第14話 想うということ。
多分これは、恋愛事に詳しい人間からすれば、まだまだ恋にもみたない想い。自分でもよく分からないし、話したこともない相手。それでも。
廊下で擦れ違えば嬉しくて。男子と話していれば悲しくて。そんな風に想うことが、自分でも出来たのだから。
「……は?別れた?」
翔は驚いたように目を瞠る。付き合い出して三週間ほどしか経っていないけれど、自分にしてはそれほど短くもないと思うのだが。
そう言えば、翔は困ったように「そういうことじゃなくて」と呟いた。
「ほら、休みだから待ってるとか言ってたじゃんか。だから、今度こそ本気で好きになれたのかなって思ってたんだよ」
「違ったのかー」と嘆く翔を、母親のようだと感じたのは何も初めてのことでもなく。「いや、それは別の子のこと」と呟けば、彼はさらに驚いた顔になって、「は?」と口を開いた。
「俺、好きな子が出来たかも」
正確に言えば一目惚れのようなものだし、本当は春川が自分の思うような性格ではないかもしれないけれど、それでも。
今この瞬間、確かに自分は、想いを寄せることが出来ているのだから。
彼女が笑っていれば嬉しい。それが自分の傍であればもっと嬉しい。
言葉を交わしてみたい。その視線をこちらに向けてみたい。そんなことを、思えるから。
彼女に想い人がいるなんて、そんな些細なこと、気にしない。
世間ではそれを、失恋と言うとしても。
「はぁ?」とおかしな顔で言ってくる翔に、「ねぇ」と柚木は訊ねる。「サッカー部で、恋人がいるのって誰?」と。
まずは春川の相手を見つけて、その相手に勝るところから始めなければならないと、そう思ったから。
きょとんとした表情の翔がこれから言う一言に、心の中で彼に宣戦布告するまで、後少し。
想うということ。 蒼月ヤミ @yukinokakera
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