悪魔の力 著オプス

「ちょっ…まずいですよ、立花さん、知里さん!


あの悪魔強すぎます!」


川上、RPGが倒れ、残る英雄は2人になった。この危機にルドルフが焦燥感を抱くのは至極当然である。


「一度撤退した方が良いかもしれないね…隙を見て離脱出来ればいいけど…」


川上とルドルフが小声で話し、互いに頷く。

そして知里をちらりと見て、意思確認をするが、


「じゃあ次は私がアイツをボコる番ね!」


満面の笑みでサムズアップする知里。


「「話聞いてねぇ」」


やはりこうなるかと呆れ、ガックリと肩を落とす立花、どうしようとおろおろするルドルフ。

サンタは目の前にいるのに最悪の事態が良くなる見込みの無さに言い知れない不安だけが漂う。



「ふははは!

もう話し合いは終わったか?」


サタソが待ちかねたとでも言いたげに問い掛ける。


「えぇ、アンタを今から私がボコるから」


「ほぅ?それは楽しみだな?

供物以外で女を見るのは久しぶりだからな、楽しませてくれよ」


「えらく自信たっぷりね。

アンタこそ秒殺されないように頑張ってね」



牽制と挑発の応酬。

端から見ると二人の表情はまるでどちらが悪魔だかわからないくらい悪辣な笑顔をしている。


二人が向き直り、互いの視線を外さないよう慎重になりながら静かに構えを取る。


ゴクリ…


思わず息を飲むような緊張感が見ている立花とルドルフにも伝わってくる。

臨戦態勢になると、否応なしに空気が張り詰めてしまう。

実力者同士での戦いだ、激戦になるだろうと、予感するには十分な空気だった。



「ふっ!」


小さく息を吐き、先に知里が動く。剣を右斜め下に構え、身を低くしながら信じられない速さで突進していく。


立花が知る限り、あれは彼女のトップスピードだ。あの速さでの攻撃ならば、いくら超力的な悪魔とて避けられるわけもない。


(よし!入った!)


知里が瞬間的に間合いに入り、サタソに初撃を加えようとする刹那。


「えっ?」


ルドルフと知里は驚愕した。

漏れたルドルフの声に反応してからか立花は一瞬、間を置いて認識する。


千里の目の前に突如現れたのはサタソではなく、囚われているはずのサンタであった。


「やっばっ!?」


驚愕し、下から切り上げようとする剣撃をすんでの所で止める知里。

一体何が起きたというのか把握しようとするが彼女たちは全くわからなかった。


間髪いれず消えたサタソを探すと先ほどまでサンタが囚われていた位置に奴は佇んでいた。


「どうゆうことだ?」


呆気に取られている知里らを、したり顔でサタソが口の片端を上げ見ている。


「ふははは、いいよ!!

いい顔だ、実に愉快!

良い表情だね!!」


パチパチと拍手しながらサタソは満足気な顔を浮かべながら嘲笑する。


「さて、と」


サタソのつぶやきを聞くや否や、またしても奴が消え、サンタが現れる。


そして


「やあ」


千里の眼前にサタソが余裕綽々の態度で現れる。


「くっ」


警戒の意味を込め、知里がバックステップで距離を取る。

わからない、どんな力なのか。


「ほ、本当に、だ、大丈夫なんですか!?

知里さん、やられたりしないですよね!!?」


ルドルフが不安そうに立花に詰め寄る。

たしかに今のやり取りだけで心配になるのも無理はないだろう。サンタとサタソが、どんな原理かわからないが一瞬で位置を変えたのだ。つまり、攻撃の瞬間に入れ換わったらサンタの命が…。


もちろん対峙している知里も同じ発想だ、思わず嫌な脂汗が出てしまっている。


(どうしたらいいかな、攻撃出来なくなったじゃない…)


劣勢な空気の中、その空気を裂くようにサタソの口から聞き捨てならない言葉が飛び出した。



「サンタを連れて帰ってもいいよ?


君達が帰れるならね」


挑発の言葉に、辛抱弱く、しびれを切らした知里が乗らないわけがない。


「キーッ!

むかつくッ!!」


我慢の限界だ、知里は先程と同じように身を低くしながら、剣を斜に構えつつ再び突進した。

ふん、と鼻で笑いながらサタソがサンタと入れ替わる。


「サンタクロース様!」


ルドルフが叫ぶ。


叫びが届いたのか、サンタは

「うぅ…」と意識を取り戻したようだ。しかし知里の攻撃は止まらない!


「知里ちゃん、ダメだ!!」


立花も静止を呼び掛けるがもう間に合わない!

もうサンタが斬られるしかないと皆が目を背けたくなるが、剣がサンタの下方から切り上げることはなかった。

知里は直前で剣の軌道を地面側に下げ、地面に剣をぶつけることでブレーキをかけ、攻撃を止めたのだ。


「ふぅ…危なかった!」


危機一髪の状態からなんとか脱したからか、立花とルドルフはホッと胸を撫で下ろした。


「ほぉ!やるじゃないか」


サタソが感嘆の声を上げる。

知里はサンタを、立花、ルドルフもそれぞれ川上とRPGを抱きかかえ逃げるつもりだ。サンタがこちらに戻れば、それ以外はどうでもよいのだから。


「皆さん、行きますよ!

早く!!」


ルドルフ達は移動の準備を即座に整え、その場から立ち去る。全速力のそりは島の夜空を駆け、なんとか脱出に成功したかに見えた。


「行かせると思うかね?」


追い掛けてきたサタソがそりに掴まる。


「ひいいゃあああ!

追ってくるなんて!!


しつこいなぁ!」


振り落とそうとするルドルフの最高スピードにサタソも逃すまいとそりに掴まるのが精一杯のようだ。

必死に逃げたいルドルフ達だったが、その逃亡劇も突如終わりを告げた。


「ぜぇ…ぜぇ……も、もうダメです…」


ルドルフの体力が底を尽き、サタソと共にそりはまっ逆さまに落ちていった。


「「「「うわああぁぁぁぁ」」」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る