VSメルヒェン

 無数の刃は彼を切り裂き。無残にもその体を分解してしまった。それが彼女が思い描いていたシナリオだった。


「なるほど嫌な能力だな。いや科学か? どちらにせよ厄介なのは確かだな」


 砂埃が晴れその場所が見えてくると、そこに立っていた狭間はバラバラになるどころか、傷一つなく悠々とその場に立ったままだったのだ。

 しかも一歩も動いていない。回避をしたり、何かの攻撃で相殺する可能性は少なからず考えていたメルヒェンだったが、この行動には驚かされた。


 しかしそれがどうした。


 例え一撃が外れたとしても二撃、三撃と続ければ良いだけのこと。まずはあの気に食わない男の能力を明らかにする、それが先決だと彼女は決めると、再び空中で新しい刃を生産し始めた。


「さて、こちらも自己紹介をしよう。私の名前は狭間宗司、今から貴様を捕らえ情報を得る者だ」


 悠々と名乗るも彼は銃を向けようともしない。ましてや逃げようとする素振りも見せない。余裕に溢れた態度だった。

 それにメルヒェンはかなり苛立たしく思えてくる。自分の方が上だと思って調子に乗ってるに違いないと。なら余計にコイツは許せない!

 やがて作り終えた刃を放とうとしたその時だった。砂埃のせいで見えなかったが、彼の目の前に何かが落ちてあった。

 それは布だ、何の変哲もないただの布が敷いてあったのだった。

 それが危険であると直感で理解したメルヒェンは、放とうとした刃を盾のようにし目の前で展開させた。 

 それと同時に狭間は足で布を少し浮かせた。そして先ほど彼に向けて放ったはずの刃を彼女の元へと送り返したのだった。

 刃の盾と、宙に浮いた瓦礫を乗り換えながらその返された刃を一つずつかわしていき、狭間との間に距離を保ちながら着地する。


(アイツ一体何をしたの!? あの布に秘密が……、いやもっと違う所に秘密があるのかも知れない)

(なるほど、単なるバカではないようだ。能力も恐ろしいがあの身のこなしも厄介だぞ)


 お互いに敵の能力を考察し膠着状態へと入る。それは相手を嫌なヤツだと互いに思っているからの行動だった。

 しかしこの二人の間では少し差が出来ている。

 メルヒェンの能力、それは物質を創造し扱う。比較的に分かりやすく、初見の攻撃を避けられと大まかな能力は露見してしまう。

 対して狭間の能力は、決して初見で分かるような優しい力ではない。それ故に発動条件は厄介だが、力が相手に分からないのはかなりの強みなのである。


 互いに睨み合いが続く。そして先に動いたのはメルヒェンの方だった。

 しかしそれは狭間に向かってではない、先ほど彼女が吹き飛ばされたあの一室に向かって動き出したのだった。


(あの時私を吹き飛ばしたのはあの男じゃない、別の誰かの能力。つまり仲間がまだ潜んでいる。それが何人かは分からないが、今はパズルの回収を優先する!)


 彼女が走ったあとをなぞるように、浮遊していた光が追随する。それが線となり彼女の痕跡を残しながら流れていく。そしてその線は驚くほどに早く伸びていくのだった。

 少女の見た目からは予測できないほどの速さ、狭間は彼女が動いたと同時に走りだしたが、その速度に追い付くことができないと瞬間に理解した。

 もし館長がいる部屋に舞い戻ったとしたら、隠しているとはいえ見つかるのは数分もかからない。

 見つかったらそれまで、彼女の速度に追い付けないと理解している彼は即座に判断を下した。そして絶対に辿り着く前に手を下さなければと確信した。

 狭間は走りながらも手にした拳銃を前に向け、メルヒェン照準を合わせ引き金を引く。だがそれは彼女に着弾する前に、光が障壁に変化し弾を防ぐため彼女の肌や衣服を傷つけることはなかった。

 間違いなく威力が足りない。遠距離で足止めするには彼の力では不可能に近い。ならば――


 狭間は先ほど地面に敷いていた布を取り出したかと思うと一枚の折り畳まれた紙切れを取り出した。その紙は何か細工をされた訳でもない、道端に落ちていてもおかしくないただの紙だった。


 一方メルヒェンは、彼が背後で何やら準備をしているのには気づいていたが振り返らずに前だけを見て走っていた。

 吹き飛ばされた場所が高い位置に合った為、かなり目的の物がある場所からは離れてしまっている。

 あの自分を引っ張った力。それは間違いなく自分の知らない領域の物。当然抵抗したが、それを無視して強引に体を持っていった力。自分にはない能力……。

 それを思うと腹の底がムカムカしてきた。まるで人を自分を嘲笑うかのように能力を使われるのが彼女にとって許しがたい物だった。

 だからもし目の前にそいつが現れたのなら必ず叩きのめす。お前の力よりも私の方が凄い事を教えてやるために。


 その時だった。後方、つまり狭間の方から何かが飛んで来ているのが分かった。彼女の後ろに舞う光を一種の探知機のように稼働させているからだ。

 しかし探知したその投擲物は自分の方に向かっていない、どう予測しても頭上を通っていく。意味があまり分からなかったがその投擲物が近づいてくるにつれ、何かが引っ張っられているのを感じ取った。

 上を見るとそこには丸っこく形成された鉄球に、地面に敷かれていた布が釣糸のような物で引っ掛けられていた。そして布は空気の抵抵抗で傘のように閉じていたのだった。

 先ほ攻撃を跳ね返したあの情景を彼女は思い出す。まさかまた謎の能力を発動するのではと、彼女は前だけを見ていた目をついに後ろに向けた。


「えっ…………ッ!」


 驚いた。彼女が後ろで追いかけている狭間の姿を捉えようとしたところ、彼の姿はどこにも存在していなかったのだ。

 奥にも、上にも、どこにもいない。音もなく彼は消え失せたのだ。

 どこにいった! 彼の姿を探し彼女は全体をくまなく見渡す。だがどこにも彼の姿どころか気配すらなくなっていたのだ。

 その間に真上を通っていた鉄球は彼女を通り過ぎると慣性に従い、ゆっくりと弧を描きながら地面へと落ちていく。

 鉄球の速度が地面に近づき弱まっていくと、ピッタリ閉じていた布は空気の抵抗がなくなり、ソッと花が開くようにして広がりだした。


 ――それが合図だった。消えていた彼の気配が突如として彼女の向かう先へと現れたのだった。

 ばっと顔をメルヒェンが前に向けると、開いた布からヌメリと彼の体が飛び出していたのだ。

 その光景に彼女が驚嘆している最中、彼は手にしていた紙切れを大量にばらまいたと思うと、その紙切れはゆっくりと宙で開いた。

 そして狭間が布から飛び出したのと同じように、紙の間から大量のナイフがメルヒェンを目指し進んで行くのである。


「何のこれは。ふざけているにも程があるわよ!」


 メルヒェンは思わず悪態を口にしながら光を素早く動かし結界を作る。

 光同士はやがて繋がると薄い膜のようになり彼女の盾として迫りくるナイフから身を守ったのだ。

 ダメージは当てえられていない。だが彼女の動きを止め、そして追い越しこれからの進行を防ぐこと成功した。それだけで十分な収穫であると言えるだろう。


 狭間がゆっくりと地面に着地すると再び大量の紙切れを両手に持ち、メルヒェンは盾にした光を分解して再び違う武器にできるう構えた。


「これが私の能力だ。挟んだ物を何でも仕舞い込む能力『テイク・ファイブ』。それだけ聞いたらセコい能力だろうが、使い用で大きく化ける――」


 再び始まった睨み合いの中、狭間は自分の能力について語り出した。それは正当に戦うための礼儀として話しているのである。が、当の彼女はそれを自慢話を始めたと思っていた。


「――この能力はシンプルだ。仕舞う物より大きな物同士で挟めばそれでいい。そして隙間が出来れば、風船に穴が空いてそこか、一気に空気が漏れ出すように仕舞った物が飛び出す。ただそれだけだ」


 手していた紙を一枚見せつけるように上へ向けて開くと、そこから新しい拳銃が回転しながら飛び出し、それを綺麗に空中でキャッチした。


「物と物と隙間にできる本来存在しない閉鎖的空間。私はそれを第五次元と呼ばせてもらっている。だから『テイク・ファイブ』、第五次元を得る能力と呼んでいる」

「そろそろ良いかしら。私も人の自慢話を聞くのとか本当に嫌なんだけど、私にしてはかなり耐えてる方だと思うのよ」


 そう言う彼女の顔は真っ赤になっていた。自分の頭の上を通ったこと、能力をひけらかされたこと。それが彼女のかんに障ったのであった。


「いい? アンタがどんなに自慢しようと私の力が劣っているなんて事は絶対にないのよ。だからさっさとアンタを倒して目的を果たしてやるわ!」

「自慢……、自慢ね。別にそのつもりはなかったのだがそう感じたか。だが早くこの場を終わらせるのは賛成だ。貴様の目的をたっぷり聞かないとならないからな」


 その言葉が言い終わると同時に、彼の手にした紙が投げ捨てられ、中から無数の弾丸が放たれたのと、彼女の光が鋭い針のように変化し飛ばしたのは同じタイミングであった。

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狭間ソウジ(並行世界の侵略者) 坂口航 @K1a3r13f3b4h3k7d2k3d2

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