最終話 メリークリスマス

「それじゃどうしようか?」


"サタソの討伐"

"する"


「とりあえず飛んで逃げられたら困るな」



3人は宙を舞うサタソを睨み、どうしたものかと思案していた。


「ふん、1人増えたところでものの数ではない。


これで終わりだ」


サタソは残った片腕を向け、手のひらレーザーを空中から撃つつもりらしい。


「さすがにこれは…」


立花、川上、リッチは同じ感想を抱く。対峙する3人だけでなく自分達もまとめて吹き飛ばすつもりだ。


「あちゃあ、ちょっとアレはないでしょ…」


"回避"

"むり"


2人が少し弱気になっている所でコムギが一歩前に出る。


「仕方ないか…大人として若い奴は守らなきゃな」


コック服のうで襟を捲り、地面に両手に付ける。


「「??」」


2人がコムギのいきなりの行動に首をかしげる。


「重量管理!」


コムギの一言と共にサタソが何かに押し潰されたかのように落下する。


「ん、なっ…!?」


地面に激しく叩きつけられたサタソは受け身を取れず、今尚押し付けられるような感覚に相まって悶絶する。


「ぐっ、、なっなにが起きたっ…!?」


「オレの重量管理は質量を操る、ちょっとだけどな」


「おっちゃん、スゲーじゃん!」


"称賛しますか?"

"はい"


「今のうちだ、いけ!」


「ハイハイっと!!」


"進攻しますか?"

"もちろん"


同時に2人は疾駆する。

最大の好機は今。

標的が混乱しているここしかない!


「もらったあ!」


"覚悟"


知里が嬉々とした声で、首を狙う。RPGも同じ考えだったらしく左右から首を斬り落とすような形になる。


「ちっ!」


舌打ちをサタソがしたかと思えば眼前から突如消え、サンタが現れた。


「どっ、どこ!?」


"探しますか?"

"はい"


空振りした剣と剣。

響く金属音に戸惑う二人の視線は見失った標的を探し求める。


「こっちだ!」


コムギの背後に突如現れたサタソ。気配もなく、いきなり出現した存在に思わず後ずさりする。


「なっ!どうして?」


守っていたはずのサンタが消え、代わりにサタソが現れた立花は腰を抜かしつつ驚きを露にする。


「…危ないところだった。

だが、ヤられるわけにはいかんのだ!」


「しぶといなぁっ!なんの能力なんだい!?」


知里が苛立ちながら問い詰める。


「ふん、ならば冥土の土産に教えておいてやろう。

我が能力は『交換』

半身と共に、生まれたときから得ていた唯一の力よ」


「半身?」


そこに疑問とツッコミをいれるのが立花という男だ。


うっかり口を滑らせたか、と言うような苦虫を潰した顔でサタソが答える。


「…そうだ、サンタは我が半身。

我らは表裏一体の存在なのだからな!」


「「「「「なに!?」」」」」


いきなりの度肝抜かすサタソの発言に皆が驚愕する。

そして独白のようにポツリポツリと言葉を紡ぐ。


「…そやつと我は神より『交換』の力を渡され、生を受けたのだ。

我らは生き抜く中で、純粋な願いであればあるほど『交換』の力は効力を増すことに気付いた。


サンタはプレゼントと受け取った子供達の『喜びによるプラスのエネルギー』を。

我は悪人達の『悪意、負の感情のマイナスエネルギー』とを交換することで生き永らえてきたのだ。


子供達は減り続け、悪人や悪意は増えるばかり…。

にも関わらず、サンタは日に日に衰えながらも苦労を厭わず他人のために働く。

感謝もされず、生きるために無欲に働かなければならない。

これほど無駄なことはあるまい!?

我とて悪意に身が染まり、悪魔と化してしまったが、それでも我は半身であるサンタが心配なのだ…。


だからこそ、我らを害する貴様ら

人間を生かしてはおけん…!

そして我らに辿り着ける可能性があるトナカイ、そりにもな…」



明確に人間に対する敵対心を抱くも、それは1人の、ただ1人の家族を心配する男の姿。姿も魂すらも変貌して尚、相手を思いやる優しい男を誰が責めることが出来ようか。



突如の衝撃的な独白により辺りは、緊張と静寂に包まれた。

言い様の無い虚しさ。

戦意を喪失させるには十分な精神的な攻撃。

本心をさらけ出し、同情を誘いながら、この場をなんとか切り抜けたいサタソの目論みは成功したかに見えた。


「…すまんな、弟よ」


「っ!?」


目覚めたサンタの不意打ちの一言が静寂を破り、目論みは崩れさる。


「まさかそれほど心配してくれていたとはな、ふふ…心配性なのは変わらんな」


「…兄者こそ、お人好しが過ぎるのだ、ぼろぼろになる身体に鞭を打ち過ぎだ。

いい加減休め。

そしてどこか2人で休もう」


「気持ちは嬉しいが、それは出来ん相談だな…。

今年も子供達が待っている。

子供達の笑顔は未来への可能性なのだ。誰もそれを奪ってはならないものだ。


わしは長く生きてやっとわかった。


わしが本当に交換しているのは、わしの命の時間と子供達の輝ける未来の時間なのだとな。


命ある限り、わしの命はわしの物だ。だからこそサンタクロースであることは辞めん。お前にも止めさせはせんぞ…!」


強く、命を賭した決意。

だが、その言葉にサタソが折れるはずもなかった。


「ならば、やはり人間を排除するしかないな!

兄者の命の方が我には重い!」


極論に走る狂気が、再び人間である知里らに向けられる。


「少し時間はかかるがこれで終わりだ、人間!」


再び、先程より高く空へ飛ぶサタソ。コムギの重量操作の届かない所から地表に向け、渾身のレーザーを放とうと準備をする。


「どうしよう、知里ちゃん!」

「うーん、いくらなんでもあの高さじゃ…」

"川上を犠牲にしますか"

"はい"

「待って、何の解決にもならないよ」

「空を飛べても、止めようがないしな…」

「どどどどうしましょお…」


口々に不安を吐露する皆々。

そこへ、


「僕がそりで皆さんを空まで運びます、そしてサタソを止めてください」


疲弊して倒れていたルドルフがおぼつかない足で立ち上がり、提案を告げる。


皆がコクリと頷き、無言で賛同する。意志が一致した彼らは即座に作戦を立てた。

そして、そりを軽くするため、知里とRPGに攻撃を託し、他は足手まといにならぬよう地表から応援することになった。


「任せたよ、知里ちゃん!」

「任せたよ、RPG…て銃で返事しないでよ!」

「土台は任された!」

「頑張ってくださいぃ」

「愚弟に、鉄槌を下してやってくれ…すまん……」


立花、川上、コムギ、リッチ、サンタが知里とRPGに声援を送る。


「まっかしといて!!」

"勝利を約束しますか?"

"はい"


「お二人ともいいですね…行きますっ!」


ルドルフが全速力で駆け出す。

未だ身体から疲労感が抜けないが、今はそうも言ってられない。


そのために立てた作戦は2つ。

1つ目は空中で一気に決めること。

2つ目はルドルフの不完全な体力で、いかに全速力で空を駆けるか。


その2つ目のカギはコムギだった。どうしたら空を速く駆けられるか?この問いに出された答えは…


「行くぞおぉぉぉ!!!」


全力で両手に力を込め、強くイメージをしながら能力を奮う。


「温度管理『冷』!!」


すると!みるみるうちにルドルフの足元から次々と氷の道が天を、サタソ目掛けて延びていく。


そう。

作戦で決めた2つ目の答えは、不安定な空を駆けるより、安定した道の方が速く辿り着けるとの事なので、その道をコムギが作るという事だった。


(半信半疑だったがこれなら行ける!)


ルドルフは確信を胸に全力で氷の道を駆け抜ける!


夜空に架かる氷の橋を駆けるトナカイ。そして今宵は満月。

満月を背に走るその姿は、非日常的に美しく幻想的な光景だった。


そして視界の先にサタソを捉えた知里とRPGは臨戦態勢で身を乗りだし、到着のタイミングを図る。



「ふははは!

準備は整った、今度こそさらばだ!人間!!!」


「させるかあぁ!!」


「なにいぃっ!?」


知里・RPGがそりから飛び上がり、サタソ目掛けて斬りかかる。

不意を突かれたサタソは避けられず知里に胸を貫かれ、RPGが今にも放たれそうなエネルギーを溜めていた腕を切り落とす!


「ぐぅっ、あああぁぁぁぁぁ!!!!」


サタソは断末魔の悲鳴を上げながら、無事攻撃を防ぎ、致命傷を与えた知里、RPGも共に地表目掛け落下していく。


(うーん、これ、ちゃんと着地できるかな?)


2人はやりきった後を冷静に考えながらヒューっと落ちていく。地表が近づくにつれ不安になる2人に聞きなれた声が近づいてきた。


「知里さんっ、RPGさんっ!!」


ルドルフだ!

そりを引きながら空中を駆け、そのまま知里とRPGを回収する。

ふぅっと息を吐き安堵する2人を乗せ、そりは無事、地表へ帰還したのだった。


「「「「お帰りなさい! 」」」」


皆が無事を確認しあい、健闘を称え合う。



そして、その横、少し離れた場所では。


「うっ…ぅぅ……」


虫の息と言ってもよい、横たわるサタソにサンタが付き添っていた。


「…弟よ、すまなかったな…」


「…良いのだ、兄者。

いくら能力を、運命を呪ったとてこれは自業自得だ…」


「だが、これは長く気付けなかったわしの罪でもある…だからな……」


そう言うとサンタはサタソの身体に手を乗せ、静かに深呼吸し、祈るかのように目を閉じた。するとサンタとサタソは神々しい光に包まれた。


光は徐々に収束し、再び2人の姿を視認出来た時、眼前にあったのは傷が癒え五体満足のサタソの姿だった。


「どういう事だ、これは…!?」


疑問を口にするサタソ。

その表情には驚愕が見てとれる。

何せ彼はサンタと瓜二つの白髭をたっぷり生やした人間の姿なのだから。


「『交換』したのだ、わしとお前の運命をな」


「なっ!?」


そして、今度はサンタが倒れる。全身に酷いダメージを負っている。


「バッ、バカなことを!兄者!!」


「これで良いのだ…お前にはわしの代わりにサンタクロースとして生きていってほしい…」


「…ふざけるな、それは兄者の仕事だ、兄者の代わりなどいるものか!」


せっかく人間の姿に戻り、互いの心を通わせた結末がこんなに悲しいものであってよいのか?


沈痛な思いで兄弟を見守る中、知里がポンと両手を叩きなにやら閃いたようだ。


「ねぇねぇ、サンタさん。

交換の力ってまだ使える?」


「あ、ああ…意識があるうちなら使えるよ」


「良かった!

ねぇ川上くん、こっち来て?」


イヤな予感がする。

だがその予感は恐らく当たっているだろう。なぜならそれが最善手だと自分自身でもこの状況で思ったからだ。


「じゃあサンタさん、川上くんとダメージを交換して?」


「?…いいのか、君は?」


「は、はあ…。

まぁこの場合仕方ないけどやるしかないかなと」


「ますますよくわからんがよいのだな?ではいくぞ…!」


神々しい光に川上とサンタが包まれたかと思うと、今度は無事なサンタと瀕死の重傷に喘ぎ倒れ込む川上。


「だっ、大丈夫かね、キミ!?」


サンタが狼狽しながら駆け寄る。


「ぐっ、痛すぎる……ぐっ…ぅぅ…」


苦悶の表情を浮かべる川上に、RPGが静かに歩み寄る。


"川上をラクにしてあげますか?"

"はい"


「ちょっ…」


ダン!

ダンッ!!

ダンッ!!!


抵抗の言葉もむなしく、3発も発砲しRPGに無言で川上はトドメをさされた。


チーン・・・・


思わず、そんな効果音が流れそうな珍妙な空気だ。

そして、能力を把握しているとは言え、平気で仲間を射殺するRPGに皆戦慄し、ちょっとひいていた。


「きっ、キミぃ!自分が何をしたのかわかっているのかね!?」


サンタがRPGの胸ぐらを掴み、ガクンガクンと揺らす。


「サンタクロース様、違うんです、彼は大丈夫なんです!」


「何を言っとるんだ、ルドルフ!人が目の前で射殺されたんだぞ、しかも仲間に!これが落ち着いていられるか!?」


「いえ、あの、だから…」


侃々諤々とサンタが血相を変え、なだめつつ事情を把握するやいなや、川上がムクリと復活し、今度はサンタは白目を向いてバタリと倒れてしまった。


そんな様子にサタソを含む周囲の人間はやれやれといった様子ではあるが、皆無事に犠牲者を出さず(?)解決した事にとりあえずホッと胸を撫で下ろすのだった。



「君達にはいろいろ迷惑をかけてしまったね、すまなかった」


「我からも礼と謝罪をさせてくれ、本当にすまなかった。

ありがとう」


サンタにサタソの2人が深々と頭を下げる。その姿に皆は恐縮してしまう。


「だが、申しますついでに最後、頼みがあるんだ」



顔を見合わせ、なんだろうと思っていると


「この騒動でいろいろ遅れてしまった…だから君達にもプレゼントを配るのを手伝ってほしいのだよ、どうかね?

頼めるだろうか…?」


困惑しながらも尋ねるサンタの姿に、言われるまでもなく皆の答えは決まっていた。



「「「「「喜んで!!」」」」」





あなたはサンタクロースを信じるだろうか?


どこから来るのかも、どこに居るのかも、到底僕らには計り知れない。


今年は少しいつもと違う様子のサンタが、にっこり笑顔でやってくる。みんなの部屋にやってくる。

眠っているはずなのに、サンタに挨拶。子供達の少し上がる口角が、サンタへの一番の贈り物。



メリークリスマス!


今年もまた、みんなの元に…。

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パン屋とリーダーによるクリスマスレヴォリューション 青田堂 @p-mam09

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