いざ!たいけつ!


「着きましたよ、悪魔の巣窟……通称デビル島に」

「名前安直過ぎない? あと正直もう帰りたい」

「ムネリン? ここからがお楽しみだよ?」


 ルドルフ率いる英雄達が辿り着いたのは、禍々しい気が渦巻くデビル島。地に足を付いた瞬間からかなりのプレッシャーに襲われる。


「正直、僕もこんな所一秒でも早く脱出したいです……さあ、さっさと行きましょう、さっさと」

「ちょっと強気になってきてるよね?」

「んん? なんだお前ら、ここに何しに来やがったんだァ?」


 異変を感じたのか、悪魔らしき羽を生やした男が四人へと近寄ってくる。流石のルドルフでも、悪魔や天使の時間を止めることは出来ない。


「早速お出ましですか……どうしましょう」


 不安がるルドルフの横を英雄達はなんのためらいもなく、すたすたと歩いていく。


「あ、サンタクロースを連れ戻しにきました。それでは」

「またね~」

"カワカミ 重い"

「は?」


 当然、素通りされたルドルフと悪魔はぽかんと口を開けている。

 先に我に返ったルドルフは、申し訳なさそうに頭を垂れ、愛想笑いをしながら悪魔の横を通りすぎていった。


「うーん……? なんだったんだアイツらは……?」


 どうやら、悪魔は馬鹿みたいだ。


「あれ、追いかけてこないですかね……?」


 ルドルフの問いに、「まあ大丈夫でしょ」と軽く流す立花。

 顔色一つ変えずに大きな荷物袋を担いでいるRPGは、無言で先頭を歩いていく。


"あそこをみて"


 最初の悪魔を通りすぎた所から少し過ぎた所、RPGの視線の先には大量の悪魔が集まる、言わばモンスターハウスのような開けた土地が広がっていた。


「うわ、関わりたくないなぁ」

「まあまあムネリン。みててね?」


 知里はそう言うと、常軌を逸した行動に出た。


「サンタクロースさーん、どこかねー?」

「ちょっと何してるの!?」


 モンスターハウスならぬデビルハウス中の悪魔の視線が知里に注がれる。

 ルドルフはもはやトナカイではなく、カニのようになってしまっていた。


「おいおい、ここを正面突破しようたァ随分強気だな?」

「サンタクロースの居場所だァ? 舐めてンのか?」


 案の定、四人を見下したように悪魔が距離を縮め、あっという間に囲まれてしまった。


「こいつは……あんときのトナカイじゃねえか! 泣き虫野郎の!」

「ははっこりゃ傑作だ! 真っ赤な鼻をしやがって、また笑われにきたのかァ?」


 周囲から巻き起こる爆笑の渦に、ルドルフは必死に涙を堪えている。

 すると横にいた知里が、リーダーらしき背の高くよく喋る悪魔へと歩を進めた。


「ねえ、サンタクロースはどこ?」

「ああ!? 俺様が答えるとでも思ってンのかこのガ――――」

「どこ?」

「この先真っ直ぐ行ったとこっす」

「嘘でしょ!?」


 知里が優しく微笑みかけただけで、簡単に悪魔はサンタクロースの居場所を割った。

 流石は『魔王』とでも言っておこう。


「うっ……こ、こんなので本当にいいんですかぁ……?」

「良いに決まってるでしょ。あと、早く涙拭きな?」

「ぐすっ……はいぃ……」


 ルドルフは持っていたハンカチで涙を拭くと、四人は悪魔の指す方向へと進み始めた。


「フフフ…………ついに来ましたか」


 その様子を見つめる悪意の目が一つ、微笑む…………




「さ、サンタクロース様ぁ!」


 ルドルフ達の進む先にあったのはいかにもな城。

 何事もなく、城の五階に当たる最上階まで訪れた彼らを待ち受けていたのは、手足を縛られ、身動きの取れなくなったサンタクロース。そして、微笑に口角を上げる二メートル程の悪魔であった。

 いよいよの最終決戦に備え、RPGは抱えていた大きな袋を入り口付近に雑に置いた。


「ようこそ我が城へ。私はサタソと申します。早速ですが、さようなら」

「え、それってどういう――――」


"よけろ!"


 サタソと名乗る悪魔の指からレーザーが射出される。

 咄嗟にRPGが立花と知里を真横に突飛ばし、ルドルフは驚きながらも間一髪でレーザーをかわした。


「あ、ありがとう」

「立花さん、知里さん! 早く立ってください! 来ますよ!」


 教会のように広い部屋に、五本分のレーザーが飛び交う。

 ルドルフや立花が恐怖に顔を歪ませる中、知里は楽しそうに、RPGは無表情でジグザグに、けれども確実にレーザーを避けていた。


「撤退です! やっぱり、戦力が足りなかったんですよ!」

「で、でもソリまで逃げ切れるかな……?」

「えー逃げるのムネリン?」

「当たり前でしょ!」


 全員が部屋への扉を抜けたことを確認し、RPGが扉を思いっきり閉める。

 その後、階段を駆ける三人を横目に彼は扉の前に立ち塞がった。


「RPG様! 早く逃げましょう!」


"オマエラは先に行け"


 扉が破られ、ルドルフはサタソの姿を視認した。

 本来ならここで無理矢理にでもRPGを連れ戻したい所だが、決意を固めた男の目…………彼の覚悟を無駄にはしたくなかった。


「すぐに新たな英雄様を連れて帰ってきます! それまでどうかご無事で!」


 三人は階段の下へと姿を消した。

 一人残されたRPGは、絶体絶命の状況の中、いるはずのない男の名前を口にした。


"カワカミ 起きろ"


「ふぅ……それで、これはどういう状況かな?」

「二人目の英雄ですって……?」


 RPGが袋を剣で裂くと、中から死んだはずの川上が飛び出してきた。だが彼は状況を何一つ理解していないため、現段階では使い物にならない。


"カワカミ そこの悪魔に抱きついて"


「うん? こうかい?」


 RPGの言葉を疑問に感じながらも、言われた通りに自分より長身なサタソの腰を日本の腕で掴んだ。

 サタソは川上の存在とその行動に処理が追い付いていない様子である。


"照準よし カワカミはサタソと運命を共にしようとしている! 楽にしてあげますか?"

 はい

 勿論

 当然

 是非


「確実に殺しに来てるよね?」


 バッドエンドしか未来の無くなった川上の選択は"是非"。RPGの銃から放たれた、レーザーよりも大きな光線は見事に川上とサタソを撃ち抜いた。


「味方もろとも…………とはぁぁぁあ! ――――なんてね」


"!?"


 視界が晴れ、煙からサタソが無傷で登場。

 川上は再び深い眠りへと誘われた。


"ただの屍のようだ"


「では、さようなら」


 ここでRPGは意識を手放した。

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