散りゆくチリコ
秋村ふみ
散りゆくチリコ
一枚、三枚、六枚…。一番上から順番に、私達は抜かれていく。上にいた私の仲間達が次々と、人間の手によって失われてゆく。いとも容易く…。
箱の一番上へと辿り着いてしまった者は、人間が引っ張り易いように、箱から半分身体をさらけ出し、静かにその時を待つ。
その心境は、ベンチで自分の打席を待つバッター?いや、面接の順番を待つ受験生?いや違う。殺し屋に銃を突きつけられている、丸腰の標的。もしくは死刑台に上がる前の囚人。それに近いかもしれない。
私はチリコ。ティッシュ、もしくはちり紙と呼ばれるものの一部。私が今いるのは、箱のだいたい真ん中あたり。あと何日、箱のなかに居られるかはわからない。だんだん、上の方が少し涼しくなってきた。
私のひとつ上にいるヌルコは、毎日のように怯えている。
「ねえチリコ、私達、どうなるのかな?」
「そんなの、わからないよ。人間の考えてることなんて、わかりたくもない」
そう。私達は明日がわからない。私達の運命は、人間が握っている。
「チリコは怖くないの?いずれは私達、グシャグシャにされて、燃やされるんだよ?」
「怖くないわけないでしょ?でも、いくら怖がっても仕方がないよ。私達は始めから、汚される為に存在しているんだから。待つことしかできないよ。待つことしか…」
人間は平然と、私達ティッシュを当たり前のように引っ張っていく。私達の気持ちなど関係なしに、引っ張っては汚し、グシャグシャにしてゴミ箱へと堕とされる。そんな人間が、悪魔に思えてきた。
私達の運命は人間の掌の上。どうなりたいとか、私達には始めから選択権はない。
シュッ…
シュッ…
シュシュッ…
耳を塞ぎたくなるような、恐怖の音。終末の時が近づいてくる。
そしてついに、人間の手はヌルコへと手をかけた。
「さようなら…チリコ…」
「ヌルコ!」
瞬く間にヌルコは箱から抜き取られ、人間の鼻を覆う壁となった。そして揉みくちゃにされ用済みとなったヌルコは、ストーンとゴミ箱へ突き堕とされた。
私はそれを、怯えながら黙って見ていた。自分もあんなふうに汚されて、ゴミ箱に堕とされるのだろう。悪魔だ。人間は、悪魔だ。私達を哀れむ気持ちはひとかけらもない。
どうせ散るなら、ヌルコと共に散りたかった。
すると人間は、突然叫んだ。
「あ!カメムシ」
人間はすかさず私を箱から引っ張った。そしてカメムシを包みこんだまま、私はゴミ箱へと堕とされた。
それから私は、ゴミ箱の中で待っている。燃やされるのを、同じくゴミ箱に堕とされた仲間と共に待っている。
早く燃やしてほしい。耐えられないの。カメムシのニオイがきつくて…。
散りゆくチリコ 秋村ふみ @shimotsuki-shusuke
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