61.選ばせてやろう。素直に話すか……
ユニコーンは怯えていた。震えながら後退るが、すぐに後ろの壁に背がぶつかった。捕まって連行された先にいたのは、恐ろしいまでの魔力量を誇る男だ。顔が綺麗なのに女性に見えない彼が、命じられたターゲットだと気づいた。
こんな怖い奴に勝ってこいと命じるなど、敵を知らないにも程がある。絶対に僕が勝てない相手じゃないか。じりじり後退ろうとしても逃げ場がなく、いつの間にか人型に変化させられた事実に青ざめる。
自らの身体を変化させる術に魔力はあまり必要ないが、他者の身体を組み替える魔法は滅多に見ない。それだけ扱いが難しいのだ。大量の魔力と知識が必要なそれをいとも簡単そうに施されたことで、恐怖心は一気に膨らんだ。悲鳴を上げてみっともなく逃げ出したいのに、腰が抜けて背を壁に押し付けたまま震えるだけ。
「ふむ、怯えるか」
魔力量の差を感じる程度の実力はあるらしい。がたがた大げさなほど身を震わせる青年に、さらに距離を詰めた。背のマントを捌いて片膝をついて顔を覗き込む。中性的な顔は青ざめ、唇は紫色だった。血走った目が逃げ場を探して彷徨う。
頃合いだ。魔力で威圧していたオレは少しだけ和らげ、口元に酷薄そうな笑みを浮かべた。
「選ばせてやろう。素直に話すか……」
「は、話します! ぜんぶ、全部話しますから!!」
勢い込んで自白を約束するユニコーンの顔は恐怖にゆがみ、血の気が引いて哀れな状態だった。脅す前に犯人が自供を始める。今までにもよくあったので、オレはさほど気にしなかった。
「そうか」
「はいっ……僕に命令したのは黒竜王で、魔王様の側近です。城に入り込んで、異世界から来た魔族を始末して来いと毒を貰いました」
すらすらと話し始めた内容を纏めると、人手不足で募集していた侍女に応募したユニコーンは、処女の匂いに誘われて離宮へ向かった。男女合わせて20名を超える処女が集まる園に、ここは天国かと幸せに浸っていると……血の臭いがした。
襲ってきた人間が、他の人間を殺していく。それ自体は興味がないので無視しても良かった。2人の侍女がホールで殺された時は何も思わなかったが、死んだ侍女に懐いていた女児が飛び出し、強盗の人質にされる。
まだ8歳前後の処女――好みの子供を助けようと追いかけたユニコーンは、裏にある調理場に逃げ込んだ強盗に襲い掛かる料理番を見た。包丁を振り翳して戦う男は、多勢に無勢で負ける。その間に女児を保護して逃がす後ろから斬りつけられ、激痛と怒りに駆られて反撃しかけた。
なにやら叫びながら飛び込んだシスターや侍女の手前、血塗れで死んだフリをして床に転がりやり過ごす。その際に死者4人という誤った報告が生まれたのだ。強盗が外へ逃げた後、こっそりと窓から脱出する。死体として認識された以上、このまま潜入するのは無理があった。
もう一度入り込むにしても一度外へ出て、改めて変装する必要がある。ユニコーンの判断はこの時点で間違っていなかったが、今にして思えばドラゴンやグリフォンが勝てなかった敵に一角獣が敵うわけがない。さっさと逃げて失敗を報告すればよかった。
締め括られた説明に、オレは笑みを深めた。悲鳴を上げて頭を抱えるユニコーンの前で、視線の高さを合わせるために彼の顎に手をかける。無理やり上を向かせるが、目を伏せて抵抗された。
「目を抉られたいか?」
「い、いいえ!」
震えながら見上げてくる瞳は鮮やかな赤だ。人の形を取ると薄茶色になる髪は、純血種なら銀や白になる。混血なのは間違いなく、それ故にこの青年が戻れば始末されるのは間違いなかった。希少種でもないユニコーンが、失敗を許されるわけがない。
「大人しく従えば殺しはしない。役に立て」
命じれば、諦めた様子で項垂れ……やがて「わかった」と細い声が漏れた。
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