【第5話】『ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました』

第二章 異世界のケモミミ少女



「うぅ……頭がガンガンするぞ」

 意識がかくせいすると、もうれつな頭痛がした。

「なんでこんな状態に…………?」

 俺は二つの意味でつぶやいた。

 まず一つ目は。

「確か昨日は、バイトに行って何とか仕事を終わらせて、体調が悪かったから帰宅して……」

 意識がもうろうとしていたせいでよく思い出せない。

 俺は自分の状態を調べてみる。服装に関しては昨日けた時のまま。そして近くにはドラッグストアの買い物ぶくろが落ちている。

 おそらくだが、体調が悪いなりに買い物をして家で安静にするつもりだったのだろう。

 俺は周囲をわたすと、石造りのかべの部屋にいた。

 ちなみにこれが俺が呟いた二つ目の理由だ。足元にはほうじんのような模様がえがかれていて気持ちが落ち着かない。

 俺は気を失う直前がどうだったか思い出そうとするのだが……。

おくが無い……」

 こうしているからにはワープを使ったのだと思う。

 以前にも能力を使い慣れたころ、ちょっとした場所にぼけて転移魔法を使用してしまうことがあった。

 その時は大学であったり、アパートのであったりとだんからよく使う場所に転移していたので、今回みたいに記憶とつながらない場所に転移してしまったことにかんを覚える。

「それにしても……」

 こんな石造りの場所は見たことが無い。基本的に俺の転移魔法は一度行ったことがあるところにしか移動することはできないのだが…………。

「ここは一体どこなんだ?」

 見渡してみても見当がつかない。地下特有の重苦しく暗いふんにジメッとした空気。

「……まてよ。見たことあるぞここ」

 以前、能力が目覚めたきっかけとなった青白い光の輪。その先に確かにこの光景が広がっていた。

 かりとなるのはそのことだけ。ぜん、自分が置かれたじようきようは見えてこない。

 気がつけばのどがからからだった。この状況にきんちようしたのもそうだが、寝ている間にあせき、水分が失われていたらしい。

「とりあえず水でも飲むか」

 先日よりはましになっているが、まだ体調が良くない。動けないほどではないけど、安静にしていた方が無難だろう。

 俺は買い物袋の中からペットボトルを取り出すと一口ふくむ。そして気分を落ち着けると冷静に考えてみた。

「とりあえず、ここがどこかは知らないが、一度アパートに戻って休むとするか」

 今はこの最悪な体調を整えるのが先決。そう判断した俺は転移魔法を発動させようとするのだが……。

 ──ガタンッ──

 石造りの壁にはめ込まれた木のとびらが開いた。

「あれ? だれかいるのです?」

 可愛かわいらしい声がして誰かが部屋へと入ってくる。

「えっ?」

 現れたのは中学生ぐらいの女の子だった。耳をおおうような長いきんぱつに金色のひとみ。まだ美人と呼ぶには幼い容姿の割には一部が育っている。

「あなたは誰なのです? どうやってそこに入ったのです?」

 クリっとした瞳でこうしに見上げてくる。

「あれ? もしかして言葉が通じてないのです?」

 そう言って可愛らしく首をかしげる様子に。俺は完全に思考をうばわれた。


「それでは、お茶をどうぞなのです」

 あれから、ろうのような場所から出してもらった俺は、彼女にうながされるままに別室へと案内された。

 かなり広い部屋にほんだなが並んでおり、本がせいとんされている。

 読書用か物書き用なのか、テーブルの上には数冊の本が並んでおり、何かの作業中なのがうかがえる。

 その他には目立った物はなく、部屋のすみにはベッドが一つ置かれているので、この部屋はしんしつねているということが理解できた。

「まずは自己しようかいなのです。リリーはリリアナ=フォックスター。ゴールデンフオツクス族のなのです」

 こしまでびた金髪に金色の瞳。金のしゆうがされた純白のローブは前でボタンを留められるタイプだが、見た目の幼さに反して成長した胸がこれでもかと主張をしている。

 前開きしたローブのすきからはスモーキーベージュのスカートと黒のニーハイソックスがのぞいており、なまめかしい健康そうな脚がよく見える。彼女はあいきようのある顔立ちで、な瞳を俺に向けてきた。

「俺はサトル=カラヤマだ」

 一応この名乗り方で良いだろう。相手の名前からして異国を思わせる。ひとまず相手に合せておくのが無難だろう。

 何とかその言葉をひねりだすのだが、俺は内心で混乱していた。

 というのも、俺の視線は先程からある二点へとくぎけになっていたからだ。

「それで、どうしてあそこにいたのです? あそこはしき場でかぎが掛かっていたのです。つうは入れるはずないのですよ」

 ぎ早に発せられる質問に対しても俺は回答を持ち合わせていない。

「気付いたらいた」としか答えようがないからだ。

 だが、俺はそんなことよりもどうしても聞いておかなければいけないことがある。

「その前に一つだけ聞かせてしいんだが」

 彼女は「はいなのです」と聞き分けの良い返事をする。

 俺の中で、まさかという思いと、そんなことはあり得ないという思いがぶつかる。

 俺の視線がそっちに向き、彼女のそれがピクリと動きを見せる。俺は喉を一度ごくりと鳴らすと彼女に対して決定的な一言を放った。

「…………その耳と尻尾しつぽってかざりだよな?」

「いいえ、本物なのですよ」

 そう答えた彼女の頭部にはツンととがったケモミミが。そしてしりからはふさふさとした尻尾が生えていた。


「というわけで、昨日は体調が最悪で意識が朦朧としてたからわからないんだ。多分寝ぼけて入り込んだとしか」

 リリアナの質問に俺は何とか答える。

 記憶があいまいなのはちがいないので、なおに伝えることにした。

「……ふむぅ、それはみような話なのです。ここに入ってこられるはずが……。じゃあ次は…………」

 そう言って尻尾をりながらメモを取る。な学生のようだな。

「ちょっと待ってくれ」

「……何なのです?」

 続けて質問をしようとするリリアナに待ったをかける。

 このままでは質問攻めにあってしまう。

 俺にしても聞きたいことは山ほどある。ここがどこなのかも知らないのだ。そんなわけで──

こうに質問をしていこう。おたがいに知りたいこともあるだろうし、これなら公平だろ?」

 お互いに対等な関係であることを示すためにそう提案するのだった。

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