【第4話】『ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました』

「うぁ……頭痛い」

 俺はフラフラと道を歩いて帰宅していた。それというのも、本日バイトに向かったところ、顔色が悪いことをてきされたからだ。

 確かに数日前からどうにも体調が悪くなっているのを感じていたのだが、次々に入るバイトにかまかけて無視してしまっていたのだ。

 ポスティングのバイトを何とか終えると時刻は夜を回っていた。ちゆうでドラッグストアに立ち寄った俺は財布をポケットにしまおうとする。

 ふと足元に何かが落ちた。

「っと、証明書を落としちまった」

 よろけた際にポケットから落ちたのはバイトで使っている身分証明書だ。これはポスティングをする際に、自分がどの事務所に所属しているかを示すもの。

 中には変な客にからまれたり、警察に職務質問される場合もあるのでひつアイテムなのだ。すでに財布はポケットの中。わざわざ取り出すのもおつくうだった俺は上着にそれをしまった。

「それにしてもなんだこの痛み?」

 身体からだの節々が痛む感覚なのに、いざれてみるとかんしよくがない。まるで見えない血管が存在していてそこから痛みが発生しているような感じだ。

 意識がかすむ中歩いていると…………。

「ん? こんな時間に女子高生?」

 夜だというのにサングラスで目元をかくしてぼうをかぶっている制服姿の女の子が歩いてくるのを発見した。

 パッと見た感じだとスタイルが良く美人さんなのは間違いない。

「こんな時間にコンビニか?」

 この辺りは人通りがそれ程多くなく、現在は俺と女子高生がいるだけ。そして歩いているぐそこにはコンビニがある。いつしゆん、自分がしん者に思われやしないかと考える。

 すれちがいざまに見られたが、特に何事もなく通り過ぎる。

 ふわりとかんきつ系の良いかおりがした。

 何となく落ち着くにおいだった。俺は前を向き歩き出したのだが──

「えっ?」

 目の前がまぶしく光った。

 遠くから何かがすごい速度で走ってくる。それを俺はあわてて横にけるとその何かは物凄いスピードで走りけていった。

うそだろっ!」

 俺の横を通り過ぎたのはトラックだった。それも運転手がねむりをしている姿がはっきりと見えた。

「あぶっ…………」

 とつのことで舌が回らない。警告しようにもそのしゆんかんにもトラックは進んでいく。

 トラックが向かう先には先程の女子高生。彼女は俺の声が聞こえたわけではないのだろうが、音に気付いてり向いた。

「えっ?」

 彼女の声がする。だが、トラックはすでに目前にせまっており今からのかいは間に合わないだろう。

 次の瞬間に彼女がね飛ばされる。そう思ったのだが──


    ★


 私がコンビニに買い物に行こうと歩いていると大学生らしき男の人とすれ違った。一瞬だけ目が合ったのでけいかいをしたけど、どうやら顔色がすぐれないようだった。

 目的地のコンビニの明かりが私を照らし、ほっと一息つくのもつか。背後によくない気配を感じ取った私が振り返ると──

 眩しいばかりのヘッドライトが私を照らしていた。ソレは凄い速度で私とのきよめてきていた。

 私はきようを感じたが声を出すことなくこうちよくしてしまった。ソレの正体は居眠り運転でんでくるトラックだった。

 私は迫りくるしようげきに目をぎゅっとつぶると──

 次の瞬間。何かに落ちるような感覚の後、暖かい何かにきとめられていた。

「えっ? えぇっ!?」

 私は混乱している中、周囲に目を向ける。

 そうするとまず目に入ったのは男の人のむないただった。どうやら私をおひめ様抱っこしているらしく、目線が丁度こつに行く。

「……ふぅ、間に合った」

 彼はそうつぶやくと遠くを見ていた。

 そこではトラックがコンビニに突っ込んでいて、その音を聞きつけた近所の住人達が野次馬のように出てきている。

「おい、だいじようか?」

 男の人は私に話しけるのだけど、理解が追い付かない。

(トラックに撥ね飛ばされた私をこの人が受け止めてくれた? それにしては衝撃がほとんど無かったし、トラックはコンビニに突っ込んでいるのだから撥ね飛ばされたのならコンビニの中のはず…………だめだ……現状ではよくわからない)

 私はとにかく助けてくれたであろう男の人にお礼だけでも言おうと思ったのだが……。

「この場合はきんきゆう時だから仕方ないか……無理に転移ほうを使ったせいか…………頭痛がひどくなってきた…………」

 などとこちらを気にしていない様子だ。私は彼の思考がまとまるまで口をはさまずに観察していたのだが……。

 パチリと視線が合う。私はサングラスをしているので相手はわからないかもしれないが、こちらから見れば完全に見つめあう形だ。

 私はお礼を言わなければならないと思うのだが、異常事態にそうぐうしているということもあり、頭が混乱して何を言えば良いのかわからなかった。

だ意識が…………やばい、そんじゃな」

 その人は私を降ろすと左手で口元を押さえつつ右手を上げると次の瞬間消えていた。

「なんだったんだろ…………?」

 理解が追い付かない私を電話の着信音が引きもどす。

『もしもし、みな? 今ちょっと大丈夫? 次の映画のさつえいの件についてなんだけど──』

 相手はマネージャーだった。私は地面に落ちているソレを拾い上げる。

『何、あんた外にいるの? 何やらサイレンの音が聞こえてくるんだけどさ』

 サイレンの音を耳にしたマネージャーからげんな声が聞こえる。

「ええ、コンビニに行こうとしてたんですけど、コンビニにトラックが突っ込んでまして」

『はぁっ! それって事件じゃない。すぐにその場からはなれなさいよ。あんたは目立つのが仕事だけど、ギャラも無しでメディアにしゆつするのはNGだからね』

 電話の向こうでまくし立てるマネージャーに私は、

だかさん、一つ聞きたいんですけど」

『なに?』

ゆうれいって存在すると思います?」

 そう言った私の手の中には1枚のプラスチックのカードがにぎられていた。

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