろ!」
「う、うん」
有名なやつだね。自分の能力値が数値化されて出てくるんだっけ。おお、テンション上がってきた!
「ステータス」
モモ
LV1
HP……30/30
MP……30/30
固有スキル
【不運充電アンラッキーチャージ】
通常スキル
【飛翔】【硬質化】
目の前に緑色の透明なプレートが現れた。
「これは……ッ!?」
私がコメントするよりも早く、お兄ちゃんが声を上げた。
「固有スキル!? どういうことだ!?」
私の肩(?)を掴み、振り回す。
「そ、そう聞かれても……」
神様に貰ったなんて馬鹿正直には言えない。どうせ信じてもらえないだろうし。
「これはすごいことだぞ!」
「そうなの?」
「ああ! 俺が聞いた限りでは、今回生まれた83羽の中で固有スキルを持っているのは2羽と聞いた! モモで3羽目だな!」
「へ、へえ……って、モモ?」
振り返ったが、誰もいない。私のこと!?
「お前の名前だ。書いてあったじゃないか。死ぬ前、母が与えてくれた。一応、俺の名前はモットという」
モモ、かあ。悪くはないかも。お兄ちゃんの本名は別にどうでもいいや。て、え。
「えぇ!? お母さんもう死んじゃったの!?」
「俺たちの種族は数が少ないらしいからな……卵を複数個産んで、その負担に耐え切れず死んでしまうらしい」
じゃぁ私もいずれかそんなことになるの!?
嫌だあ! 卵産んで死ぬとか一番嫌だあ!
「あれ、お父さんは?」
「父上は長老だ。ジェムドラゴンの中でもダントツにでかい」
ジェムドラゴン?
聞き慣れない単語に首を傾げていると、お兄ちゃんが補足をしてくれた。
「ジェムドラゴンは俺たちの種族の名前だ。我ながらカッコいいよな!」
そ、そう? まあ、喜んでるならいっか。
「父はどこにいるの?」
巣から見渡しても、周りは木々に囲まれていて何ひとつ見えない。私たち以外誰もいないような錯覚に陥る。
「父上って言え、バカ。実は、俺も父上が何処にいるかわからないんだ。なんにしろ、会ったことないからな」
「父上なのに?」
「ああ。でも、あと1週間だ」
「1週間? なんのこと?」
「言ってなかったっけか」
お兄ちゃんは目を輝かせ、高々に告げる。
「今から一週間後ーー宝石祭があるんだ! しかも、父上もご出席されるらしい!」
運無しのその転生者、【不運充電(アンラッキーチャージ)】で不運を味方につけ……たい @NUSI
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