三組の英雄

「痛てて、、ここはどこだ?」


皆無事だが、落下の衝撃と体力の消耗で、サンタは気を失い、ルドルフは立ち上がれず息も絶え絶えに地面に寝そべっている。


立花、知里は周囲を確認する。

石畳にレンガ造りの家が立ち並ぶまるで中世ヨーロッパの様な町並みだ。

ルドルフが懸命にそりを走らせたからだろう、知らぬ違う世界に来てしまったのかもしれないなと二人は考えた。


「うーん…ここはどこだ?」


"わかる、と知ったかぶりをする"

"わからない、と素直に答える"


川上とRPGが落下のおかげか目を覚ました。


「あれ、君たちは…」


川上が立花達に問い掛けると


「ふははは!」


空から笑い声がする。

サタソが背に生えた大きな翼で羽ばたきながらこちらを見下ろしているのだ。


「まさか知らぬ世界まで来ることが出来ようとはな、そりの力か、トナカイの力か…?

いずれにしても興味深い。

サンタ共々連れ帰るとするか!」


両手をバッと広げ、サタソが襲いかかる。

サンタ、ルドルフ、そりに狙いを定め急降下するサタソ。


知里達も阻止すべく、戦闘態勢を取る。

RPGが初手、銃で飛行しているサタソ目掛けて乱射する。


ダンッ!ダンッ!ダンッ!


ひらりと軽く身体をひねらせ銃弾を容易く避けるサタソ。

手応えの無さにRPGは戦術を切り替えようとする。

"剣に切り替え、地上戦にしますか"

"銃で遠距離から狙いますか"

だが、現状どちらとも決めがたいのだ。


立花、川上はサンタ達を守り、サタソには知里、RPGが相手をしているが、一向に撃破出来るような展開にならない。

それにサタソの謎の能力。

あの謎も解けぬままなのだから。


「ほらほら、どうしたのかな?

君達の力とはそんなものなのかな??」


「「くっ!」」



知里とRPGの二人がかりで相手をしているにも関わらずサタソの優勢が変わらない。立花からすればいつもの魔王っぷりが見る影もないのだ、やはり本物の悪魔が相手となると違うのかもしれない。

RPGも剣と銃で巧みに千里と即席ながら見事なコンビネーションを発揮しているが決め手に欠けている。


激しくも、徐々にサタソが優位に立つであろう必死の攻防。


立花、川上は隙あらばこちらを狙おうとしているサタソの意識からサンタ達を守ろうとするだけで精一杯だ。加勢なんて出来るはずもない。


「こんのぉ!!」


知里が叫び、


"またダメ元で川上を囮に使いますか"

"はい"、"いいえ"


と懸命な戦いの最中。


「くぉらあぁぁぁ!」


とこちらへ叫ぶ声がする。

声の主の方を見ると、憤怒の形相の精悍な中年とおどおどした様子の獣耳の少年がいた。


「なんだ、貴様らは?

サンタの仲間か??」


サタソが千里とRPGへの警戒はそのままに問い掛ける。


「サンタ?

そんなことより、今はクリスマス前で忙しいんだ。

店の裏で騒ぐのは迷惑だから、やるならもっと向こうでやってくれ!」



「ふん、うるさい人間だ!」


サタソが注意したその男を指差し、レーザーを発射しようとする。


「っ!?

危ないっ!!」


立花の隣にいたはずの川上はいち早くダッシュし、男をドンッと押し倒す。

自分を身代わりの盾として。


「ぐっはっ!!」


川上は男の代わりにレーザーを腹に受け、立ち上がれずにいた。



"川上に駆け寄る"

"放置する"


RPGは迷わず放置することを選び、知里と共に一瞬の隙を逃さず攻撃に転じる。知里は全力で剣を振り抜き、RPGはサタソ目掛けて銃の引き金を引く。



『攻撃時には隙が出来る』


さすがに動けない隙を突かれたサタソは避けきれず2人の攻撃をモロに浴びてしまった。

千里の剣撃で左手を切り落とされ、RPGの銃撃で右脇腹に穴が空いた。

不思議なのはなぜサンタと入れ替わろうとしなかったのか?

もしかしたら『入れ替われなかった?』と2人の脳裏にわずかな仮説が立った。



「ちっ、ちくしょおおおお!!

ふざけやがってえぇぇぇ!!!」


サタソが激昂し、口調も粗野になる。想像以上のダメージでどうやら本性が出たようだ。


「ちぇっ、腕だけかぁ」


"追撃するか?"

"はい "


2人は今の攻撃で仕留められなかった事に少なからず落胆した。

自分達にも蓄積されたダメージがあり、出来ればそろそろ勝負を決めたいのだ。


「もう面倒くせぇ!消えちまえ!」


先程までの指ではなく、手のひらをかざしサタソがレーザーを打ち出そうとしている。


「ッ!」

"回避しますか"

"はい"


危険を察知した2人は射線上から離脱すべく、左右に横っ飛びする。


「ハッ!!」


打ち出されたレーザーは先程までのとは比べ物にならならない威力。避けられなければ即死だろう。


避けた2人はレーザーの威力を物語る遥か先まで抉れた痕跡を見て冷や汗をかいた。


「ちぃっ!ちょこまか避けやがって!腕が一本じゃ仕方ない…。

一人ずつやるか…!」


呪詛のように吐いたサタソの言葉に知里とRPGは戦慄し、各々の警戒レベルを最大に上げ、防御を最優先に意識する。


『攻撃は最大の防御』を信条に戦う2人に、それだけの危機感を与えた言葉に込められた殺意は強く、こびりつくヘドロの様に暗く重い精神的なダメージを与えた。



「さて、どちらからにしようかな、、?」


サタソが狙いを定めようとするその時。


「…おい」


「ん?」


「いい加減にしろ、店の裏で騒ぐなっつったろうが!」


先程の男はぶれず、サタソに臆することなく、語尾を強め再び注意する。傍らの少年は変わらずビクビク怯えているが。


「まだいたのか、邪魔だ!」


サタソはすかさずレーザーを打ち出す。あれほどの威力のレーザーを至近距離で受けたのだ、ひとたまりもないだろうと誰もが目を背けたくなる場面。


蘇生し飛び込んできた川上にまたしても助けられ、男と少年は生きていた。


「ふぅ…危なかった」


「ありがとうな、二度も助けてもらったな」


「いえ、いいんですよ。

僕は死んでも平気じゃないですけど平気なので」


「?よくわからんが、とにかくありがとう」

「ありがとうございますぅ」


川上と男と少年は無事の確認も込めて礼を言い合う。


「で、コイツはなんなんだ?」


「えっと、話せば長くなるんですが、サンタを狙う悪魔ってとこです」


川上も途中途中、説明もないまま死んでいたりするので中身のあまり無い説明を男達にする。


「なるほど、とりあえず悪いヤツなんだな」


「は、はい」


「じゃ、あっちのお姉ちゃんと兄ちゃんは味方でいいんだよな?」


「そうです!」


「わかった、これ以上騒がれると迷惑だからな。

どこまで出来るかわからんが手伝うよ」


「へ?

あ、あなたは一体?」


「オレはパン職人のコムギ、こっちのは獣人のリッチだ。

よろしくな」


パン職人と名乗る男、コムギに何が出来るのだろうかと、川上を含め皆が疑問を抱く。


「「ハアッ!!」」


コムギと川上のやり取りに気を取られていた知里とRPGがサタソに背後から襲い掛かる。


「ちっ!」


片腕では防ぎきれないと思ったのか、たまらずサタソは空中へと羽ばたきながら回避した。




そして


奇しくも地上には

『三組の英雄』が立ち並び、月夜を舞うサタソを見上げ、対峙することになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る