第1話 嵐の前の静けさ
女神が降り立った創世の地アストレアは現在、小さな島国として存在している。
周りは複雑な海流に守られおり、侵略しても他でも獲れるような資源しかないアストレアは戦争とは無縁だ。
女神が降り立った地として神聖視されているし、女神の加護があるので今後も争いを持ち込もうとする国はないだろう。
俺、エドワード・アストレアはそんな平和な国アストレアの第三王子だ。
死んで生まれ変わる『転生』をしていて、今は二度目の人生を謳歌中である。
王太子の第一王子と、言い方は悪いがスペアになる第二王子は王族らしいことをしているが、これといって役割のない第三王子の俺は自由にさせて貰っている。
だから母上、女王からの呼び出しなど滅多にないのだが――。
「今すぐ来いって?」
「はい。至急に、とのお達しです」
「この恰好でいい?」
「いいわけないじゃないですか……」
気の毒なことに、貴族の生まれで将来有望な美少年なのに俺というミソッカス王子の侍従をさせられているユーノが大きな溜息をついた。
俺も流石に土のついた作業着で母とはいえ女王の前に出るのは駄目だろうとは思ったが、ユーノが急かすから聞いてみたのだ。
「クーガさま、帰っちゃうの?」
「ええ? もう? 早いよ!」
わらわらと俺の周りに子供達が集まってくる。
ちなみにクーガというのは俺の偽名だ。
放任されてはいるが一応王子なのでトラブル回避のために素性は隠し、成金貴族の三男坊クーガで通している。
ここは城下街にある孤児院。
この孤児院の支援も俺が好きにさせて貰っていることの一つだ。
資金援助と時折教師としても関わらせて貰っている。
今日は子供達と畑で授業をしていたのだが、稀な呼び出しとあれば行くしかない。
「悪いな。急用が出来てな。帰る前に……はい、皆注目!」
俺の掛け声で二十人の子供達が一斉にこちらを見る。
「一人一つずつ、今から渡す種を植えてくれ。次に俺が来るときまで、それぞれ責任を持ってしっかり育てること! これは魔力を与えて育つ植物だ。どういう植物になるかはお前達の育て方次第だ。さあ、誰が育てた植物が一番立派になるかな?」
子供達は「僕が!」「私が!」と競い合うように手を上げる。
本当に可愛い。
純真無垢な瞳はきらきらと輝いている。
この植物で魔力の多い子を探し出し、色々手伝って貰おうという魂胆がある俺をそんな目で見ないでくれ。
「お? あー……降ってきたな」
畑を耕している間に空が暗くなっていて一雨来そうだと思ってはいたのだが、予想よりも早く降って来た。
「クーガ先生!」
ピンクのツインテールを揺らし、一人の女の子が目の前にやって来た。
「私が種を預かります! 明日晴れたら皆に配って植えますね!」
「おう。頼む。ありがとな」
子供達の中で年長、十三歳のユリアの申し出を有り難く受けて種を預けた。
頭を撫でると猫のように擦り寄ってきた。
ユリアは何故か懐いてくれているので、妹がいたらこんな感じなのかなといつも和ませて貰っている。
「お」
和んでいるとゴロゴロと空が鳴った。
嵐の気配がする。
「急ぐか」
「ええ」
ユーノを連れ、慌てて王城へと馬車で戻った。
途中で雨は更に強くなっていた。
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