416.変化する役割と立場に順応すべきだろう

 休憩を兼ねた食事の間に、全員の活躍と戦いぶりを聞き終えた。報告会はこの形の方が好ましいかも知れぬ。思ったより早く、詳細な情報が手に入ることに驚いた。


 過去に一部の部下が「会食しましょう」と訴えていたのは、この効果を知っていたのか。口が軽くなるのもあるが、報告では省かれる話が混じることで、それぞれの性格や特性の違いも浮き彫りとなった。深く互いを知る手段として、今後は積極的に活用しよう。


「魔族の抵抗はこれで終わったと思うわ」


 元魔王イシェトの断言に誰も反論しなかった。魔族は組織だった抵抗より、個体の能力を重んじる。文句があれば、直接魔王へ攻撃を仕掛けるのがやり方だ。それが卑怯な手段や姑息な方法であっても、誰も文句は言わない。正々堂々と戦うのは、人間の流儀だった。


「早急に国の基盤を整える必要があります」


 アスタルテは過去に経験した手順を思い出しながら、文官と武官の増強を提案した。魔族の手を借りるとなれば、王都の人間にも慣れてもらう必要がある。魔族にも人間は貴重な労働力なので、殺さぬよう命じなければ……。罰則を用意するか。


 あっという間に実務レベルの会議が始まり、アガレスとアスタルテを中心に話が決まっていく。そこへ魔族を束ねてきたアルシエルが加わり、なぜかムキになったヴィネが首を突っ込んだ。


「基盤は任せるとして、僕は教育関連かな」


「研究職や専門職も育てないと」


 バアルは教育に興味を持ち、アナトは職人の保護や育成を急ぐべきと主張した。それぞれに権限を持たせれば動くであろう。


 組織の頂点に立つ者に求められるのは、適材適所に有能な者を配置すること。部下の機運を高め、やる気を削がないこと。部下に裁量を与えることだ。面倒な金の工面や雑務を引き受けるのも最低限の役割だろう。


 王がすべてを完璧にこなす必要はない。政は宰相や文官を中心に行い、方向性を示せば良い。戦いでは先頭に立ち、兵士を奮い立たせる。進むときは部下を後押ししてやり、退くときはすべての責任を追う――それが王の務めだった。


「他の国を見てみたい」


 クリスティーヌの希望に、ティカルが頷いた。妹マヤも目を輝かせる。まだ幼いと表現できる年齢しか生きていないのだ。見聞を広げるのもひとつだろう。頷いて許可する意向を示すと、嬉しそうに手を取り合ってはしゃいだ。


「私は貴族制度を廃止したいと思います」


 王族の姫君という肩書きを持つロゼマリアの発言に、ククルが賛同する。実力主義の魔族にとって、先祖から受け継いだ肩書きだけで特権を得る貴族の有り様は違和感が強かった。


「いいね。それ、協力するよ」


「本当ですか! ありがとうございます」


 自らの生い立ちを否定するような意見は、オリヴィエラとの交流が生んだのか。ロゼマリアは嬉しそうに笑った。かつて上位者の一挙手一投足に怯えた王女は、もういない。


「よかろう。立場や肩書きを問わず、提案を持ち込むが良い」


 わっと盛り上がる騒動を聞きつけた侍女や騎士も、事情を理解すると歓声を上げる。これはしばらく忙しくなる。覚悟を決めて席を立った。

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