第6話 大好きだよ。

 あたしが初めてタケルにあったのはこの公園だった。

 あたしのお家にほど近い、北頭公園。

 3歳になったばかりの頃。


 タケルはお母さんに、あたしはおじいちゃんに連れられて遊びに来たのだ。


 初めて見る男の子。

 同年代の子を見るのははじめてで。

 すぐに仲良くなったあたしたちはブランコやシーソーで遊んだ。砂場ではお城作って。


 おじいちゃんちに来たのは確かまだ生まれて2ヶ月になるかくらいだったけど、以後その時まではテレビでしか子供の姿は見た事が無くて。

 楽しかったな。

 たしかその頃はまだ人間とかアニマノイドとか違いもよくわかってなかったし。


 あたしはそのままタケルに恋をしたのだ。

 もう、刷り込みに近い? かもで。

 自分ではどうしようもないよ。


 しばらくしてタケルのお母さんが、

「うちでもアニマノイド買おうかしら」

 そう言ってるのが聞こえた。

 その時は、ああそうなんだ、って思っただけ。

 情操教育にいいんだ、とか、

 ペットみたいなものだ、とか、

 そう他の大人の声も聞こえたけど、特に不思議に思わなかった。

 あたしが人間じゃないって、その時は知らなかったから。


 おじいちゃんはあたしを本当の孫のように可愛がってくれた。


 後で知った話だけど、あたしたちが出荷されるときにインストールされる基本OSにはいくつかパターンがあって、あたしには「無垢」がインストールされてたらしい。

 子供のいない家庭で子供の代わりに育つには余分な知識はかえって邪魔になるから、と、

 そういう状態を選ぶ人間も多いのだとか。


 まだ赤ん坊の時に買われたあたしは、おじいちゃんに育てられほんとうの人間の様に育ったのだ。


 7歳の時のメンテナンスで追加データをインポートされ、そこで自分が人間じゃないって自覚した。


 ショックだったな。


 その時も随分と泣いたっけ。


 おじいちゃんが優しく撫でてくれて、それでなんとか立ち直ったんだった。




 そろそろ日が暮れて、あたりが暗くなる。

 いつに間にか細い月が明るく見え、その脇に金星? 土星? どっちかな、かなり明るい星。


 空の星が薄っすらと見えてきて、紫の空が賑やかになるのをブランコの上でゆっくり眺めてた。




 ふと気がつくと公園の入り口に人が立っていた。


 ゆっくりと近づいてくる人影。


 街灯の灯りに照らされたその人……。


「タケル! どうして……?」


「ごめんなみゃーこ」


 優しい笑みでそう言うタケル。

 耳触りの良い声。ほんと好み。


「俺、自分じゃみゃーこに相応しくないってずっと思ってた」


 え?

 それあたしの方だよ……。


「アオがみゃーこを好きだって聞いた時、ああ、自分じゃダメだからって、アオを応援するつもりでいたんだけど、心の奥でずっとそれが嫌だっていう自分もいて」


 タケル、ちょっと鼻の頭を擦って。


「でも、さっきのみゃーこを見て、すごく心が苦しくなった。やっぱり俺、みゃーこが好きだ」


 ああ、ああ、涙が溢れてくる……。


「さっきアオにも背中押されたんだ。で、コレ……」


 タケルはしょってたカバンから綺麗な飾り箱を出した。巻いてあるリボンがかわいいその赤い箱を両手で差し出して。


「今日はクリスマスイブだからさ。プレゼントだよ」


 あたしは目の前に出されたソレを受け取って。リボンを解いた。


「ありがとう。タケル……」


 いつのまにか白い雪が辺りに舞って。ふんわりと降ってきた。


 あたしはなんか火照っていてあんまり寒さを感じなくて。

 そのままその綺麗な飾り箱を開けると、中には小さな音楽隊のホログラム。


 きいーいよしー こーのよーるー ほーしはー ひーかーりー


 そう、可愛い音楽が流れた。



 ありがとうタケル。大好きだよ。


Fin

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ロマンティック イブ 友坂 悠 @tomoneko299

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