第17話 獲った
ケルベロスは怒っていた。
主人から下された命令。オグリを
相手はたったの2人。オグリにいた作業員たちの臭いを頼りに居場所を突き止め、この森林地帯に追い込めたのはよかったが、青い
いや、もはや振り回されてしまっている、と言っても過言ではないだろう。
大した力を感じない、軽く足を乗せただけで命を奪える程度のちっぽけな存在。それなのに
「「「グルルルルル……」」」
獣としての本能と、主人への忠義が混ざり合い、そうして生まれた闘争心が徐々に熱を帯びてくる。
キューブの爆発によってダメージを受けた鼻もかなり回復してきた。三つの頭を前と左右に広げ、何度か鼻をヒクつかせると、左の頭が空気中に漂う何者かの汗の臭いをキャッチする。この臭いの主は、先の交戦の時に記憶済みだった。
そして、ケロべロスは、三つの頭を駆使し、空気中や地面の臭いを探りながらゆっくりと前進を開始した。
それから数分後。少しずつ強くなってくる臭いの中に、別の臭いが混ざり始めてくる。この血生臭い感覚には覚えがあった。森の外で馬を捕食した時に感じた血の臭いだ。
つまり、自分は今、森の外に向けて歩いている。あの男は森の外に逃げた可能性がある。
嗅覚に伝わる情報から直観的な危機感を抱いたケルベロスは、奇襲のために行っていた忍び足を速め、地面を揺らしながら臭いの道筋を追いかけた。
そうして木々の合間から
ケルベロスは立ち止まり、姿勢を低くして臭いの漂う方向に六つの瞳を
犬の視力は人間よりも劣るが、暗い場所でのものを視覚する能力は人間よりも優れている。その視力を
こちらに背を向けているのでその者の表情は見えなかったが、臭いからして彼がミヤビで間違いないだろう。ケルベロスは木々に紛れながら静かに歩き出し、ミヤビにバレないように忍び寄っていく。
ミヤビはどこか怪我をしているのか、その場から一向に動こうとしない。巨体のケルベロスが移動すれば、どれだけ慎重を
これが人であったら、さすがに何かしらの違和感を覚えたことだろう。
だが、
無論、危険人物への警戒も本能の中に含まれているため、射程内に入った段階でも体を伏せてミヤビの動向を見守り続けるが、それは単なる自衛本能の一種であり、その者を目的の獲物――ミヤビであることは決定事項だった。
それからしばらくミヤビを観察し続け、彼に
「「「グアアアアアアアアア!!!」」」
次の瞬間、ケルベロスは森の中から放たれた矢のように走り出し、一気にミヤビとの距離を詰めた。そして、彼の逃げ場を奪うように、三つの頭がそれぞれ異なる軌道を描いて襲い掛かる。
その閃光が
――ベキベキベキッ!
その際、中央の頭が得た食感。
それは、肉を食い破る淡い弾力でも、口内に溢れ出る血と臓物ではなく、
「――
そこは、平原に孤立する小さいな森林地帯の上空。
ルイワンダの先端を木の枝に引っ掛け、鉄棒の大車輪のような運動によって生み出された上向きの遠心力に、糸が収縮する力を加えて空へと高く打ち上がったミヤビは、大樹の根本に立てかけたコートを着せた丸太を噛み砕いているケルベロスを目がけ、急速に落下していく。
「でやああああああああああああ!!!!!」
そして、ケルベロスに達した瞬間、ミヤビは首のうなじに位置するスパイラクスに、大きく振りかぶったルイワンダを振り落とした。
「「「ギャワアアアアアアアアア?!?!?!」」」
ミヤビの
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