明日の音

雨世界

1 君は、いつも優しいね。

 明日の音


 プロローグ


 今日、僕は君と再会する。


 本編


 君は、いつも優しいね。


 いつか、必ず会いに行くよ。と僕は引越しをする君に約束をした。

 その約束を僕は今日、果たすことにする。


 君となんども手紙のやり取りをして、それから将来の約束をして、そのあとで僕は電車に乗って君のいる町までやってきた。

 僕の心臓は少しどきどきしている。

 久しぶりに会う君の姿に。

 久しぶりに見せる僕の姿に。君がどう思うのかなって思うと、本当にどきどきした。


 季節は夏。


 青い空と、白い雲。そして、蒸し暑い夏の風が世界には吹いている。


 時刻は昼。


 太陽は真上にあり、焼けるように暑いコンクリートの上にはかげろうが揺れている。

 僕は誰も人がいない海の見える駅のホームを出る。

 駅員さんに切符を見せてお金を払い、小さな駅を出ると、そこには白い帽子をかぶった、白いワンピース姿の君がいた。


「久しぶり。元気だった?」にっこりと笑って君が言う。

「うん。本当に久しぶり。元気だったよ。君は?」僕は言う。

「もちろん。私はずっと元気だよ」とおどけたような表情で君は言う。


 僕は一目見ただけで久しぶりに見る君が君だとわかった。

 君は一目見ただけで、久しぶりに見る僕が僕だと気がついてくれた。それがすごく嬉しかった。


 僕たちは手を取り合って歩き出す。


 目的地は君の家。


 君と、君の大切な家族が暮らしている海沿いにある白い家。幸せのある場所。僕と君の約束の場所。


「私、幸せだよ。今、すっごく幸せなの」君は言う。

「僕もだよ。すごく、すごく幸せだ」と僕は言う。


 僕たちは歩く。


 僕たちの未来に向かって。


 僕と君の、幸せな明日に向かって。


 このとき、僕には確かに聞こえていた。


(このとき、私は確かに聞こえていた)


 明日のやってくる音。(明日のやってくる音)


 明日の音が聞こえる。


 君の声が聞こえる。


 君の、心臓の音が聞こえる。


「ただいま」

「お邪魔します」


 僕と君は、君の家にたどり着いた。(このとき、私の耳には、確かに幸せの鐘の音が鳴る音が聞こえていた。本当に嬉しかった)


 君が、この世界からいなくなったのはそれからすぐのことだった。


 君は最後までずっと笑っていた。


 笑って、生きようとしていた。


 だから僕は今日も笑って生きようと思う。


 君のいない世界の中で。


 君のいない明日に向かって。


 ……音のない、世界の中で。


 明日の音 終わり

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