【第6話】『ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました』

「それじゃあサトルさん、ご質問をどうぞなのです」

 どうにかりようしようもらった俺はせきばらいをすると目の前の少女を見つめる。

「リリアナさんだっけ?」

 この場所に着いてからお互いに自己紹介した時の名前を思い出す。

「呼び捨てでいいのです。多分、リリーの方が年下なのです」

「わかったリリアナ。じゃあ質問だ。ここは一体なんだ?」

 恐らくは日本ではない、俺はじっとリリアナを見るとその獣耳を見つめる。

「ここはプリストン王国のお城なのです。その地下にある儀式場の手前にある図書室なのです。リリーの部屋でもあるのです」

「…………プリストン王国……城」

 その単語に聞き覚えは無い。恐らくは海をわたったのだと推測できるのだがそれでは計算が合わない。

 能力の検証の結果だが、俺の転移には一度で移動できるきよに限界がある。流石さすがに海をえる程の転移は不可能なのだ。

 こうなると考えられるパターンは二つあるのだが……。

 いずれにせよ聞いたことも無い国なのだ。これだけでは俺の推測を裏付けるには至らない。

 なら、世界には俺の知らない国が存在しているかもしれないのだ。ここがそうだという可能性は否定しきれない。

「次はリリーの番なのです」

 次はどんな質問が来るのだろう?

 恐らく彼女は俺のじようを疑っているのだろう。城の地下、しんにゆうするのは実質不可能な場所である。

 そんな場所にいたのだ。恐らくはするどい質問が飛んでくるのだろう。

 リリアナは俺のそばに置いてあるレジぶくろを指さすと……。

「それ、何なのです?」

 かんづめに興味を向けた。

「……これは缶詰だけど」

 見たまんまの答えを言う。

「カンヅメ?」

 耳がピクピクとこうしんで動く。

「この中には果物が皮がかれた状態で入ってるんだ」

 ガサガサと袋から取り出してリリアナに渡すと。

「ほー、へぇー、かたいのです」

 感心して缶詰をくるくるとまわす。多分だが、家で食べようと思ってドラッグストアで買ったにちがいない。

「食べてみるか?」

 あまりにもじやな態度に俺のけいかいしんゆるむと。

「良いのですか?」

 ケモミミがピョコンとねて返事をした。

「このぐらい別にたいした物じゃないし」

 俺はプルタブを開けると缶詰のふたを取りはらう。

すごいのです。プシュっていったのです」

 はしゃぐリリアナを見ているとしくなってきた。

「フォークは無いし……はしは……」

 レジ袋をあさるが見当たらない。

「食べて良いのです?」

「良いけど……」

 流石に手でつかむのは不味まずいだろう。食器を貸してくれとお願いしようとすると、

「甘いのです、そして美味おいしいのです」

 リリアナは手摑みでそれを食べ始めた。

「こっちのこれは酸味がいているのです。こっちはすごく甘いのです」

 パイナップルやももの果実を食べるたびにリリアナの表情がコロコロ変わる。

 ケモミミもプルプルとふるえたかと思うとへにょ~んと伸びたり感情と完全に連動しているのが見て取れる。

「サトルさんは食べないのですか?」

 ちゆうでそんなことを聞いてくるのだが、腹を空かせた子どものような勢いなので手を出したらかじられそうだ。

「俺はいいよ」

 反射的にそう答えていた。

「とても美味しかったのですよ」

 缶詰の中身を食べ終えてしるまで飲んだリリアナは、幸せそうな顔でぼーっと中空を見ていた。

「えっと……次質問良いか?」

 先程から何を聞こうかなやんでいた。どの質問も優先度が高く、判断するのに必要だったからだ。

「良いのですよ、何でも聞いてほしいのです、リリーは何でも答えるのですよ」

 じようげんに尻尾をフリフリさせるリリアナに俺は質問をした。

「その尻尾と耳ってだれもが持ってるものなのか?」

 にせものではないらしく、とても感情表現豊かに動き回っている。

 もしこの姿がデフォルトだというのなら俺の推測が真実味を帯びるからだ。

みなではないのです、リリーはゴールデンフオツクスの血を引く獣人なのです。金狐族の希少な能力を持っているのです、えへんなのです」

 そう言ってほこらしげに胸を張ってみせる。子どもがめて欲しそうに見栄を張っているようで微笑ほほえましく感じた。

「なるほど……ね」

 俺はだんだんと自分の転移ほうがとんでもない方向に開花した事実に気付き始めた。

 獣人の存在。聞いたことの無い国名。そして能力。

 いずれも生まれてこれまで聞いたことが無い。ある例外を除けばだが……。

「じゃあ次に聞きたいのだけど…………」

「サトルさんずるいのです。次はリリーが質問する番なのですよ」

 確かに連続で質問してしまった。カードゲームもルールを守って楽しくプレイしようと言われている。

 ここはルールに従うべきだ。

「このカンヅメについてですけど、リリーの知識ではこんな保存の仕方聞いたこと無いのです、もしかしてサトルさんは異世界──」

 リリーがカンヅメをき付けて何かを聞こうとしていると──

「リリアナはいるかっ!!」

 ドアが激しくたたかれた。


「大変なのです、ヴェルガーさんが来たのですよ」

「ヴェルガー?」

 とつぜんあせりだすリリアナに俺は聞き返す。

 あたふたとしているリリアナ。

「こんなところ見つかったら大変なのです。ああ……かくれられる場所が無いのです」

 そう言って焦りながらも周囲をわたす。ベッドの中はふくらみでバレるだろうし、ほんだなすきは入り口から丸見えだ。

 この部屋でとつに姿を隠せる場所は無い。俺がそう判断していると──

「こうなったら……」

 リリアナは立ち上がると俺の手を引く。そして机の下の空きスペースへと俺をゆうどうすると、

「えっ? ちょっと!」

 俺のこうを聞かずにし込まれる。そして俺の顔がやわらかい何かではさみ込まれる。

「どっ、どうぞなのですよっ!」

 リリアナはに座ると仕事をしているふりをして来客に呼びかけた。

 乱暴にドアが開く音が聞こえる。そしてツカツカと歩く音が止まると、

あたえられた仕事は終わったのかリリアナ」

 げんそうな男の声が頭上より聞こえる。

 その声にリリアナはビクリと反応したのか太ももがギュッとめられる。

「い、いいえなのです。これからやるところなのです」

 おびえているのかプルプルと震えている。視界に入らないが尻尾しつぽがわさわさとれている気配がする。

「まだ終わっていないのかっ! えんせいは3日後にせまっておるのだぞ、貴様は国家に属する意識が無いのか?」

 り声にビクリとして締め付けが強くなる、それと同時に俺の顔に何かが押し付けられる。

【画像】

「い、いえっ、決してそのようなことは無いのです。でも、殿でんからは無理をしなくても良いと言われているのです」

 太ももで完全に固定されて動くことができない。その上、現在俺の口と鼻は柔らかい何かに押し付けられているので呼吸ができなくなっている。

「なんだ貴様? 殿下の名前を出せば俺がビビるとでも思ったか」

 男の声が頭上からひびく。俺は何とか少しでも酸素を取り込もうと口を動かすのだが…………。

「ひゃっん!」

 リリアナの声がした。みように色っぽくて思考をうばわれる声だ。

「何だその声は、鹿にしておるのか?」

 俺はリリアナに気付いてほしくて両手を左右に移動させる。そして──

「んっくぅ……。い、いえ、決してそのようなことは──」

 リリアナの太ももを叩く。そうすることで、挟み込んでいる太ももから解放されて、距離を取るためだ。だが……。

「──お、思って無いの、で、すよぉぉぉぉ───!」

 逆に力が入り、俺の口と鼻はますます、柔らかくも温かい何かにふさがれてしまう。

「だったら、すぐに作業にかかるんだな。一秒でもおくれたらひどいことになると思え」

 頭上からはリリアナのつやっぽい、何かをこらえるような声が聞こえてくる。

 だが、こちらも限界が近い。俺は最後の手段に出ることにした。

「わ、わかりましたなのです。早急に作業に──えっ? ちょっと……」

 焦る声のリリアナ。俺は布地に手を伸ばすと温かい物にれた。

 太ももを開かせることをあきらめた俺は、リリアナの腹を押すことで物理的にきよを取ろうと考えたのだ。

 リリアナは何かを堪えるように身体からだを丸める。そのせいで、柔らかい何かが俺の手におおいかぶさる。

「ハァハァ。さ、さつきゆうに……作業させて……いただくのですよぉぉぉ」

 俺は限界をえると口と鼻両方がはなれるように、わらにもすがおぼれ人の心境で両手にあふれる何かを摑むと──。

「ふにゃぁぁぁぁ────ん」

 リリアナのなまめかしい声が響きわたった。

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