第5話

 やばい、やばい、やばい、やばいやばいんですけど?

 とうとう自宅でも幻覚が見えるようになってしまった!!



『最初は電車に乗るとき過呼吸の発作が起こった、その後仕事中に、でもまだ大丈夫だろうと思っていたら自宅でどうにもならなくなった』

 

 親しくしていた先輩が心に不調をきたして会社を辞めたとき、仕事が全部如月に回ってしまってごめんな。と俺に頭を下げたときのことを思い出す。

 布一枚の恰好をした外国人のイケメンを見るようになってから、自分でもまずいとは思っていた。

 自分で認識するようになったらもっと症状が進むのでは?と視野に入っても出来るだけ焦点を合わせず、自分は気にしていないと思い込もうとした。

 そのうち仕事も落ち着いて消えていくかも?と期待もしていた。

 

『一番安心できる自宅で発作が起こって、もう無理だと辞めることにしたんだ』


 先輩の言葉が重くのしかかる。

 同じ道をたどっているんですけど?!

 

 今までの仕事プラス先輩が抱えていた案件。そりゃ休みも取れなくなるし最終電車とか普通。定時なにそれ?だったし、引継ぎで取りこぼしがあったらしく上司からも仕事相手からも色々と苦情が入りまくりで、その対応も厳しかった。

 そりゃストレスも貯まりますわ。ってイケメンの幻覚を見たときはすんなり思った。自分がそんな状態になるとは思っていなかったけどなぜかすんなり納得できた。

 でも先輩のように体調に不具合を起こしたわけでもなく、気楽に考えてはいたんだけど。

 これはまずい……。


 目の端に映っているイケメンに視線を合わせないように苦労しながら、とりあえずスマホで心療内科か精神科の病院を探そう。そうしよう。

 いや、でも本当に体調は普通なんだよなぁ。

 病院のリストを見ながら自分の状態のチェックをする。

 熱もないし食欲も普通。これが悪寒がするとか、気持ち悪いとか肩が上がらなくなったとかそういうのがあれば、わんちゃん幽霊?!ともおもえるんだが、そんな事まったくない。健康そのものだ。

 イケメンの周りが何か暗く見えるとかそんなものもないし、イケメンの様子も周りもいたって普通。恰好がおかしいだけ。

 うん、幻覚だわ。幽霊じゃないわ。

 そもそも今まで幽霊を見るどころか心霊写真と言われるものを見ても「どれだよ?」状態だったし。

 ハ――っとため息をつきながら病院を探していく。

 半休取って行くなら自宅か会社のある駅の近くがいいだろう。めぼしい病院をチェックして、今はもう診療時間外だし明日の午前中にでも予約の電話をしよう……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る