第11話

 身内だけのささやかな結婚式、一応全員でフォーマルな衣装を着て気分を盛り上げてはみても、やっぱりどーしても失恋のショックから立ち直れないので落ち込む一方だ。

 こんな時、少しでも気分を紛らわせるにはギターを弾くしかない。

 自室に戻ってギターを手に、皆が集まるリビングに戻らずに弾き始めると、廊下に人の気配を感じた。んだけど、わざわざ部屋に招こうって気にもなれずに無視した。

 エマかヤエならノックすらなく入って来るだろうし、タケならノックした後は勝手に入って来る。だから廊下に立ったままいるのはリョウかマサヤのどちらかだ。

 マサヤの姿は、少なくとも今は見たくないし、リョウの顔も……その……見辛い、し。

 リビングの賑わいが落ち着き、階段を登っていくタケとリョウの足音がして数分、トイレとシャワーを済ませようと部屋を出ると、フォーマルな装いのまま眠るマサヤがいた。

 「風邪ひいても知らねーから」

 一応声をかけながら足でツンツンと横腹辺りを突いてみると、眠そうに少し目を開けた マサヤは大きく欠伸をすると見上げてきて、ニコリと笑った。

 なんという破壊力だよ。

 「寝てたー」

 見れば分かります。

 「引っ越ししてきた……んだよな?部屋はエマ姉ぇと使うんだろ?」

 「イチ君途中で部屋篭るからー出てくんの待ってたら寝てた」

 俺を待ってた?何の為に?

 エマとの結婚に反対を唱えた覚えはないし、結婚式?が一段落つくまではちゃんとリビングにいただろ?歓迎しろって言うから「おめでとー」的な事も言った筈だ。

 これ以上の何を俺にしろってんだぁ?

 「寝るなら部屋でどーぞ」

 「だから、待ってたんだよ。えっと、大した事じゃないんだけど、イチ君は何処の学校に通ってんのかなーって」

 なんだそれ。本当に大した質問じゃ無いし。

 「近くの森の中高校」

 その後どうするのかって進路的な事はまだ考えてない。ギターで稼ぐってのは夢ではあるが、実際この程度の腕では無理だという現実的なビジョンは見えてるつもり。それでも練習して上手くなれば、との夢は捨て切れず。

 「俺の妹、イナミってんだけど、イチ君より1学年上でさー同じ学校!会う事があったら仲良くしてやって欲しいなって。それだけー」

 へぇ、傷心した俺に他の奴紹介するとは、モノの見事に追い討ち掛けてくれやがりましたな。

 いや待てよ?他でもないマサヤの妹っていうんだから、さぞや可愛いんだろうな……。もしかしたら失恋の痛みなんかスッ飛ぶ程の衝撃的な出会いになるかも知れない!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ライフタイム SIN @kiva

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ