第29話 魔族の人からも勘違いされました。
大男は息を切らしながら僕に質問する。
「はあ、はあ、はあ…。もう一度聞くぞ。お、お前の目的はなんだ?」
「え? ギルドからの依頼ですよ。古城の調査です。あと姫さまの救出ですけど」
「ああ? ふざけるのか! そうじゃねえだろ? そんな力がありゃ、本当は違う目的があるんだろ? …グフっ…」
大男は血反吐を吐きながら僕の目的を聞く。
何を言っているのかわからない。
「何言ってるのかわからないですね…」
「本当の、本当の目的だよ。その圧倒的な力は何に使うんだ?」
「は? そんなの仕送りに決まってるじゃないですか…」
バカなのだろうか。子どもの僕にそんなことを聞いてくるなんて…。
「話にならんな、これでも食らえ!」
ガガガガガガガガガガガガガ!
なんと腕に武器が仕込まれていたようだ。利き腕でない、残された腕から金属の玉らしきものが連続で凄まじい勢いで放出される。
これ確か、銃とか言う武具じゃないだろうか。ロマンではあるが…。
大男は続けて打ち続ける。
連続で弾薬を撃てるようだ。
魔族って人族よりも技術力高くないだろうか?
「おらおら死ね〜!!!」
なんか必死だ。
かなりの勢いで金属の玉が僕に向かってくる。念の為、両腕を前にクロスさせ、防ぐか弾くかして前進しようと思ったが、なかなか強い衝撃に阻まれて動けない。
もちろん、精霊たちに手伝ってもらって身体への着弾はないが、精霊たちもちょっと驚いていた。
大男がいつの間にか僕の背後に回り込み、口から数本の針を僕の間近で僕に吹き掛けてきた。なんという執念なんだろう。
「その波動、消滅に至れ。律令の如く…」
その言葉で針やら金属の玉、そして腕の銃をバラバラに細かく、砂のように分解した。
「…あ、ああ、普通、じゃねえ。なんだこれは…。ぐ、ぐわあああああああ…」
大男は片腕をなくし、銃の方の腕も効かなくなり、痛さでのたうち回る。見苦しい。
だがこれらは自業自得だろう。僕の目的が他にあると思い込み、勝手に攻撃し、勝手にのたうち回っている。
「…な、なあ、見逃して、もらうわけにはいかないか?」
調子の良いことを言っている。
「話し合い、全くせずにいきなり大軍で襲ってきたり、目的が何とかって変なこと聞いてきたり、見逃して欲しいなら最初から話し合えば良いと思うよ。今さら、だよね?」
「…クク、ガキの癖に、油断しねえな…」
この大男は、先ほどまで僕を本気で殺そうとしていた。そして今も何やら仕掛けるつもりだったらしい。大男が苦しそうにしているが、容赦してはいけない。
僕は続けて質問する。
「あなたこそ、ここで何をやっていたんですか? あのスケルトンやゴーレムを操っていたのはあなたなのですか?」
「ハハハ、知りたいか? うぅ、ガハッ、もうすぐ、もうすぐ世の中がひっくり返る。そのときにお前みたいなやつは真っ先に狙われて淘汰されるだろうな、圧倒的な力を持ったやつなんて要らないんだよ!」
「ひっくり返る? 世の中が?」
「そうだ。魔族の時代が来るんだよ」
意味がわからない。魔族の時代が来たとして、それが何だと言うのだろう? 人族を滅ぼすつもりなんだろうか…。
もっと聞きたいと思ったが、大男は虫の息だった。
「ハア、ハア、…くそ、こんなところで…」
「もし正直にいろいろと話してくれたら助けないこともないですが…」
「ハッ、冗談じゃねえ、お前たちみたいな恵まれた貴族だかのボンボンとかに…、グホッ」
「僕は貴族ではないですよ。孤児院出身なんですけど…」
「な、なんだ、と…」
この人も意思疎通が無理な人なのかもしれない。
「くそ、俺としたことが…」
何か言いたそうだが、もう遅い。すでに血の量が異常だ。よく意識が保っている。
「まあ、そのままでも死にそうなので放っておいてお姫様さまのとこに行きますね」
僕が立ち去ろうとすると、
「バ、バカめ、俺の部下が今頃、きさ、貴様の仲間はきっと捕まって捕虜になっているはずさ…。詰めが甘いな、残念だ、ったな…」
バタ。
そのまま大男は倒れて動かなくなった。
そして僕は少しも躊躇わずに大男を燃やした。
僕が研究室から出たところで、人化しているシロと、ばったり出会う。
「おお! あるじ殿! 良かった良かった。なんとなくこちらかな〜、と思って…」
「ああ、シロ。ちょうど良いや。王女様やウルズさんたちをすぐに探しに行きたいんだ。手伝って…」
「うむ。我の勘はすごいぞ。何となくでここまで来たからな…。おや? そちらは魔族か? 見たことのあるやつだな…」
シロが目を向けたのは先ほどの大男だ。
「こいつ、確かガジルとか言う、割と幹部クラスの魔族だぞ。両腕が、無いな」
「なんか話を聞かないヤツだったよ。あ、あと精霊たちと会話できた。あれ、すごいね…」
「…う、うむ。本来の精霊魔法というのはそのように精霊と会話ができて初めて発動するのだがな…。あるじ殿はいろいろ順番がおかしい気が…」
「…うん。いつもそうなんだ。まあ、それよりみんなを探そう…」
「…うむ。そうだな…」
シロは最後にもう1度ガジルという大男の遺体を見て、寂しそうな表情をする。
「シロ、大丈夫?」
「ん? うむ、全く問題ないぞ。行こう行こう」
友人だったのだろうか。まさかまさか。自身を洗脳するような輩と親しくしていた訳がない。というかそう信じたい。
すぐに落ち着いた笑顔を見せるシロを横目に、僕たちは先を急いだ。
〜〜〜Another Viewpoint (囚われの王女シルフィード)〜〜〜
第五王女シルフィード・ヴァン・ユグドラシルは地下室に監禁されていた。
その他の護衛も侍女もすべて皆殺しにされており、王女のみが地下室で監禁されていた。鎖で繋がれてドアには鍵が掛かっており、食事のときに専用の小窓が開くだけだった。
自分が囚われてから何日過ぎたのかもすでにわからなくなっている。意識が混濁し、顔などはげっそりして病人のようで、目の焦点も合わない状態だ。
元来彼女はとても明るく、行動力があり、正義感が強い。
ジッとしていることが苦手で何でも自分から首を突っ込むタイプである。
今回の古城への調査についても、教会が何かおかしな実験を繰り返していることを知り、その証拠を探すために調査隊を組んで自ら先陣を切った。
幼い頃から神童と言われ、魔力も豊富で、魔法学校も飛び級で卒業したシルフィードは、自他ともに認める天才であると言われ続けていた。
だから、少し図に乗っていたのかもしれない。
古城に侵入後、簡単に捕まり、それでも何とかなると思っていたが、今は何もできず、いつ処刑されるかわからない身となっていた。
(なんてバカだったんだろう…。私は無力だ…)
手に繋がれた鎖はどういうわけか魔力を吸収する特殊な金属でできており、得意の魔法が使えずにいた。加えて武装も解かれている。
そうなると、本当に非力な少女でしかない。
護衛や自分を信じてついてきてくれた侍女たちが次々に目の前で殺されていった。
自分の迂闊な行動のためにどれだけ犠牲を出したのかわからない。
なぜ自分は何でもできるなんて思い上がっていたのだろうか。
シルフィードは1人の赤い髪の少女を思い浮かべる。
「シグ先輩…」
死ぬ前にもう一度、あの強くて優しい先輩に会いたい、と思った。
ガチャ。
誰か来る。また教会の奴らだ。魔族に寝返った裏切り者たちだ。
彼らは私に利用価値があるうちは生かしておくらしい。
人質などに使うらしい。悔しいがそんな価値すら自分には無いと思う。
「おお、生きていましたね。王女殿下、さあ、一緒に来てもらいますよ」
一番嫌なやつが来た。
いつもいやらしい目で自分を見て、嫌味だけを言っていくやつだ。白衣を着ているので一応研究者だろう。
いつも魔族を従えているが、人族であるのは間違いないと思う。私は14歳にしては発育が良いと言われている。先輩もそう言っていたから本当だろう。この男は私のことをいやらしい身体つきをした娼婦と呼ぶ。屈辱以外の何者でもない。殺してやりたい。
「さあお前たち早くしろ、少しぐらい手荒でも構わん」
その男の2人の部下が部屋に入り、繋いであった鎖で私の上半身をぐるぐる巻きにしてそのいやらしい男の前に引き立てた。
「おお! 本当に男好きな身体ですね。時間があれば堪能したいところですが、今は急ぎましょう。まあ、道中いくらでもチャンスはあるでしょう、フフフ…。ガジル様始め魔族の方々はすぐに殺せと仰ってましたが、私はあなたにはまだ利用価値があると思っているんですよ…」
鎖のせいで魔法の発動どころか、目の前がクラクラする。こんなところで気を失ってはいけない。
ガチャ。
また音がした。
「おいおい、ドンピシャだよ」
「シグのカンってこういう時すごく便利…」
「すごいタイミングだな、さあ、お前たち、やっと見せ場だぞ」
今度は女性3人の声だ。
誰だろう、すごく懐かしい声のような…。
「おいシルフィー、何、悲劇のヒロインみたいにシュンとしてるんだよ、お前にそういうのは似合わないだろ?」
「せ、先輩…」
遠のきそうな意識の中で先輩の声がする。
「なんだ貴様たち!」
ジャリ。
「お前、人族、だよな? ギルドから来た。王女を返してもらおう」
ウルズの声がけにより、こちらの戦闘も始まった。
魔力ゼロの童顔魔王(予定)とショタコン女神たちが仲良く平和を目指します! 真夜中のうま茶 @mas_matsuna1210
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