【第3話】『ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました』

 俺がポスティングの仕事を見つけたのはぐうぜんだった。

 食堂で転移魔法をかせる仕事を探していた時、アルバイト情報誌を落としてしまったのだ。

 その時開いていたページに書かれていたのが。


『完全歩合制! 空いた時間でOK! 週1日から始められます』


 ポスティングのバイトしゆうだった。

 最初。俺は、労働者のきんせんよくあおるような文章に目がくぎけになった。こういうのは実態のない時給計算で労働者を安くこく使するのが目的なのだろう。

 いつたんはページをめくろうとした俺だったが、天啓が降りてくる。何故ならこのバイトは考えれば考えるほどに俺にぴったりだったからだ。

 ポスティングで一番手間が掛かるのは考えるまでもなく移動時間である。何せ、重いチラシを持ち歩かなければならないのだ。

 体力も消費すれば、時間もろうする。

 通常、慣れた人間でも1時間で配れるのは数百枚程度。大型マンションの集合ポストなどがある場所だと結構配れるようだが、この街の大型マンションは遠い場所にしか無い。

 なので、労力のほとんどが移動時間ということになる。

 一つのチラシ配りの仕事を終わらせるには早くても半日、普通の人間なら1日掛かる。慣れない人間や、チラシの配布範囲が一軒家ばかりだと2日掛かることもめずらしくない。

 だが、俺なら転移ほうを使うことでマンション間を自由に行き来することができる。必用な分のチラシだけを持ってばやくポスティングをしては自分の家に次のチラシを取りに戻る。そうすれば、少ない労力で素早くポスティングを終えることが可能なのだ。

「だけどこのバイトをするには解決しなければならない問題があった」

 それが、転移の際にだれかに見られては不味まずいということ。

「それもゲートで事前にそこに人がいないか確認することで解決した」

 そんな訳で、転移魔法の利用もふくめて効率が良かったのでやってみることにした。

「さて。それじゃあ次に配るチラシでも取りに行くか」

 考えてみると、家に取りに戻れるというのは大きなメリットだ。

 一枚がうすいとはいえ、チラシも紙でできている。一束にもなれば結構な重さになるのだ。

 俺は鼻歌を歌うと自分の家に転移するのだった。


「ただいま戻りました」

 このバイトを始めてから1ヶ月が経過した。

「あらっ、いつも早いわね」

 事務所に戻るとOLさんががおむかえてくれる。

 最初は不愛想だったのだが、毎日仕事をこなしていく内に段々と認めてくれるようになったのだ。

「結構とばして帰ってきましたから」

「事故にだけは気をつけなさいよ」

 俺はアリバイ工作のために自転車を借り受けることにしていた。でなければ短時間で終わらせたことに疑問をもたれてしまうからだ。

「それにしてもからやま君はゆうしゆうね、発注元からの評判もいいわよ」

 おかげでらいが増えたとかなんとかでOLさんはうれしそうだった。

「いつも思うんですけど。チラシ配りのバイトってチラシを捨てられたらどうするんですか?」

 俺はもちろんそんな不正はやっていないのだが、中には配るのがめんどうで捨てているやつもいるんじゃないだろうか?


 俺の当然の疑問にOLさんは──。

「唐山君はやってないだろうから説明してあげるけど、こっちで調査しているのよ。投函区域でチラシが出回ってなければわかるようになっているの」

 何でもチラシのリターン率であったり、直接その区域の人間に確認したりとくわしい方法は秘密らしいのだが、判るようになっているらしい。

 実際にこの事務所でも不正をしてクビになった人間もいるらしい。

「そうだ。これが今月の給料明細書ね、確認して」

 OLさんから俺は給料明細書を受け取る。

「えっ?」

「ん、どうかした?」

 俺の口かられた声にOLさんが反応する。

「これ…………ちがってないですか?」

 俺はあせりの色をかべると、自分の給料明細をOLさんに見せる。

「うーん。合っているわね」

 だが、OLさんは特に気にすることなく当然のような態度をとる。

「だ、だって。明らかに多いですよ」

 その金額は今までやっていたファミレスのバイトの2倍以上。下手すると新卒の初任給よりも多いんじゃなかろうか?

「いろんなチラシを毎日配ってくれているからね。うちも唐山君の働き目当てで仕事を受けてしまってる部分もあるから単価を上げておいたのよ」

 なんでも、上司に掛け合ってくれたらしい。優秀な人材なので評価してあげてしいと。おかげで想定をす給料になったようだ。

「まあ、君はだし仕事もていねいだからね。事務所でも君を認めてる人は多いんだから、これからもがんってよね」

 そういってフランクにかたたたかれた。

「あ、ありがとうございます」

 俺はずかしい様子で返事をする。それというのも、この実績を残せたのは俺が転移魔法に目覚めたからだ。

 もし、この力に目覚めることがなければいまごろはファミレスで皿洗いをしていただろう。

「その分、これからの働きにも期待してるってことなんだからね」

 おかげで日常生活が楽しくなった。

もちろんです。これからもよろしくお願いします」

 俺は転移魔法を覚えられた喜びをおさえきれずに満面の笑みで返事をするのだった。

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