最終話 なんちゃってハーレムの女神様
部展最終日が終わった。例年以上の来場者があった今回は忙しかったが、幸いにもトラブルなどは起きることがなかった。
閉場の時間を過ぎて、作品の片付けに入る。展示の時と同じように脚立を取り出してきて、ワイヤーに掛けてあった作品を取り外していく。
今回はフック付きのものが地上にないので、脚立から転落することはない。……多分。
「遥ひま? そこの棒取ってー」
「分かった。……はい、お礼はお菓子ね」
「お代いるの?」
お菓子袋に入っている大豆でも齧らせてやろうと思いながら、器具を使って奥のワイヤーを引き寄せる。
作品をワイヤーから取り外して地面に置いていく。それを遥と桜が段ボールに仕舞っていく。
作品はあらかた片付けた。脚立から降りて、元の位置に返しに行く。よし、事故はなく安全に終えられた。安全第一!
全ての作業を終えて整列する。俺たちの前に蓮先生が立った。
「はいお疲れ様。えー、次の部展は二月の最終土日に決まったからよろしくねー」
全員で大きな声を出して返事。これで、一段落ついたかな?
今度はたまちゃんが話をする。
「お疲れさまー。私の話を長々としても嫌でしょ? これで終わるわね、解散!」
やっぱりたまちゃんは面白い。いいところで空気を読んでくれる。
みんながわらわらと帰り始めるが、俺はまだ帰らない。後輩たちの元へと歩いていく。
「あれ? 先輩どうしました?」
「いや、な。ちょっと話したいことがあって……穂希に」
「私です?」
少しだけ時間を取ってもらい、プラザの近くの公園に来てもらうことにした。
………………………………
「それで、どうしたんです?」
穂希の質問に、俺は黙ってポケットから一枚の紙を取り出す。そう、例の半紙だ。
穂希の肩が一瞬揺れる。どうやら確定のようだな。
「これ、穂希が書いてくれたんじゃないの?」
「……それ、私と筆跡違いますよ」
「確かにな。でも、ここ見てくれる?」
俺が指を指したのは、「あなたが好きです」の、「で」の濁点部分。そして、スマホのアルバムを起動して、部展に出していた穂希の作品の写真を並べる。
「ここだけは本人の癖が出たんだな。湾曲した水滴みたいな濁点だよ?」
「……」
「ちょっと観察したから気づけたよ。まあ、特徴が分かれば後は皆の筆跡を思い出すだけ。すると、穂希に該当したんだ」
しばらくの沈黙。そして、穂希が軽く吹き出した。
「ふふっ…! やっぱり先輩はすごいな」
頬を赤らめて顔を上げる。思わずドキッとして、気恥ずかしさから質問してみる。逆効果だが……。
「それで……これって本気?」
「本気です。先輩後輩じゃなくて、異性として」
「えーと、いつから?」
「去年、体験入部にお邪魔させていただいた時から」
体験入部……あっ、あれか。夏休みにやってたやつ。確か、先輩としていいところを見せようとして、仕事を遥に持っていかれて、仕方なく隅っこで全紙という大きなサイズの作品を書いていた……って!
「あのとき!? いいところなかったでしょ!?」
すると、口元に手を当てて穂希が笑って、
「それがいいんです。作品に向かう先輩はかっこ良かったので……」
西日が穂希を淡く照らす。穂希が手を組んで、決定的な一言を放った。
「だから、先輩が好きです。大好きです。私と、お付き合いしてください」
ハッキリと言われたその一言。世界が姿を変えていくのが俺にも分かる。
今まで、女子から告白などされたことはなかった。だから、こういうときにどういった言葉を言えばいいのか分からない。だから、俺は俺なりに答えさせてもらう。
差し出された穂希の手を、俺はゆっくりと包み込んだ。
J高校の書道部。男子一人の女子多数ということで、学校中の野郎たちからハーレムと揶揄されるも、全然実際そんなことないなんちゃってハーレム。
フレンドリーで楽しく活動していたこのなんちゃってハーレムだが、今日からはそうでもなさそうだ。全然ハーレムではないが、いつかハーレムになるかもしれない。
だってここに、俺を好きになってくれている、J高校書道部の……なんちゃってハーレムの女神様がいたのだから。
手を重ねあった俺たちは、夕焼けの中でゆっくりとハグを交わした。
なんちゃってハーレムの女神様 黒百合咲夜 @mk1016
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