第2話

「ほれ、飯だ」

「何これ?」 「たくあん。」

「……」

人の家の手前文句を言う訳にもいかず

不服ながらも口へ運ぶ。


「不味いのか」

「うーん..まずいって言うか、なんか物足りない?」

「文句言うな、決まってんだ。

飯は漬物とお湯だってな」

封印石で漬けた漬物と、温めた聖水を摂り入れる事で内にも結界を張る。

「しんど..味の濃いハンバーガーが食べたい。」

「ジャンクフードかぁ?

やめとけ、タチの悪い動物霊が寄ってくるぞ。トゲの首輪ついた犬とか」

「絶対ブルドックじゃん..。

スコティッシュフォールドがいいな」

「なんで癒されるんだよ、除霊だぞ?

一番恐怖と遠い生き物だろ」

世界で一番可愛い生き物は悪霊を寄せ付けない。彼等の可愛さは、生死を区別しないからだ。

「なんでこんな事しないといけないの

坊さんみたいだよ。」

「なんせ下級だからな、ここまでしねぇと正気が保てない」

「...クソザコが。」「なんだ?」

聞こえるか聞こえないかの辺りを彷徨う音量で伝えた。こういうところ女子は上手い。

「今何日目?」

「1日も経ってるかバカ!

まだ数分だ!ほぼ初対面だ!」

「人見知りかよ。」「違ぇよ!」

招いた客にマウントを取られる、霊媒師が見下せるのは霊だけだがその霊にも対して勝てないコイツは仏ですら無い。


「そういえば名前は?

忘れてた、外にも書いてないし。」

「名前か。畜斬...珋巌だ」

「ゴツっ!」「うるせぇな!」

畜斬珋巌ちくざん りゅうがん

それっぽい名前だが親が正式に付けた名前である。

「代々霊媒やってるからな、イカツい名前つけやがるんだよ。」

「大変だね、嫁に行ったら名字畜斬になるんだ」

「お前はなんてんだ?」

「私?

私は季夜呈きゃんてぃす

早乙女 季夜呈」

「キラついてんな。」

「でしょ、親が付けたの。

だから他人事ではないんだよ」

目立つ名に霊も寄ってくるのだろうか

恐ろしいのはこの女が珋巌よりも霊に強い事だ。

「そんなに活発な方じゃないけど、三日間ここにベッタリはキツいなぁ。」

「いいからじっとしてろ、俺のときもそうだった」


「経験あるんだ。」

「修行だとか言ってジジイにな、そのせいで力が萎縮したんだが」

先駆者は偉そうな顔で若者を殺す。

彼もその内の一人だ。

「上手くいかないよ、きっとこの世に生を受けた時点で誰かのいいなりなんだよねー。」

「OLかよ..」 「OLだよ」


「OLなの?」 「そ、OL。」

取り憑き系OLのキャンティスはいつも肩が凝る、原因は上司のセクハラでなない。

「不審な男の人が私に触れようとすると武士みたいな男の人が斬るんだよねいつもギリギリで刀当たらないけど」

「は?」 

「ホントだよ、いつも見てるもん。」

威厳ある武士の魂

結界の内側にいるから、この家の名残りだと思ってた。

「お前それ..守護霊じゃん。」「え」

違和感は感じていた。

ここに来て身体に及ぼす霊障の程度を測ったとき、彼女は普通なら〝既に死んでいる〟ほど膨大な影響を受けていたのだ。

「家系図とか先祖に強い武士がいたりする事は無ぇか?」

「聞いた事無い」「嘘だろじゃあ..」

「...何よ。」「後天性かもな」

霊感が強く、多くの霊を集める者は稀に強い霊を守護霊にする事がある。それは元々憑いている守護霊と入れ替わり交代する事となるのだが。

「お前さんの場合は、元々守護霊が憑いてなかった可能性が高い」

「誰も守って無いの私の事!」

「憑いていたなら程度が知れる。

極端に強すぎる奴は憑かねぇ筈だ」

対話を始め、己の上位互換程度の力加減で託すのが定石。


「親の代の連中の霊感は強いか?」

「おばあちゃんが強かったわ」

「それだ、お前のババアが強すぎて守護する側に味方の霊が廻れなかった」

「ババアって言うな人の祖母を!」

そのババアすらも凌ぐ謎の武士、有名な名では無さそうだが本気の手練れというものは肩書きに捉われないもの。

「..見てよ、邪気が斬られてる。」

「不純物を物理的に斬れるのか、ていうか邪気ってわかんだなお前」

見慣れてる貫禄、珋巌にはせいぜい黒く濁っているくらいの印象しか持てなかった。

「見てる景色が違うってこの事か。」

「どう見えてるかわからないけど

触れることが出来てるよ、彼なんか」

感触感覚はどう響いているのか、理解する前に自然と否定の言葉が口に乗って流れていた。

「取り敢えず結界から出てくれるか」

「え、なんで!」

「耐える為にやってんのにとんでもないバケモン持ってくるからだろが!」

「私が持ってきた訳じゃないよ!

なんか勝手に憑いて来たの!」

「だとすりゃより問題じゃねぇか‼︎

ほっときゃガンガンに寄ってくるぞ」

外側ならまだしも、既に内側に構えている名も無き武士は、いくら味方といえど信用はならん。

「対話とかできねぇのか!?」

「対話ってどうやって!」


「知らん!

なんか話し掛けてみるとかしてみろ」

「そんな無茶苦茶なの...」

言われるがまま背後に振り向き声を掛けてみる。

「すみません、侍さん..?

少し、お話聞かせてくれます、か。」

「……」

返事こそ無いが何かを感じる。数分後ふらりと倒れ、芯を抜かれたように喋らなくなった。

「あ、おい..お前なにやってんだ...」

近付いて揺さぶっても返事は無く、ぐったりとしている。止むを得ず放置し暫くそのままにしていると、徐々に口を開き言葉を発するようになった。

「……黄波又城....」「..なに?」

「将軍の首..待ってる...」「……。」

明かされる幾つかの言葉、意味はわからないが関連は深そうだ。


「……はっ!」「なんだよ。」

「私、今なんて..?」

「..城がどうだの、将軍がどうだの」

「あっ、そうだ!そう!」

気を取り戻して素面でも余り落ち着いた様子は無く声を荒げて物事を伝えようとしている。指摘してモーションを増やすのも面倒なので、敢えて粗いままその現状を愉しんだ。

「黄波又城です黄波又城!

彼はそこに仕えてた侍だったみたい」

「黄波又城?

聞いた事無ぇぞそんな城」

「...場所は知っています。

そこに全ての原因はある、みたいで」

「〝みたいで〟ってお前..」

「まだ時期が早い、今日はもう一日が終わろうとしている。..二日後に、そこへ共に向かいましょう。」

「俺もか?」「では。」

言うだけいえば近くの座布団を枕とし横になって眠ってしまった。

「どっちの言葉だそれ、お前か?

それとも中の時代遅れか..?」

同居人か三人。いや、もしかすればもっと多いかもしれない。今夜はしっかり眠れるだろうか。

「おやすみなさいの意味が知れるな」

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