419.オレに二言はない
同じ寿命を生きる種族がいるのかどうか。それすら分からない。一番長く傍にいたのはアスタルテだ。次いで、ククルや双子だった。
ククルは神力の回復を諦め、すべてを魔力に変換した。そのため姿だけは神族だった頃の成人した女性になり、夫にマルファスを迎える。愛した男のために、神族としての未来を捨てた。わずか数十年の寿命しかないマルファスも、つい先日腰が痛いとぼやいていたが。
ロゼマリアが独身を貫いたのは、王家の穢れた血を残さぬためらしい。だがそれは言い訳で、オリヴィエラと少しでも長く過ごしたかったのだろう。女性同士、そんな野暮な言葉はこの国に不要だ。誰であっても、好きあった者同士が一緒に暮らせば良い。
アスタルテはヴィネを夫にすると決め、厳しく躾と教育を施していた。何度断っても告白する子供に根負けしたようだ。苦笑いしながら報告に来たのは、数年前。今は一緒に肩を並べて歩く姿をよく見かける。
アルシエルは若い竜と番った。数百年は起こすなと地下牢に眠るウラノスは目覚める様子がない。クリスティーヌは魔術師のティカルと結婚した。妹のマヤが結婚するまでは、そうごねるティカルを宥めすかし押し倒した。今では5人も子供がいる。レーシーは先日、番った夫を見送ったばかりだった。
――そうか、オレは取り残されたのか。
突然、閃くようにそう思う。部下はいく末を決め、自ら動いた。それを見送りながら安定した治世を作ろうと必死になり、気付いたら残されていたのだ。
離宮で孤児を迎えて見送り続けるリシュヤとも違う。もうオレの手がなくとも、政は動く段階だった。番や生き甲斐を見つけた彼らと違い、オレには何も残らない。
父王の荒れた治世を見て、殺されず生き残るために魔王を目指した。敵を倒し、放置された政の犠牲者の置かれた状況に憤怒する。それらが一段落したところで、オレに何が残っているのか。
「あのね、私がいるよ。ずっとサタン様と一緒にいる。離れたりしない」
100年は育ててやるつもりだった。愛玩動物として手元に置いた小竜は、美しい微笑みで手を伸ばす。まだ残ってるよ、そう告げながらオレに抱きついた。
反射的に抱き締め、慣れた温もりに目を細める。そうだな、お前はずっと残っていたな。
「まだいるのか?」
「うん。サタン様の正妻になるの、だから死んでも離れない」
ドラゴンの雌らしい言い分だ。成長したリリアーナの背丈は、オレの肩に並んだ。褐色の肌は以前より色濃く、金髪は鮮やかさを増した。胸は大きく膨らみ、くびれた腰の下にまろやかな尻が艶かしいラインを描く。子供の柔らかさが抜けて、成人した美しい女性の表情でオレを見上げた。
するりと腕を組み、当たり前のようにオレに微笑む。どうやら捕まえたのではなく、捕まったらしい。数十年でオレを落とすとは大した腕だ。
「良かろう、我が隣に立ち共に歩め」
「ほん、と? いいの? ダメって言わないでね、私……正妻になっていいんだよね」
繰り返し確認するリリアーナの金瞳から、ぽろりと涙が落ちる。頬を伝うそれを指で拭い、それから眦にも触れた。
「オレに二言はない」
潤んだ金瞳は、魅了の魔力を放っていない。だが、思えば初めて出会った頃から気になっていたのだろう。このオレが無礼を咎めずに生かしたこと、前世界から追ってきたアスタルテ達はおかしいと感じていたはず。
この黄金の瞳に――囚われるのも一興だ。さあ、魔王となったオレを手に入れろ、リリアーナ。
The END or?
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長らくのお付き合い、ありがとうございました。
この先の幸せ(´∀`*)ウフフは、ご想像にお任せします。詳しく書くほど、サタンらしさが失われる気がして、このラストはかなり手前で決まっていました。
リクエストをいただければ、不定期になりますが書いていきたいと思います。
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