第29話

「「……」」


どうしてこうなった。

今日、咲ちゃんと水城さんが初めて会って食事をしているのだが、全くと言っていいほど会話が続かない。


この発端は今日の昼頃のこと。水城さんの家でパターンを作りに行った時のことだった。


「ごめんなさい!最近少しバタバタしてて食材切らしちゃいました……」

昨日の夕方で買い物に行く予定が花さんにコレクションの事務手続きのことを聞いていたら遅くなってしまった。

「えっ、あ、うん。大丈夫だよ。一日くらい。非常食くらいあるし……」

そういって開けた戸棚にはカップ麺が二つあるほどで、全くと言っていいほど何もなかった。

「あ、あれ、いつもだったらもうちょっとあるんだけど最近確認する日が減ってこっちもほとんどなかった」

「今から買いに行ったら遅くなっちゃうし……あ、それならうちで食べませんか?うちなら材料もありますし」

咲ちゃんもみんなで食べる方がいいだろう。

「でも、それじゃあ迷惑にならない?」

「全然!むしろウチの台所だったら器具がいっぱいあるんで料理しやすい位ですよ」

「それなら……お言葉に甘えようかな?」

「もちろんです」

そう言って今日の分のパターンを終わらせたあと一緒に電車に乗って自分の家へと帰る。

水城さんと外に出るのは初めてで少し新鮮な感じがした。

頭の中で今日の献立を組み立てていく。


(パスタでも湯がいてサラダを盛り付けて……飲み物あったっけな?あーそう言えばワインが一本あった気がする。あんまり咲ちゃんも水城さんもお酒飲むイメージないけど)


「ただいまー」

「おか、え……り」


何故かわからないけど二人の空気が凍った気がする。

「えっと……こちら、パターンを教えて持っている、水城葵さんです」

「……初めまして、水城です」

「こちら、一緒にデザインをしている旭川咲です。いま、一応同棲してます」

「……初めまして旭川です」


この時から失敗をしてしまった気配をヒシヒシと感じていた。


―――


私が料理をしていた間二人の間に会話など一切なく。二人とも人見知りをしてしまっていた。料理を出して「いただきます」を告げた後黙々と食事をすることになってしまっていた。


「そ、そういえば今日はデザイン作れた?」


沈黙を破るために私から咲ちゃんへ話題を振っていく。


「う、うん。描けたよそろそろコレクションの準備にもかからないとね」

「私もデザイン描かないとなー。社長は水城さんにパターン頼むように言ってたけど」

「あ、うん。やるよ。一応まだ、席は置いてる身だし」

「……水城さんは……優ちゃんのパターンやるんですよね」

「パタンナーの仕事は続けてるから……仕事があるならやりますよ」

「デザインは描かないんですよね」

「……まぁはい」

「……」


咲ちゃんが何か含みがあるような言い方をして会話が一瞬だけ途絶える。

「……もうそろそろ演出考えないとね。」

「そうだねー。デザインの方向性は決まってるんだけどね」

「出す順番とか音楽とかもいろいろあるからね……」

「……」

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貴方の好きと私の好きは違うから 麻井奈諏 @mainass

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