第5話 今すぐ逃げ出したいです

 人気のない学園内をひたすら走りながら絶叫した。


「神ぃいいい!!いるんでしょ出てきなさいよォオオオ!!」

『もう、なんだよ煩いなぁ』


 するとすぐさま反応が。いつものように頭に直接話しかけてくる。

 てかなんでそんな余裕ぶっこいてんの!? あんたも見てたでしょ!? このとんでもなくオカシイ状況を!


「いいんですかアレ!? クロリエではなく私と結婚するとかほざいてますけど!?」

『ああソレねー、もういいかなー』

「は……はあああ!!?」


 いやいやなんだその手のひら返しは!? あんなにシナリオにこだわってたじゃん! 私を好きになるのはエドウィンの役割じゃないでしょ!?


『実はさー、この前彼を僕の世界に呼び出したんだよ』

「え……?」

『ほら、君も小さい頃一度来たことあるでしょ?』


 ああ、あのメルヘンチックな世界ね。


『全然クロリエを好きになる素振りないからさ〜君の時みたいに教えたの。エドウィンはクロリエを好きになってもらわなきゃ困るって』


 まじかよ。まさかのエドウィン神様に会ってた〜〜〜。

 ああ、だからさっきアイツがどうとか言ってたのか。神様をアイツ呼ばわりって……まあ私も心の中で紙クズ野郎とか罵ってるけど。


『でも彼は拒んだ。キャンディス以外を好きになることなんてできないってね』


 エ、エドウィンンン。

 そこは素直に従っとけよ。何拒んでんだよ。そんなこと言ったら呪いが……


『だから君にしたように彼に呪いをかけようとした。クロリエに3日連続でキスしなかったら死ぬ呪いを』


 あの、毎度のことだけど呪いの内容が悪どい。なんなの、神様どんだけドSなの。

 さすがに可哀想だよ。好きでもない人にキスしなきゃ死ぬって。

 私的にもエドウィンにはクロリエを好きになって欲しいけど、さすがにちょっと……。


『そしたら彼なんて言ったと思う? “キャディ以外とキスするくらいなら死んだ方がマシだ”――って』


 うーわ、言いそう。

 あれ、だけどエドウィン全然死ぬ気配ないよね? 具合悪くなった素振りもない。

 まだ呪いをかけられて3日経ってない? それとも私に隠れてクロリエとキスを!?


 ……いや、まあ別にいいんだけどね。それはそれで。私にはなんの被害もないわけだし。本当に彼等に恋心が芽生えたら私は自由だし……うん。別になんとも思ってないし。


『はあ……何か勘違いしてるみたいだけど、彼に呪いかけてないから』

「え……?」

『なんとあの男、この僕を脅してきたんだよ? 僕これでも神様だよ? 神脅すとかあり得ないからね?』


“キャンディス以外を好きになる気なんてさらさらないから呪いなんてどうでもいいけど……その代わり、死ぬまでの3日間全身全霊でお前が作った世界とやら壊すから。そうだなぁ……とりあえず学園の人間くらいなら全員殺せるかな?”


『―――ってさ』

「!!?」

『ねえ、彼ヤバくない? 僕彼のことそんな殺人鬼に作った覚えないんだけど』


 うん、ヤバイ。ていうか怖い。いや怖いなんてもんじゃない。

 え、なんなの? エドウィンあんたアレなの? 好きすぎて病んじゃうやつ?


 嘘だろ……乙女ゲームではそんな描写なかったじゃん……。

 ちょ、神様どうすんだよそんな危ないやつほっといたらマジで世界滅ぶよ? お前が丹精込めて作ったこの世界灰と化すよ?


『だからもうエドウィンのことはいーや。この世界壊されるくらいなら諦める。君にあ・げ・る』


 いや、いらねえええ!!!

 ちょ、神ぃいいい!? 何言っちゃってんの!?


『幸い他にもクロリエとくっつけたいキャラはいるし、エドウィンはいいや〜』

「ちょ、ま、神様?」

『あ、ついでに君にかけた呪いも解いてあげる〜』

「え、あの、それは有難いけど、いやそうじゃなく、」

『そんじゃあね〜バイバーイ。次からは話しかけても応答しないから〜』

「おい神!? ふっざけんなよ!?」

『――――』

「いやマジで冗談やめて? どうやってあんなヤツ対処しろと? オーロラってば―――」


と、必死にもう声が聞こえなくなってしまった神様に呼びかけていると、背後からポンと肩を叩かれた。


「ああ、キャディ。こんなところにいたんだ」

「ひ、ヒイイイ!!?」


 今一番聞きたくない声に全身が震え出して顔面蒼白で振り向くと、「キャディ足速いんだね。探しちゃったよ」とかなんとか極上の笑顔で言っている彼が。


 え、エドウィン!? いつの間に!?


「ねえ、それより今僕じゃない男の名前を呼ぶ声がしたんだけど気のせい?」

「ヒィ!!」


 こっわ!! 怖い!!

 おい!? いつからこの世界乙女ゲームじゃなくてホラーゲームになった!?


「さっきからヒイヒイ言ってるけどどうしたの? キャディ、まさか僕が怖いの?」

「ヒッ……いや、そんなまさか、アハハ……」

「ふーん。まあいいけどね。僕のこと怖いなら、もう逃げないでね? 次そんなことしたら……悲しくて殺しちゃうかも」


 ヒィイイイイ!!

 いや、無理!! やっぱ無理!! そんな物騒なことテヘペロ顔で言う男と結婚なんてマジで無理だってば!!


「まあ……君がどう頑張ろうと、もう逃がすつもりはないけど」


 ねえ、待って。


「―――僕からは逃げられないよ」


 そのセリフ、私にはこうとしか聞こえないんですけど。


 ―――エドウィンバッドエンドから逃げられない。


 これ、もう転生するしかなくない?

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バッドエンドから逃げられない 藍原美音 @mion_aihara

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