397.圧倒的強者による地上の蹂躙だ
上空で戦う魔王と側近達を眺め、マルコシアスはひとつ深呼吸をした。この場面で地上に敵が押し寄せないはずがない。狼以外の魔物にも声をかけた。
新たな魔王であるサタン様の庇護下に入ることを誓った者達を見回す。それから号令をかけた。
「我が君より、この地は我が預かった。侵入する魔族を一匹も通すな!」
「「「おう」」」
遠吠えに混じって声が上がり、一斉に散っていく。狒々は木の上から攻撃するため準備を始め、魔狼は一定の間隔をあけながら布陣された。その間を守る魔物の中に、アンデッドと呼ばれるスケルトンやミイラも混じっている。
アンデッドと魔獣が共闘することはなく、互いに存在を無視する間柄だった。しかし今回は話が別だ。魔王より預かった土地を守る代わりに、彼らも安住の地が欲しいと名乗り出た。すでに主従の契りを交わしたマルコシアスの提案は受け入れられ、アンデッドの住まう地を約束されている。
デュラハンも名乗りをあげ、情報収集にレーシーの一族も参加した。敵以上に混成部隊となった地上は、防衛ラインが引かれていく。その死守すべきラインへ押し寄せる敵は、圧倒的な数だった。
甲高いレーシーの悲鳴と、逃走しようか迷う森の民の混乱が広がる。そこへ上空から影がかかった。
「ねえ、手伝うよ」
「僕もまだ暴れたりないし」
くすくす笑う双子は、そう口にした。マルコシアスが了承するより早く、遊撃を担当する彼らは大量の魔力を魔法陣に注いだ。
「まず、ここを割る」
バアルの言葉は途中から轟音に紛れ、大地が陥没した。味方が巻き込まれない絶妙の攻撃だが、敵の先鋒が飲み込まれる。割れた大地の底から聞こえる悲鳴に、双子ははしゃいでタッチし合った。
「それから塞ぐの」
アナトが新たな魔法陣を穴の上に置いた。陥没した穴の底は深く、暗く、何も見えない。その穴をそのまま……何もせずに塞いだ。
見た目は元通りだ。違いがあるとすれば、進撃してきた敵が消えたことだけ。穴の底にいるはずの者が、生きて地上に出ることはない。厳重に封印して、アナトはにっこりと笑みを浮かべた。
「大地って、たくさんの栄養が必要なの。食べて吸収する。きっとこの土地は肥沃になるよ」
言われている内容は間違っていないのに、恐怖が背筋を走った。通常は死んだ生き物が土に分解され、大地を潤す。もっと早いサイクルで動くのは、森の木々や草達だ。それを一方的な蹂躙で、強制的に引き起こした。
「貴殿らが敵でなくてよかったぞ」
心底、そう思う。マルコシアスの元へ、息子マーナガルムも応援に駆けつけた。
「向こうが苦戦している。キメラの群れだ」
マーナガルムが守る山へ続く方角を示し、新たな脅威を知らせる。しかし、双子は手を叩いて喜んだ。
「キメラ?」
「やった! あの子の好物だったよね」
「「捕まえよう(よ)」」
反応が普通ではない。だが魔王自体が普通ではなく、過去の魔王達とこれほどに違うのだ。同じ世界からきた側近が違うのも当然か。環境の変化に従順で順応力の高い魔獣の長は、銀灰色の尻尾を振って走り出した。
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