Day 3
「あ、田口さんですか?私です。和久です。」
「先生!待ってましたよ?やっと仕上がりましたか!」
「いや、違うんだ。実は私は小説家を辞めることにした。それだけだ。それだけ伝えたくて電話した」
「え?先生、ちょっと何言ってるんですか?」
「う〜ん…君には何を言っても分かるまいが、もう少し言うと、そうだな、これまでの自分の偽りの皮、何重にも重なった皮を全部剥ぎ取って、最後に残った一番小さな自分になることにした。そういうことだ。ま、分からないだろうがな」
「先生、ぜんぜん意味が分かりませんよ!何を言ってるんですか?今日は締め切りの日ですよ?」
「うん、まあそうだろう…まあいい。気を悪くしないでくれよ?そもそも私なんて鳴かず飛ばずの作家だ。私が辞めたところで、君の出版社としても問題あるまい。これまで世話になったな。君は君で頑張りたまえ。じゃ。そういうわけで。さよなら」
私はそこで強引に切ろうと思ったが、ふと最後に付け加えたいことを思い出した。
「あ、そうそう。君の出版社に紹介しようと思う新人がいるんだよ。新人といっても、歳はだいぶいってるがな。まあ、高齢者が活躍する時代だ。大目に見てくれたまえ。名前は『佐久忠作』。覚えておいてくれよ?では本当に、さよなら」
和久正雪の話 今居一彦 @kazuhiko
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