第48話 ヴァイストレーネ
──異世界の魔物でも、ここまで醜悪な生物は存在しなかった。
目前にいる化け物に目を向けながら、そのあまりの歪な見た目に桔梗は顔を歪める。
……それはあまりにも生物を冒涜していた。
ライオン、ウサギ、カメ、ウマ、カマキリ……そして人間。
地球上に存在するそれらをまるでちぎって無理矢理貼り付けた様な歪な体躯。そして化け物は一定の形を保たず、様々な動物の様々な部位を切り離し、違う箇所と繋ぎ変えたりしながらグチャグチャと常に形を変えている。
言葉を失う桔梗と少女達。
……それにしても一体この化け物は何なのか。
当然ではあるが、地球にこんな生物は居ない。仮に異世界の生物だとしても、そう簡単に世界は渡る事などできやしない。あれは神かそれに近しい者だけが行えるものである。
……ならば、この化け物は。
桔梗は化け物をじっと見つめる。するとその奥底から魔力の様な、しかし少々異質な力を感じる。
「ごしゅじんたま、てれびのとおんなじだね」
ラティアナが無邪気に声を上げ、桔梗はこれにうんと頷いた。
そう、ラティアナの言う通りこの異質な魔力はテレビや校舎裏で感じたものと同じであった。つまり今まで何件か起きていた建造物破壊事件はこの化け物の仕業という事だろうか。
いや、なにはともあれ──
「やるか」
知性の感じられない化け物。こんなモノを街に解き放てば、一体何人の犠牲者が生まれるかわからない。
……ならばここで止めるしかない。
「ご主人、私も一緒に──」
「──いや、ここは僕1人でやるよ。だからみんなは万が一にも人が近づかない様に、周囲を警戒していてほしい。……後、彩姫は沙織さんをお願い」
彩姫と、彼女に肩を支えられながら呆然とする沙織の方へと桔梗は視線を向ける。彩姫は力強くうんと頷いた。
「桔梗……」
リウが不安げに桔梗を見つめる。
桔梗は安心させる様に微笑み、彼女の頭をポンポンとすると、
「大丈夫。かなりの力を感じるけど、精々準魔王級。すぐに終わるよ」
桔梗の言葉に、リウは安心した様に頷く。
「桔梗、頑張って」
「うん。ありがとう、リウ」
「ご主人頑張るっすよ!」
「桔梗様ファイトですわ!」
「ごしゅじんたま、がんばれー!」
「桔梗、頼むわよ」
「き、桔梗様……どうかご無事で」
「うん、ありがとうみんな」
言葉の後、皆散り散りになった。こうしてこの場に残ったのは歪な化け物と桔梗の2人だけ。
「さて……」
再度化け物へと視線をやる。
相変わらず醜悪な見た目をしている。そしてグチャグチャと常に形を変えてはいるが、その場から動く事は無く、また特別襲いかかって来る事もない。
恐らく知力は無い。そしてどこが口かすらわからないが、どちらにせよ言葉を話する様子も無い。
しかしあいも変わらずその化け物は周囲に強い殺意を放っている。
射程内に入った瞬間に襲いかかってくるタイプだろうか。
……何にせよ、あまり大規模な攻撃はできないし、させてもいけない。すぐに終わらせよう。
「おいで」
桔梗が目を瞑り念じる。
すると彼の右手に徐々に光が集まっていき、何かを形作っていく。そして数瞬の後、桔梗の手には純白の剣が握られていた。
「まさかまた君の力を借りる事になるとはね」
言って愛剣、ヴァイストレーネを慈しみの篭った目で見る。
もう戦闘で握る事は無いと思っていたばかりに、少々複雑な思いもあるが、ひとまず討伐が先と化け物へと向き直る。
「ごめんね、時間はかけられないから……一撃で終わらせるね」
言って桔梗がゆっくりと地を蹴る。
瞬間、化け物が並の人間ではまず間違いなく知覚できない速度で桔梗の命をかろうと攻撃をしかけてくる。
音速などゆうに超える速度で行われる無慈悲な攻撃。
しかし桔梗はそれを、まるで赤子の手を捻るが如く余裕で避けると、すれ違い様にヴァイストレーネを一閃した。
怪物に光の筋が走る。そしてそこから侵食する様にじわりじわりと光が広がり、遂に化け物を包み込んだかと思うと、霧散。
次の瞬間には、そこに化け物の姿は無かった。
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日本に帰還した元ぼっち、異世界ヒロインと現実世界を謳歌する 福寿草真【コミカライズ連載中/書籍発売中 @fukujyu7575
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