薄霊《はくれい》の才能
アリエッティ
第1話
「ふうっ!」
これで最後。
あらゆる場所を点々として良くならなかった身体、ここで治らなきゃあ...
「頼むわよ。」
音を立てガラガラと引き戸を開ける。
すると中から男が立て膝で言う。
「いらっしゃい、何の用で?」
「一つしか無いでしょ、除霊だよ!」
「...ま、そうか。だよな」
霊媒師の元へ訪れた者の目的などこれに限る。実態の無い不調に苛まれる煩わしい〝霊障〟を解消する為に門を叩いた。
「治せるの?」
「そうだな、やってみないとわかんねぇが一つ言っておきたいのは..俺はお前さんが巡った誰よりレベル低いぞ」
「どゆこと?」
さらりと疑問を付与する、これも霊障の一つだろうか。
「やっぱ知らなかったか、霊媒師が次に紹介するのは自分より劣った奴。上の奴に手柄を渡したくないからな」
「...あっ!」
言われてみると確かに紹介された場所を巡ってきている。その度に、仕様と金額が質素なものになっているのも感じていた。
「そういう事だったのね..。」
「気付くだろフツー。
まぁいいや、見せるだけみせてみろ」
「うん、なんか右の肩が痛くて..」
正直期待はしていない。
結構な額を払って無理なのだから、こんな小さな小屋に居る霊媒師には無理だろうと凄まじく甘くみている。
「あー確かにいるなー、大変だな。
右肩ね...ホリャ!」
「あっ..!」
薄い縦長の冊子で肩を強めに叩かれた
「痛..なにするんですか」
「軽くなってねぇか?」「え...」
確かに肩が良く動く。押されているような鈍痛も、不快に感じる重みも無い
「治った..!」「良かったな。」
「でも、なんで?」
誰も解消出来なかったものを治せる程の逸材には見えないし、人には悪いが一時の気休めな気さえする。
「姉さんに憑いてたのはそこらの動物霊だ、腕が良すぎる連中は大口だから逆にこの手の小物は祓えねぇのよ」
大御所にでもなると、完全に慈善事業では無く金額でものを考え始めるので大悪霊の霊媒を鍛え始める。結果過去に覚えた小手先の技術は忘れてしまうという訳だ。
「動物霊..嘘、じゃあ何ヶ月も私を苦しめてたのは悪霊なんかじゃなくてそこら辺の狐とか、犬だっだワケ?」
「まぁイカだけどな。」「イカ⁉︎」
主張が無い分粘着質なのだ。
「これでもう大丈夫なの?」
「一先ずはな、だけど見たとこアンタとんでもない霊媒体質だ、スキがありゃ霊が寄ってくるぞ」
「どうすればいいの..?」
「そこらのイカでこれだからな、仮に怨霊でも取り憑いたらどうなるかね」
「だからどうすればいいのって!」
ケタケタと不幸を笑う男に腹を立てるしかしそれもまた彼の糧になる。
「ま正直?
俺に悪霊は祓えないからな、どうにかすんなら自分で克服するんだな。」
「そんな無責任な..!
どうすることも出来ないから頼って来たのに。」
「そういう事を言ってんじゃない。
限界があるっていってんだ」
「限界?」
「さっきも言ったろ、俺は下級の霊媒師だってよ。できる事は限られてる、それ以上を望むなら、自分自身でやればいい。」
「もしかして...。
私に除霊しろって言ってる?」
「何度もそう言ってんだろだから」
「何度も言わないでよそんな事、一度でもウンザリだわ。」
着物を着崩し襟をはだけて見るからに怠惰で適当だが見かけ通りの奴だった
「頼んだのお前だろ。
だから応えてやってんのに」
「何処が応えてんのよ!」
「..部屋の四隅見てみろ。」「え?」
四角い部屋の角には一枚ずつ、文字の書かれた札が張り付いている。
「何これ..」
「四隅を取って結界を張ってる。
並の奴が素面で中に三日もいりゃぶっ倒れるだろうぜ」
霊を連れてくる客をひっきりなしに相手する霊媒師は能力が強いがその分霊障が客よりも伴う。というより、客の霊障や遺恨を肩代わりしているようなものだ。
「お前なら、この質量にある程度耐えられる力があるかもしれねぇ。霊媒師の素質があるかは知らねぇが、無くても肩は軽くなるだろうよ。」
「え…」
ようは三日間居座って息苦しい部屋で過ごせという事だ。
「ご飯は?」 「出る」
「お風呂は?」 「入れる」
「金木犀の香りのクリームは!」
「..何だそれ?」
「ないの」「どこまで求めんだよ!」
女子の欲は尽きず貪る。
人にもよるがそれこそ悪霊の如く。
「だったらやるわよ..」
「..結構物分かりいいなお前」
悪霊は地縛霊になった。
「先にも言ったが俺は下級霊媒師だ」
「それが何よ?」
「正直この部屋の重みには耐えられてねぇ」
「はぁ!?」
ダレていたのは無気力だけのせいで無く、空間の圧にやられていたせいだ。
「だけどお前はどうだ?」
「..少し重いけど、別に。」
「やっぱりか、取り憑かれたやすい分耐性があんだな」
「ちょっと待って!」「なんだよ?」
「おかしくない?」「だからなにが」
ここに来るまでの経緯から、一つの大きな疑問がある事に気付く。
「私ここ以外にも霊媒師に会ったけどみんなきちんとしてたし、結界みたいのが張ってある感じもしなかったよ」
他の霊媒所は、かっちりと服を着て、中身も座敷や小屋では無く事務所、机があり椅子がありとオフィスの一角のようなつくりになっていた。
「どういう事?」
「その時点で気付けって。」
軽く突き放された、納得はいく筈も無く食ってかかるが同じ調子。
「説明してよ!」
「だからよ、結界張ってないんだろ?
なんでかわかんねぇのかよ。」
勿体ぶって教えない。いや、教える必要が無いといった口調で話した。
「わからない」
「...いいか?
サメってのは四億年形を変えてないんだぞ。」
「急に何?」
長い間環境や状況に応じての防御耐性を取らずに生きてきた生き物だ。
「それがどういう事かっていうとな、四億年の間形を変えて補う程の天敵に遭遇しなかったってことだ。」
強者は備えずとも拳を出す場所がそもそも少ない。
「もしかして..何も結界を張ってないってこと?」
「そういう事だ、邪のエネルギーをそのまま野放しにして自然に立ち消えるのを平然と待ってる」
「そんな事、できる訳..?」
「できてるからバケモンなんだろが」
本当に怖いのは人間というが、単純な話だ。実態のあるものは直接的に、拳を振れば顔に当たる。質も威力も死んでるものより深過ぎる。
「私にそこまでの度量があるの?」
「知らん。」
「へっ?」
「お前ってホント何度も聞き返すよなわかんねぇって言ってんだろ、わかんないうえで俺にやれる事が無ぇから部屋に隔離して閉じ込めんだよ。」
「なにそれ、厄介者扱いじゃん!」
「今のお前はインフルエンザ患者だ」
インフルエンザからインフルエンサーへ、史上類を見ない転身は成功するのか..他人行儀な大検証が始まった。
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