悪魔の巣窟 著稲キツネ
一通りの説明を終え、あらかた事情を把握した知里と立花はルドルフの引くソリへと乗せられていた。
「ほぇ~、早いねこれ」
「当然ですよ! なんてったって、僕はサンタクロース様の足ですから!」
自慢気に鼻を鳴らし、スピードを上げるルドルフが向かう先は次の英雄の元。いくら立花と知里という二人の英雄が集まったと言えど、相手は常人が太刀打ちできない悪魔。サンタクロースの救出は一筋縄ではいかないことは確かだ。
「はい、着きましたよ!」
「ここは?」
出発してから数分で目的地へと到着。
次の英雄が居るとされる場所には、大きな建物が聳え立っていた。
「ここは主学園という高校です。何しろエリートと呼ばれる生徒が集まる所らしいので、英雄様にも期待ができますね!」
「はぁ、僕たちには期待してなかったってこと?」
慌てて「そんなことないですよ~」と弁解をするルドルフ。けれど、その目はマグロの如く泳いでいた。
「バチャバチャー」
「効果音とかいらないからね!?」
「いいから早くいきましょう!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「これは……誰の能力なのかな?」
突如、動きを止めた生徒達。
時が止まったことを裏付けるかのように、物音一つしない静寂が教室内には広がっていた。
「とりあえず、落ち着こうかな」
川上イキルは深呼吸をし、席を立ち上がった。
今は休み時間であり、この場にいない生徒もしばしば。
たった今まで会話をしていた後輩二人の横を通りすぎると、自分の他に行動ができている生徒を探すため、教室の外へと飛び出した。
「どうしてこんなことに…………あ。もしかして僕が死んでいる間に何かあったのかな?」
『死にゲーの主人公』という二つ名をもつ川上は、命を落とすことにより、怪我等を完全回復した状態で一時間後に復活できるという特殊能力を持っている。そのため、いつも死ぬ瞬間から生き返るまでの記憶がすっぽり抜けているのだ。
いつも、といっても大概はある男子生徒によるものだが。
廊下をさ迷い、外へと足を運ぼうとしたその時、川上は背後から何者かの気配を感じた。
(これは…………この気配は…………!)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「中に入った訳だけど。何階にいけばいいのかな?」
「上へ。上へ高くまでいこうじゃないか」
「何とかと煙は~って言葉通りだよ!?」
静まり返った廊下に、立花と知里の声が響き渡る。
ルドルフはそんな二人を余所に、何かを探しているようだった。
「…………あった! ありましたよ!」
「あったって何が?」
「この学校の避難経路図です。教室の場所がわかるのではないかと――――って、教室以外の表記がない!?」
昇降口の壁に貼ってある避難経路図に示されていたのは、一階に教室があることのみ。二階から上は完全な謎となっていた。
「いいから早くいこうよ」
「それさっきも聞いた気がするよ!」
一刻も早くサンタクロース様を助けなければ、との思いで教室へと向かう三人。立花と知里が同じ思いを掲げていたかどうかは謎だが。
「うわっ! 何コレどういうこと!?」
「え、英雄様!?」
三人の向かった先で待っていたのは、右手に銃を、左手に剣を装備したドット絵のようにはっきりしない男だった。
そして、その男の足下には一人の亡骸が転がっていた。
「デデデデ、デデデデ、デーデー」
「そんなサスペンスみたいな効果音出すんじゃありません!」
「お、落ち着いてくださいお二方。きっと、話せばわかるはずです」
両者の間に沈黙が続く。
先に動いたのはドット絵の男。男は顔色一つ変えず、テレパシーのような物で直接三人に語りかけた。
"誰だ?"
初めての感覚に戸惑う三人であるが、フリーズするルドルフを置いて立花と知里が話を進める。
「僕らの休暇はいったいどこへやら。あ、僕は立花宗則と言います」
「わたしゃ知里だよ」
「某国民的アニメの挨拶に似ている気がするよ!?」
"RPGは混乱している"
「RPGって、名前なのかな?」
「そ、そうです! RPG様と川上様……このお二方を探しにここまで来たのですよ!」
先程まで横でフリーズしていたはずのルドルフが会話に割って入る。
一方のRPGは、その場で足踏みをしていた。
彼は『ロールプレイングゲームの主人公』であり、斜めに歩くことができず、感情がない。そして基本相手に選択肢を与え、その通りに行動するという短所がある。
ルドルフは続けて、
「それにしても、川上様は一体どこに……?」
"カワカミ ここにねむる"
ルドルフはまさかと思い、目を見開いた。
サンタクロースを取り戻すために必要な、大事な英雄が一人欠けてしまったから。
立花もどうしたもんかね、とため息を漏らしている。
「RPGだけでも連れていかないかね?」
「初対面で呼び捨て!?」
"どこへ"
「えーと、悪魔退治かな? 強そうだし行こうよ」
「そんなの受け入れる訳が……」
"RPGは仲間に成りたそうな目でこちらを見ている……仲間にして上げますか? ちなみに、期間限定でカワカミ付き"
はい
いいえ
「はい、かな。でもカワカミはどっちでも」
「いらないからね!?」
「ま、待ってください! この後サンタクロース様を救いに、悪魔達の巣窟へと向かうのですが、三人では到底敵いませんよ!?」
"大丈夫 だから早く連れていけ"
「で、ですが……」
"RPGとカワカミを連れ、すぐに悪魔の元へ向かいますか?"
はい
BAD END
「選択肢が一つしかない!?」
「わかりました…………どうなっても知りませんよ、もう!」
「よーしがんばろーぅ!」
こうして、ソリへと乗せられた三人と袋詰めにされた一体(?)はルドルフに連れられ、悪魔の巣窟へ向かうのだった。
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