264.尊大に振る舞う必要はない

 今までと違ったのは、立ち上がって出迎えたことだろう。こちらの領地内に詫びるべき相手が入ったのだ。座って出迎えるのは失礼にあたる。玉座から立ち上がるオレに、国王は驚いたようだった。


 通常迎える側の王は遅れて入り、力関係を示す。それが最初から待っていて、段下に降りて出迎えるなど異例中の異例だろう。しかしオレは魔王であり、人間の道理に従う必要はない。ましてや迷惑をかけた相手を座って出迎えるのは無礼に等しかった。


「改めて詫びよう。我が臣下が貴国の民を害したこと、謝罪する」


「先ほども申し上げましたが、我らの先触れなき侵犯が原因です。貴殿の臣下は国を護る役目を果たしたと考えます」


 このやり取りで謝罪の応酬は終わりとなった。玉座の間での会話は公式記録となる。書き取る文官に目くばせし、退出を促した。驚く文官を、宰相アガレスが外へ出す。


 円卓を用意させ、玉座方向を空けて座ることで敬意を示した。気づいたキララウス国王ダーウードが向かいに座り、集まった文官に着座を促した。アースティルティトは当然のように右側を選び、アガレスもその隣に着座し、護衛が取り巻く形で落ち着く。


「陛下! 遅くなりましたわ」


 着飾れと命じておいたが、支度に時間をかけた彼女らが飛び込んできた。全員が淡い色のドレスを選んだらしく、水色やミントグリーン、ピンクなどの華やかだが柔らかい色ばかりだ。出迎えに遅れたなら、いっそ歓待の場までずらせばよいのだが、タイミングが悪い。


 ちらりと目くばせすると、ロゼマリアは気づいて会釈した。


「隣の部屋に食事のご用意をさせていただきますので、ごゆっくり」


 そう告げると、リリアーナ達を促して一時的に退出を選ぶ。こういった場の振る舞いは、元王女だけあって優れている。上手に言いくるめたリリアーナやククルを連れて、隣室へと下がった。


「魔王陛下の周囲は華やかですね」


 穏やかな世間話から切り出したダーウードの姿勢に、アースティルティトが微笑んで答える。


「騒がしくて申し訳ないですわ。我々は魔族ですが人の痛みを知っております。お亡くなりになった方への補償として、キララウスの方々に何か提供させていただきたいのですが」


 押し付ける言葉を使わず、穏やかに相手の意向を聞き出す。外交を得意とする彼女らしい言い回しに、ダーウードは一瞬言葉を飲んだ。視線がテーブルの上をさまよい、キララウスの大臣職の者らと目で会話する。その間を狙い、侍女達がお茶を用意した。


 元孤児やその世話係として選ばれた侍女達は、今では立派に仕事を覚えて城の一員となった。かつては貴族令嬢ばかりで、気位ばかり高く役に立たなかった侍女はもういない。平民出身だが働き者で、よく気のつく女性達は優秀だった。


 お茶のポットを中央に置いて、アガレスが頷くと下がった。カップにお茶を注ぐまでが侍女の仕事だが、今回は変則的にする事情がある。アガレスは慣れた手つきで、お茶を淹れはじめた。

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