外伝
1.新たなる世界へ
走り回る子供達は教育を受け、小ざっぱりした服を身に纏う。国が滅びて難民として流れ着いた民も、元からバシレイアに暮らしてきた民も、良好な関係が築けていた。まれに騒動が起きても、自警団が積極的にかかわって解決していく。
ミミズや土竜が開拓した畑は、麦や野菜が豊かに実った。運河を整備した湖は漁業が盛んで、観光地としても人気が高い。すべての改革はうまく機能していた。王国を引き継いだ直後は破綻寸前だった財政も、滅ぼした国から回収した資金を使って回せている。
あと数十年は何もせずとも現状を維持できるだろう。ここ20年ほどの成果を書類で受け取り、オレは頬を緩めた。魔族だろうと人間だろうと、働いた分の利益を得ることは権利だ。人間の街だったバシレイアの都も、今は様々な種族が並び住む土地となった。
すべての地区に種族入り混じって暮らす世界は、思ったより混乱も少なく受け入れられている。一番は、それぞれの特技を生かして他種族と助け合うことを覚えた影響だろう。この辺の教育は、ロゼマリアが必死に行ってくれた成果だ。
「我が君、我らであの果ての地を調べてみたいのですが」
100年ほど大人しくしていたアルシエルだが、やはり山脈の向こうの土地が気になるらしい。記憶をなくした原因も不明のまま放置されてきた。危険だという判断がひとつ、ひとまず手元の土地を開拓するのが先という考えもある。一段落した今、未開拓で手付かずの土地が気になったのだろう。
宰相アガレスが身罷って早3年。喪に服していた人々も通常の日常を取り戻した。新しい宰相職に就いた若者は、アガレスが自ら選び教育を施して育てた子だ。有能で真面目なところがそっくりだと、オリヴィエラは笑っていた。
ロゼマリアが亡くなってからしばらく閉じこもっていたオリヴィエラだが、10年ほど経過した頃、突然出てきた。その数日前に兄イラーリオが訪ねてきたのが影響したようだ。内容は知らないが城の一室を吹き飛ばす兄妹喧嘩をして、アスタルテに両成敗で叩きのめされた。
その辺で感情に折り合いをつけたらしい。兄妹は一緒に暮らすようになり、精神的に不安定になっていたオリヴィエラも持ち直した。やはり長く一緒に暮らした家族というのは、影響が大きいようだ。出会う度に意味不明の威嚇をしていたイラーリオも、この頃はだいぶ落ち着いた。
あれはリリアーナと腕を組んで歩いていた時だったか。偶然鉢合わせしたイラーリオが驚いた顔をして、その後オリヴィエラに詰め寄った。何か唸り声で会話した後、態度が軟化して首を傾げた覚えがある。まあ、オレは手間が省けたが。
「ふむ。興味があるな、共に行くか」
呟いたオレの声に、どこからか参加者が名乗り出てくる。アルシエルの同行を決めたオレを乗せる役に、リリアーナが立候補した。ここまでは想定していたが、アスタルテ、バアル、アナト、そしてイシェトやベルゼブブ。同行希望者の数の多さに「減らせ」と命じたところ、城の塔が吹き飛ばされる騒動に陥った。
「サタン様、命じ方が下手」
いまだに片言で喋るリリアーナに指摘され、表には出さないが多少落ち込んだ。
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