第10話 王様と小さな箱(3)
「眼をお開けなさい。もう大丈夫ですよ。」
どこかで聞いたことのある声がしました。王様がおそるおそる目を開けてみると、いつぞやの天女が笑っていました。傍らにもう一人男がいました。同じように青白い光を放つ目を持った天人です。
王様はどこかの見知らぬ洞窟の中にいました。
天人たちが言いました。
「お知らせしたいことがあります。天の帝はあなたの願いをお聞き届けになられました。」
王様は礼を述べました。
「ごらんなさい」
天女は洞窟の中央の水鏡を指し示しました。王様が覗き込むと、そこに地上の様子が映りました。
将軍と新しい王の間は、間もなく決裂しました。将軍は王様の息子たちをそそのかして、弟王を倒させるように仕向け、それが済むと息子たちを殺しました。そして自分が新しい王となったのです。
やがて、隣の国が攻め込んできました。王となった将軍はすぐさま、軍隊に号令をかけました。しかしバラバラになった国はひとたまりもありません。あっという間に滅ぼされてしまいました。
王様は天人たちに連れられて荒れ果てた王宮の跡に降りました。あまりのことに呆然と宙を見つめるばかりです。
「どうです。私たちと暮らしませんか。」 天人の言葉に、王様は我に返りました。そして、恭しく頭を垂れて答えました。
「お申し出は大変うれしいのですが、私は一族の者を探さなければなりません。民のことも放っておけません。何もできないかもしれませんが、共にありたいのです。」
「わかりました。」
天人は頷き、最後にこうつぶやきました。「でも、無駄なことですよ。」
その声はあまりに低かったので、王様の耳には届きませんでした。
天人たちの姿が見えなくなると、王様はとぼとぼと歩き始めました。どこかにいる筈の一族の者を探すためでした。王様は気づきませんでした。先祖を祀る者として残されたのは、王様自身だったのです。そのために不老不死の命を与えられたことも。
あれから、何百年、何千年の月日が流れました。王様は探し続けています。今も、どこかで。
(了)
小さな王国の箱庭 たおり @taolizi9
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