仕事が出来ない男

@chobiemon117

第1話 24歳の男

男は天井を見上げていた。その時部屋にはただ暖房が動いている音のみが響いていた。


『・・・今日もやっちゃったな…。』


罪悪感を感じつつも心のどこかで安心している自分がいた。どうせ頑張っても評価はされない。どうせ頑張ってもただ怒鳴られるだけ。どうせ頑張っても見せしめのように叱られるだけ。そうなるならいっそこのまま家でゆっくりしていた方がマシだ。俺には彼女もいないし家庭も持ってない。1人で生きていくだけならこの先どうにかなる。年齢もまだ24だ。まだやり直しはいくらでもできる。最悪フリーターになっても構わない。生きていければそれでいい。

この時、男は会社を突発で休んでいた。


彼がそうなってしまったのには理由がある。それは、彼は会社の人間関係に悩まされていたのだ。仕事が上手くできない時や自分の意見を言うときは上司からはトゲのある言葉を投げられ、すべての責任はお前にあるんだぞと思わされるような言葉を彼は散々言われてきた。だか彼はその言葉を真剣に受け止めていた。間違ったことは言われていなかったからだ。


『俺が仕事ができないだけだからそういう風に言われてもしょうがない。次から同じミスをしないように気をつけて、頑張っていけばいつか必ずみんなから認められるさ。』


彼は自分にそう言い聞かし仕事を一生懸命に続けた。だが、彼は変わる事が出来なかった。正確には、周囲が期待する結果を出すことができなかったのだ。徐々に落ち込むようになってきた彼に待っているのは励ましの言葉なんかでは無い。さらに精神を追い込む言葉が容赦なく彼を襲う。ここは学校じゃねえ。これで給料貰ってるのかよ。お前みたいに生きながら俺も給料もらいてーわ。お前はポンコツだな。上司や先輩からそう言われ続けた結果彼はさらに自責の念を抱くようになり、最終的に彼は会社に行くことが出来なくなってしまった。


『俺は本当にダメな男だ。同期とは徐々に差がつき始めてるって言うのに俺はまだこんなことも出来ないのか…。一体何が足りなくて何がいけないんだ…』


どんなに考え、落ち込んでいようが時間はただただ過ぎていくばかりであった。

ある朝、彼は起きると何も考えずにずっと下を見つめていた。そんな彼を気にせずただ携帯のアラームが部屋に鳴り響く。そして、何かを決意したかのように起き上がり服を着替え会社に行こうと玄関に向かおうとするが、途中で立ち止まり出社した後の自分を想像する。その想像は決して良いものではない。彼は仕事を終わらせなくてはいけない、という責任感より(もう会社の人達に会いたくない!)という気持ちの方が遥かに大きくなっていたのだ。そして、とっくに出社までに間に合わない時間になっていた。彼は座椅子にもたれ天井を見上げながら思った。なぜこんなことになってしまったのだろう。社会人になる前の自分はもっとやる気で満ち溢れていた。理不尽なことくらい起きるのは承知でいた。家庭を持ち仕事と両立させ、幸せに生きていくんだと決めていた。確かにそう思っていた。


『・・・今日もやっちまったな…。』


彼は仕事より自分を優先した。

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