中島カレンはこの時空を愛している

小高まあな

中島カレンはこの時空を愛している

 中島カレンは恋多き女である。保育園の頃のまあくんから始まり、好きな人が途絶えることはなかった。その恋は両想いだったり、片想いのままで終わったり、長く続いたり、短命だったりと様々だったが、一つだけ言えるのはカレンは常に全力で恋をしていたということだ。すぐに次に好きな人が見つかることから、軽い印象を持つ人もいたが恋が終わるその瞬間まで、常にカレンはその人を愛していた。

 そんなカレンには、少し変わった性質がある。時間や空間を超えることが出来るのだ。いや、出来るというのは正しくない。カレンの意思に関係なく、時間や空間を、つまり時空を超えてしまうのだ。なんの前触れも、法則性もなく。

 その性質が現れたのはカレンが二十歳になった時だった。いつもどおり大学で授業を受けていたはずが、気づいたら十年先のアフリカにいた。理解から程遠い事態にカレンは慌てたが、世話をやいてくれた男に恋をしてからは話は別。彼と会話したいがために言葉を必死に覚え、なんとなくいい空気になったところで次のタイムトリップ。

 次の場所は五十年前のイギリスだった。愛した男と離れたことにカレンは落ち込んだが、そこは恋と共に生きてきた女。すぐに好きな相手ができた。英語をしっかり勉強しなかったことを後悔しながら、実践で学び、文化や世代の違いも学習していった。恋が原動力の彼女の学習能力はかなり高い。みるみる知識をつけていった。

 そうしてカレンは時間と空間を彷徨いながら、行く先々で恋をし、知識を身につけていった。その知識の豊富さから政治的事件にかかわることもあった。歴史的事件を紐解けば、その裏にカレンの存在が垣間見得ることも多々あった。だが、基本彼女は恋に生きていた。本当にそれだけだった。

 中島カレンは常に恋と共にあった。そして、好きな人を愛し、好きな人が住む場所、言葉、文化を愛した。どんな時空に行こうとも、今いる時空をカレンは愛し続けた。元の時代から見れば文明がほとんど発達していないほど昔でも、逆に発達しすぎてほぼ違う世界となった未来でも、カレンはそこに住む人間を、世界を、愛し続けた。

 カレンが元の時代に戻ることはついになかったが、彼女の人生は満たされていた。輝いていた。

 以上が先日、時間移動の痕跡を示しながら現れ、すぐに亡くなった不審な老婆の脳を解析してわかったことである。

 カレンのタイムトリップの回数は全部で172回。その全てに残されたカレンの痕跡を消す必要がある。彼女は歴史に干渉しすぎている。知識が豊富だからなおのことである。

 これが我々タイムパトロールの出した結論である。彼女の愛を、全て消すのだ。

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