第6話

「えっと、最近寝れなくって……」


 はい、うそーー。毎日普通に寝れています!



 病院の予約をした後に幻覚について少し調べてみた。

 いきなり幻覚を見るなんていう説明は見つけられなかった。何かしら変調がありその進んだ先に幻視や幻聴という症状が出るとか。

 もしかして、体調は全くおかしいと思うところはなく、いきなり変なものが見えるようになりました!イケメンの外国人がウロウロしているのが見えます!とかそんな事言ったら、冷やかしだと思われるんじゃないだろうか。ものすごく不安になりながら予約の日になりクリニックのドアを開けた。


 鈴木心療内科クリニック。

 駐車スペースが三台分。清潔そうな白を基調としたこじんまりとする建物。看板がなければ病院には見えず通り過ぎてしまいそうな感じだ。

 クラシックが静かに流れる病院の待ち合わせ室は、薄いピンクと木目で統一され、大きな観葉植物がいくつか置かれている。とても柔らかい雰囲気で、受付のおねえさんも可愛い。

 並んでいるソファーに座っている人をジロジロ見るのは失礼なんでこっそり盗み見しても、普通のサラリーマンとか主婦っぽい人しかいない。

 入院施設のありそうな大きな精神病院は敷居が高かった……。

 

 病院の雰囲気じゃないよね?なんだここ?

 心療内科ってこんな感じなの?

 俺、ここでイケメンの幻覚が見えるんですけど。とか相談しないといけないの?

 というか、当のイケメン今居なくなっちゃってるんですけど。なんで?結界?いやないわ。

『本当に見えていますか?』とか聞かれたらどうしよ。もういなくなりました!とか言うの?俺。


 どうしよう、やばい。そんな言葉しか頭に浮かばなくなったところで入った診察室の中には、にっこり笑って迎えてくれる美人な先生が居た。

 座り心地の良い椅子に座って、初診な為問診が始まり、さあこれから!という状態になって俺の心は折れました。


「それでどんな不調がありますか?」

「えっと、最近眠れなくって……」


 すみませんすみません。呪文のように心で謝りながら、もうさっさと帰りたいという一心で当たり障りのないことを喋って病院を後にした俺がいた。

 処方箋を出してもらうのも後ろめたく、けっきょく睡眠に関するアドバイスをもらって終わった。

 病院を出てもイケメンの姿はない……。



 半休の為泣く泣く会社に向かうも、イケメンは見えない。


「それで?薬はもらったのか?先生はなんて?」


 課長に呼ばれ、小会議室に押し込まれたらものすごい勢いで質問された。

『変なものが見えるんですけど、ストレスですかね?!心療内科の予約したんで有給使っていいですよね?』

 先輩のことがあるし、ぶっちゃけて半休もぎ取ったから、課長はそりゃもう必死で聞いてきた。

 立て続けに二人もストレスで退職とか困るだろうしな。それを見越して正直に、心療内科に行ってきます!と宣言したんだが。


「ストレスらしいですよ」

「え?それだけ?」

「あ、はい」


 変なものが見えるんですけど?という相談自体していないしこれくらいしか報告できない。課長もどうしたらいいのかって感じで困ってるけど、俺もどうしたらいいのか分からないしここは何も追加で言わないのが吉だろう。


「えっと……それで体調のほうは?」

「別に気になることはないですね」

「……」

「……」


 めっちゃ困ってるな。課長とお見合いしてても楽しくないし、仕事に戻りたいし早く解放してほしいだけど。


「あ、昨日提出した資料で直すところありますか?」

「え?!あ、ああ。直しはないから来週の社外会議までにまとめてくれればいい」


 仕事の話を振ると明らかにホッとした雰囲気になった。よし、このまま部屋を出よう。


「それでは、まとめの作業に入ります」

「あまり無理はするなよ」


 部屋から出る俺に課長は言うが、それなら半休じゃなくって一日有給をくれよ、と言いたい。まあ無理だろうけどな。

 というか、まじでイケメン見なくなったな。なんだったんだろうなあ。ストレスだったのかよく分からん。


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