第39話 モヤモヤ

 いつもの二人で過ごす週末。今日は日曜日だ。

 昨日は元々用事があると言われていて会わなかった。

 話を聞いたときは「分かった」と頷いたけれど、ふと「用事ってなんだろう」と思い始めてからは気になって仕方がない。

 彼女の全部を聞かなきゃ落ち着かないとか、どんな束縛野郎だよ。

 確実に捨てられる未来が待っている。

 でも、気になるしな……。

 考え込んでいたら真奈に様子がおかしいと思われるだろうし、悩んでるオーラを出しながら「昨日の用事って何?」と聞かれた方が重いだろう。

 もう軽い感じで聞いてしまえ、と思い、それを実行したのだが――。


「友達が参加したサークルの歓迎会に参加して来たの」

「ふうん」


 聞いたら余計モヤモヤする感じになってしまった。

 俺のモヤモヤワードトップ3の中の二つ、『大学の友達』『サークル』が入っていたから。


 真奈の友達は元々あまりいい感じがしていないし、『サークル』なんてものは不純異性交遊の温床だと思っている。

 絶対そうだ!

 俺の友達に言うと「漫画の読み過ぎだろ!」と言われるけど、俺達高校生よりも金と自由を手に入れた奴らがハメを外さない分けがない。


「気になる? あ、皆で撮った写真あるよ。見る?」

「見る」


 写真が表示されたスマートフォンを受け取り、審判する。

 何を審判するのかと言われたら分からないけれど、とにかく判定するのだ。

 そこに映っているのは二十人くらいの大学生だ。

 お洒落な人達が集まるサークルなのか、Aグループ感が凄い。

 クラスカーストの上位陣が集まりました、みたいな感じがする。

 俺的にアウトな方だ。

 面白くない。

 イケてるフレンズもイケてるメンズもあまり見たくない。


「眉間に皺寄せてどうしたの?」

「別に」

「嘘。じゃあ、これはなあに?」


 真奈が人差し指で眉間をぐりぐりする。

 何だそれ、結構気持ちいいぞー……長時間されると寝そうだ。

 猫にでもなった気分だ。

 真奈に飼われる猫だったらいいな。

 猫だったらつまらない嫉妬とかしなくていいし。


 大学生活を満喫している真奈を目の当たりにすると、別世界に行ってしまったよう寂しくなる。


「お酒飲んだりしてないよね?」

「もちろん! まだ未成年だもの。遥が飲めるようになってから、一緒に解禁するね」

「うむ」


 眉間の皺を寄せたまま偉そうに頷くと、真奈がぐりぐりを続けたまま笑った。


「……それ、なんか気持ちいい」

「じゃあもうちょっと続けるね。目、疲れてるんじゃない? またゲームばかりしていたでしょう」

「そんなこと……あるけど」






「エドワード様」

「うん? 真奈……?」

「想い人と間違われるのは気持ち悪いのでやめてください。本当に気持ちが悪い」


 ボーッとする頭を動かし、あくびをしながら瞼をしっかりとあけると、心底嫌そうな顔をしたユーノがいた。

 お前、気持ちが悪いって二回言ったな?

 ユーノの通常運転だからいいけどさ。


「俺、どれくらい寝ていた?」


 海を見てから領主の館に戻ってきた俺は、用意されていた部屋で資料を読み込んでいた。

 一通り読んだところで眠気に襲われ、仮眠をとったのだった。


「三十分くらいですね」

「そうか」

「お食事はどうされますか。サイファー様がご一緒されたいそうですが」

「いや。旅疲れとか適当に理由つけて断ってくれ。食事は軽いものでいいから、ここに持って来て欲しい」

「承知しました」


 綺麗な礼をしたユーノが部屋を出て行った。

 口は悪いがユーノは優秀だ。

 ここのメイドも見習え!

 ……と心の中で悪態をついたのは、領主の屋敷に戻ってからメイド達がこそこそとしていた噂話を聞いてしまったからだ。


「王子様がいらっしゃっているのに、領主様はご一緒に食事をされないそうよ」

「今はご多忙だものねえ」

「でも王子様よ? 王太子様だったら絶対にいらっしゃったわ。それに晩餐会を開く予定もないそうよ」

「そうなの? でも用意をしてあったんじゃないの?」

「王太子様が来ると思っていたからでしょう?」


 だってさ!!!!

 いや、いいよ?

 今まで楽をしてきた俺が悪いのだから。

 でも客人の耳にコソコソ話がダイレクトに入っちゃうっていうのはどうなの?

 俺の後ろにいたユーノが「ごほん」と喉を鳴らしたことで俺達に気づいたメイド達は真っ青な顔をして散っていったから、もういいかって思ったけれど。

「言うことを聞いてくれそうなコマを見繕えてよかったですね」と微笑むユーノをなんだか抱きしめたくなった。

 お暇を頂きます、と言われて去られそうだからしないけど。


 あとメイド達の言葉で察したのだが、領主達は俺に解決なんて望んでいない。

 むしろ解決出来なかったとアルヴィンが出てくることを待っているのだろう。

 残念ながらそんな時はこない。

 俄然やる気が湧いてきた。


 渡してきた資料もあまり有益なことは書いていなかった。

 どうせ読んでも分からないだろう、となめられているのかもしれない。

 もう一度催促するが、欲しい情報は自分出掴みに行こう。


「戻りました。食事をこちらに運ぶよう手配してまいりました。すぐにメイドが運んできます」

「分かった」


 窓の向こうの夜空を見上げる。

 今日は雲も少なく、月と星がよく見えている。

 真奈も変わりなく過ごしているようでよかった。


 だが――。

 妙なモヤモヤというか、不安が消えず落ち着かない。

 もう朧気になってきたが、先程の夢が影響しているのかもしれない。

 ……早く帰りたいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る