出席番号 6番 ありのまま

卒業文集って何を書けばいいのか……仲のいい(と思っている)保健室の先生に訊いてみたら、ありのままの6年間を投影すればいいって言われたから、このくそったれな学校生活を綴ってみようと思う。こんな言葉遣いでいいのかな、保健室の先生の言葉を信じますね。


私は単位が落ちないギリギリまで保健室と図書室に入り浸るような、そんな学校生活だった。

なにも、中1からそんな感じだったわけではない。友だちも1人できたし、得意な英語で先生に褒められたり、私はそのささやかな幸せだけで満足だった。

しかし転機が訪れたのは1月の合唱コン、声を出すのが苦手な私は合唱なんて、嫌いなものでしかなかった。歌っていると、客観的に自分を見た時に上手くもない子供たちが集まって歌っているところを想像して、なんだか馬鹿馬鹿しく見えて、恥ずかしくなってくるのだ。鳥肌がプツプツ立ってきて目眩がしてくるのだ。

私1人いなくなったところで影響しないに決まっているのに、いちいち突っかかってくる委員長や一軍の奴らにウンザリしていた。だが練習を休み休み、なんとか耐えていたのだ。

しかし、最後の合唱コン、高2の合唱コンだ。みんなの思い入れが違った。

練習を休むと、しつこく責められたり、声が小さいことの改善と称してみんなの前で1人で歌わされたりした。

初めてリアルに膝が震える体験をした。私は限界だった。だから信じている唯一の友達に相談してみたのだ。

彼女は言った、『みんなで仕上げる合唱なんだから仕方がないよ』

彼女は委員長やアホな一軍の奴と同じことを言った。私を傷つけた教師と同じことを言った。私が唯一の理解者だと思っていた彼女は敵だったのだ。

合唱の練習を強いられる学校が怖くなって、保健室にも図書館にも行けなくなった。欠席が続いたのだ。そのまま合唱コンも休んでしまった。


ああ、どうしよう。次に学校行く時に殺されるのではないか、そう思った。いろんな悪夢を見た。


でも進級ができないのは困るので合唱コンの2週間後に初めて出席した。家で遺書まで書いて、重い足を引きずりながらクラスの戸を開けた。


しかしクラスのみんなは私のことなんて忘れて、合唱コンの金賞を喜んでいただけだった。

やっぱり私のなんていらなかったんだ。ほら中学生の時からわかってたじゃん。

優しい唯一の友人は何事もなかったかのように話しかけてくれる。その善意の攻撃もしんどかった。


そんな思い出しか残らない高校生活でした。いつかこの6年間を笑い飛ばせる大人になれますように。無理かな。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

卒業文集 む つ き @mutsumutsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ