417.狩りの方が性に合っている

 大量の書類を処理するより、こちらの方が向いている。自分の適性を冷静に判断しながら、オレは飛びかかってきた巨大な熊を倒した。


 一閃した剣の刃が首を飛ばせば、大量の血が噴き出す。魔力で逆さに吊るし、血抜きしながらリリアーナを待った。血の流出が落ち着いた頃、ようやく彼女は現れる。両手に鹿や兎など大量の獲物を掴んでいた。


 ロゼマリアが整えた金髪はぼさぼさ、オリヴィエラが磨いた爪も鋭く尖っている。彼女達が目指した淑女と正反対の姿だが、この方がリリアーナらしい。綺麗なドレスを着た恰好も悪くないのだが、やはり出会った頃の印象が強かった。


 己の強さを最大に利用し、魅了眼まで駆使して生き残ったドラゴン。最強の呼び声高い黒竜でありながら、同族の竜に蔑まれた子。それでも自力で生き残れたのは、彼女自身の強さだった。


「たくさん獲った!!」


 吊るされた熊を見ると、目を輝かせる。熊肉が好きなのか? 多めに食わせてやろうと考えていると、獲物を置いて飛びついてくる。


「熊、煮ると美味い」


「そうか。料理人に伝えておこう」


 そこへ猪を追い立てるマルコシアスが飛び込む。威嚇する銀狼が群れで囲い、オレのいる広場に誘導した。先ほど熊の首を刎ねた剣を手に、猪の背に突き立てる。そのまま勢いを利用して二つに裂いた。


「お待たせいたし……いえ、お邪魔しました」


 約束通り追い込んだというのに、マルコシアスは尻尾を巻いて耳を垂らす。彼の視線の先で、腰に手を当てて睨むリリアーナがいた。獲物を追うために振り払ったのが気に入らなかったようだ。仕方なく彼女の金髪に絡まった木の枝を外し、頭を撫でて機嫌を取る。


「猪も美味いぞ」


「うん、今日はお風呂一緒に入ろうね」


「好きにしろ」


 許可してやれば機嫌がいい。ククルやアスタルテが物言いたげな目で見てくるが、何も言わないので放置してきた。今日も同じだろう。


 明日から収穫祭と呼ばれる祭りがあるという。人間は一年の実りに感謝し、来年の豊作を祝う祭りを楽しみにするそうだ。ロゼマリアの話によれば、農民は一年の疲れを癒やし、商人は店を出して稼ぐ。酒を飲んで美味いものを食べ、満足するまで騒ぐのが慣習なのだと。


 祭りの有無で翌年の士気が変わると聞けば、開催を否定する理由はない。民にとって良い君主とは、衣食住と生命を保証する存在だ。そこへ娯楽を加えてやれば、働く意欲が増すはずだった。アスタルテが予算を組み、アガレスが準備に取り掛かったので、協力の一環として銀狼や黒竜を連れて狩りを行った。


 これだけの肉があれば、王都や周辺の民を食わせるに十分だろう。来る途中で遭遇したワイバーンも捕獲している。祭りへの参加は初めてだとはしゃぐリリアーナも、明日は着飾る予定だった。


「もう少しいる?」


「十分だろう。帰るぞ」


 猪や熊を始めとする獲物を収納し、竜化したリリアーナの背に跨る。大地を走って帰る銀狼達を労い、彼らの取り分である肉を分け与えた。


 明日は忙しくなりそうだ。

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