【第7話】『ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました』
「ぜぇぜぇ…………死ぬかと思ったぞ」
ヴェルガーが出て行ったことで
「はぁはぁ……サトルさん」
机から
服は乱れており、呼吸をする度に実っているそのたわわな果実がポヨンと揺れる。
「どうした?
レジ
そんなことを考えるのだが……。
「ううう。あんなにあっちこっち
リリアナはそう言うとキッとした表情を作ると俺を
「これ全部運ぶのか……?」
目の前に積まれた木箱は大小
「はいなのです、3日後に始まる遠征の物資が入ってるのです。これを倉庫から馬車置き場まで運ぶのがリリーの仕事なのですよ」
全く動じることなく笑顔で返事をする。俺は
「これ一体、何キロあるんだよ……」
持てないことはない、スーパーで10キロの米袋を持って帰ったこともあるのだ。
だが、これは明らかにそれより重たかった。
「それにしても本当に手伝ってくれるのです? 結構重いのですよ?」
気が付けば横から
この期待の瞳を裏切ることはできない……。
「ははは、
咄嗟に出てきた言葉で後には引けなくなった。
「そうですか、ではサトルさんはそちらの箱をお願いしますなのです。リリーはこっちをやるのです」
リリアナが指差した先にあるのは俺が運ぶ物より一回り大きい木箱だった。
「あまり揺らさないようにお願いするのです」
持ち上げてバランスを取っているとリリアナが忠告してきた。
「もしかすると割れ物とか入っていたりするのか?」
「中身は日持ちする食料なのです、軍用なので結構な量が入っているのですよ」
どうりで重いわけだ。平均的な大学生男子でも
「では、リリーも…………えいっ! なのです」
「は? えっ……?」
俺は信じられない光景を目にしていた。背の低いリリアナが自分の身体よりも大きい木箱を軽々と持ち上げたのだ。
「さあ、数もあるのでさっさと片付けるのですよ」
ケモミミが「このぐらいよゆー」とばかりにピコピコと動く。尻尾はバランスをとるためなのかフリフリと左右に揺れる。
俺は、
目的地は彼女しか知らないわけで、ここで見失うと俺は一人で知らない場所に放置されることになる。
「サトルさん、平気なのです?」
下から覗き込むようにリリアナは俺に話し
「……ごめっ……ちょっと……待って…………息整える……から」
俺は時間を掛けて空気を吸い込み息を整えた。
「これ、本当にリリアナ一人でやるつもりだったのか?」
正直
これをリリアナ一人に押し付けるとか
「はいなのです、遠征は3日後からなので、明日中に運べれば問題ないのですよ」
特に気負うことなく答える。
もしかして、この程度の仕事は慣れているということか?
「こっちの人って
もしかするとこの世界の人間にとっては大した作業じゃないのかもしれない。
それならば俺も男としてのプライドは保てる気がする。だが──。
「いえいえ。リリーが特別なのです」
どうやらリリアナが特別らしい。そうなると
俺は
「そんなことよりあと99往復なのです。さあさあはりきっていくのですよ」
そう言って
「さあ、次なのですよ」
目の前には積み上げられた木箱があと198個もある。
俺達は倉庫から戻ると再び荷物の前に立っていた。
1個や2個ならばなんとかやり
ただでさえ体調が悪いのだ、高く積み上げられている荷物を見ると頭がくらくらしてくる。
俺は
それならば俺も
「リリアナ、全部の荷物をあっちに運べれば良いんだよな?」
「はいなのです。だから時間が掛かるのですよ」
掛かるのは時間だけではないと思うんだけど……。
台車も無しに10キロを超える荷物を離れた場所にある倉庫まで運ぶとか、
リリアナにさり気なく聞いたところ、増員はあり得ないとのこと。他の人間は
「ちょっと手を貸してもらえればすぐに終わらせられるんだけどいいかな?」
リリアナは俺の言葉に耳を
「それで、一体どうするつもりなのです?」
リリアナは大量に積まれた荷物を前に俺に質問してきた。
期待に胸
俺は決意をすると。
「こうするんだよ」
手を
「な、なな、なんなのですっ!」
ケモミミがピンと立って
必死な形相で光の輪から距離をとった。
「これは俺の転移
「転移魔法っ!?」
この現象を起こしたのが俺だとわかるとリリアナは
そして
「倉庫が見えるのですよっ!」
「ああ、空間を
「すっ、
リリアナが感動した声をあげている。だが、体調を考えたところ、長時間は無理そうだ。
「とりあえず荷物をどんどん運ぼうか」
俺はそう言うと作業を
「サトルさん、大きい荷物が通らないと思うのです」
しばらくするとリリアナが当然の疑問を口にした。先程まで通していたのは小さい箱だ。
これは俺が両手で持ち上げられる程度の大きさしか無いので今広げているゲートで通すことができる。
だが、残る99個の荷物は
「うん、だからここからはゲートを広げるよ」
俺は意識を集中するとゲートの入り口を広げる。
以前、実験として人目に付かない場所でやってみたところ、30メートル
今回はとりあえず荷物を運べるぐらいの大きさにしてみる。
「リリアナ、悪いけど荷物をどんどん向こうに運んでもらえないだろうか?」
通常のゲートと
「
元気な返事をするとリリアナは大きな荷物を持ち上げる。
「ゲートの光の輪には気を付けてな。ぶつかると箱が傷つくかもしれないから」
通る前に注意をしておく。以前行った実験で、ゲートの輪はどうなっているのか
どうやら輪の部分はかなりしっかりしているようで。試しに鉄パイプでぶっ
そればかりか、
強度的には金属よりも
リリアナは俺の指示を聞くと次々に箱をゲートの向こう側へと運んでいく。
その時間は実に10分ほど。
すべての荷物を運び終えたリリアナから声が掛かると俺もゲートの向こうへと移動する。
そうすると、俺が通ると同時に出口は
「あっという間に片付いたのです。サトルさん凄いのです」
リリアナは
「でも、こんな凄い能力をどうしてリリーの
リリアナは首を
「そりゃ、大変そうだったし、普通助けるだろ?」
女の子一人でやる仕事量じゃない。手伝わない方がおかしいのだ。
俺は正直な言葉を言ったのだが、リリアナは大きく目を見開く。
「……リリーは、こんなに
「そうなのか。まあ、俺にできることなら力を貸すからさ」
「あ、ありがとうございますなのです。サトルさん」
リリアナは顔を上げると目を
「お、おいっ!」
行動が読めなかったので驚く。リリアナの
嬉しそうに抱き着いてくるリリアナ。俺はそんなリリアナにどう反応して良いかわからなかった。
【期間限定公開】ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました まるせい/ファンタジア文庫 @fantasia
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