第3話 英雄 マルク=サンクリング
「太陽の騎士団の要請? どういうことですか? つまり、太陽の騎士団は活動を停止していない、ということですか?」
思わぬマルクの発言に、ミヤビは咄嗟に聞き返してしまった。その勢いが強すぎたのか、マルクは不機嫌な顔をさらに歪める。
「あ? なんだ、急に。太陽の騎士団の事なんてお前にはカンケーねーだろ」
「あ、いえ……その……」
「へへっ。オレたちの騎士団にはフィオちゃんがいるからな。あいつの事を知っておきたくて必死なんすよ、そいつ」
その時、外野から笑気を含んだ声がやってくる。しかし、それはマルクの取り巻きであるアンドラやマハトのものではない。チャヤと同じく、つい最近にこの工廠に配属されたマハトの弟、キスカ=ベンバーのものだ。
「ああ、なるほどな」と、キスカの言葉に納得したマルクは、お馴染みである
「
「愛しの幼馴染ってなーに?」
すると、今度は女性の声が聞こえてきた。キスカの膝の上に太ももを乗せる、まるで恋人同士が取るようなポーズで座っている、頭に猫科の耳をつけた少女。ミャオ=バオシーという、キスカと同期のナイト級である。
「ああ、ミャオは覚えてない? 前にあったエレフト山での事件。ほら、タイタンボアが暴れて訓練が中止になったやつ」
「あー……あったあったそんなの。そうそう! 確かどっかのバカがレンヤとフィオを殺そうとしたんだよね!」
「そうそう。まあ、身内の事件だから揉み消されたカンジになったけど。で、その
そう述べて、ミヤビを指し示すキスカ。
「動機は
「それで何? ボクちんから好きな女の子を奪ったレンヤゆるさない、的な? そいつに
「そーなんだよ。当時、かなり問題になっただろー?」
「覚えてねー。ウチ、どーでもいい人間なんてすぐに忘れちゃうし」
人を傷付ける言葉を
このネコミミ少女のミャオとキスカは太陽の騎士団に所属している。ミャオはナイト級として優れた成績を収めているためだが、キスカにそのような真っ当な理由は無い。ただレンヤと親しい間柄である、ということだけだ。
そう。この男は非常に世渡りが上手い。己の実力ではなく、人との関係性や情報を駆使して成り上がる
そして、ミャオもまた、独自の処世術を持っている。しかしそれは、キスカのような地道で回りくどいやり方ではない。もっと直接的で、それでいて男には特に効果的なものだ。
「ったく。戦後、東部周衛基地で見つからなかったからよ。てっきり死んだと思ってたのに」
いちゃつく2人の前を通り、1人用のソファに腰を落ち着けるマルク。
「いつの間にか工廠に現れるようになりやがって。マジで亡霊だな、お前は。そのせいで死亡報告書や東部周衛基地に連絡とか余計な手間が増えたんだぞ。分かってんのか? お前」
「マルクさまーっ」
すると、あれだけ
「あっ、ミャオ。なんだよー」
「はっ、アンタなんてマルク様のついでだし。ウチが本当に心許してるのはマルク様だけだにゃーんっ」
「おー、よしよし。離れててゴメンなぁー? あのバカが来たせいで寂しい想いをさせちまったなぁー?」
子どもをあやすような口調でマルクはミャオを受け入れる。しかし、言葉とは裏腹に、彼女の髪や太ももを撫でる手付きは非常に性的でいやらしい。
だが、ミャオは全てを嬉々として容認し、されるがままになっている。当然である。そうされるために、自ら彼の懐に飛び込んだのだから。
これがミャオの処世術。なんてことはない、ただの枕営業だ。しかし、男性中心の軍隊において、これほど有効な手段は無い。特に、
男から男へ。自分の利となる者から、さらに利を
「ほーら。ミャオちゃーん」
「オレたちとも遊ぼうぜー」
「きゃははっ」
キスカやマルクはもちろん、マルクの後ろから彼の手付きに乗じてミャオの体に触れるアンドラとマハトも彼女の
「あ? なに見てんだよテメー」
反面、力の無い者には徹底的に冷たい。
しばらくマルクたちに好き勝手されていたミャオは、ミヤビの視線に気付いて態度を一変させた。ミヤビとしては、この連中の
「食い入るように見つめてきて。マジでキモいんだけど」
「ははっ。しょうがねーよ。幼馴染のソラリハ様に叶わぬ想いを寄せてんだ。そうじゃなくても、こんなクズの相手をしてくれる女なんか存在しねーよ」
「え? じゃあこいつ、いまボッキしてんじゃね? ウチの胸とか太ももとか凝視して。きゃはは! マジ哀れー。気持ちわるーい」
むしろ、逆に哀れみを向けられる始末である。
まあ、一通りの暴言や冷遇はこの基地での生活で嫌というほど味わったので、その程度の
そのため、ミヤビは至って冷静に、無感情と無表情にひたすら
そうして彼女が猫のように体を丸くし、全ての手を拒むような態勢を始めると、マルクが顔を上げてミヤビを見る。
「まあ、無事で何よりだと言ってやるぜ。一度、提出したお前の死亡届を訂正するのも実際、かなり無茶な手続きだが、今の俺ならそれができるんだからな。なんたって俺は、レンヤと並ぶフロントーラ防衛戦の英雄なんだからよぉ!」
彼にしては寛大な言葉をすらすらと述べ、マルクは振り返る。彼が見つめる先の壁、そこには賞状と勲章を収めた
それは、
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