第4話 成長しました

 それから時は流れ、私達は16歳になり乙女ゲームのメイン会場となる教育機関に共に通い始めた。勿論ヒロインや他の攻略対象も在籍している。まあ私は主にエドウィンルートでしか出ないからヒロイン以外とは関わりないけど。


 ヒロインの名前はクロリエ・テイラー。黒髪黒目の儚げな美少女だが、この世界で黒髪は忌み嫌われる象徴であるため、学園で当然のように虐められる。

 本来なら悪役令嬢である私はその筆頭となって虐めるのだが、そんなことをしてしまうと漏れなくバッドエンドまっしぐらなのでゲームのように酷いことはしない。


 とはいえ、全く虐めないと神が煩いので小学生がするようなくだらない虐めは行っている。それもこれも全部クロリエとエドウィンをくっつけるためだ。あくまで私は二人のキューピッド。その役目が終われば晴れて自由になれるのだ!


 ◆◇◆


「エド、クロリエ様とは順調ですか?」


 誰もいない教室で、私の努力が報われているか本人へ確認する。

 

「ああ、そういえばこの前相談されたっけ」

「そうですか。それはいいことです」

「キャンディス様から毎日のように虐められるけど、自分は何か悪いことをしてしまったのかって」


 あら……クロリエったらなんて良い子なの。こっちの勝手な都合で虐めてるだけでクロリエは全然悪くないのに。

 まあキューピッドとしては喜ばしいことだ。ここでエドウィンがイケメンなセリフを言えばどんどん距離は縮まるだろう。


「でもちゃんとフォローしといたから大丈夫だよ。僕もキャディに虐められてたけど、それにはちゃんと意味があったから気にする必要ないよってさ」


 いや全然大丈夫じゃなかった。コイツ何言ってんの? 『気にする必要ない』なんて言ったらもうエドウィンに相談しなくなるじゃん! 余計なこと言わないでよ!


「彼女を虐める理由あるんでしょ?」


 だからそれはお前らをくっつける為だってば!


「エド……あなたはもっとクロリエ様の話を聞くべきです」


 こうなれば仕方ない、速やかに軌道修正を試みる必要がある。


「可哀想なクロリエ……きっと心に抱えた闇を誰にも相談できずにいるのでしょう。誰かが包み込んであげなければ」

「キャディは優しいね。テイラー嬢に話してみなよ、きっと喜ぶよ」


 いやお前がやるんだよ。


「クロリエ様を理解できるのはエドしかいないのです! ほら! わかったら今すぐ話しかけに――」

「ねえ、さっきから妙にテイラー嬢のこと推すけど、何がしたいの?」

「えっそれは勿論……」


 エドウィンとクロリエをくっつけたいです。


「キャディが優しいのはわかった。でも冗談でも他の子と仲良くしろだなんて言わないで?」

「別に冗談では……」

「――は? 本気で言っているの?」


 ……ッ!

 その時確かに、ゾワリと寒気が背中に走った。


「エ、ド……?」

「そんなわけないよね? 僕は婚約者だもんね?」

「あの……でも、私はクロリエ様との恋を応援していますよ?」


 だって君らがくっつかないと私自由になれないもん。早くこの呪いも解いてほしいし。


 しかし、本音を言ったらさらにエドウィンの周りの空気が凍りついた。


「はあ……アイツもキャディも、どうして彼女とくっつけようとするんだ……」

「アイツ?」

「とにかく、君は僕の婚約者だ。近い将来君と僕は結婚するの。それを拒むなんて……たとえキャディでも許さないよ?」

「ヒッ!?」


 こっわ!! 私殺されそうな勢いなんだけど!?

 ……てか待って。クロリエのことを勧めただけでこんな豹変するとか、信じられないけどもしかしてエドウィンって――


「エド……つかぬ事をお聞きしますが、まさか私のこと好きなんですか?」

「なに今更。当たり前じゃん」


 いやおかしいだろ!! 何故そうなる!?


「わ、私はあなたを幼少期からこれでもかというほど泣かせてきたんですよ? そんな女を好きになるなんて正気の沙汰とは思えません」


 早くコイツの目を覚まさなくては! と語りかけるように説く。

 しかしエドウィンは穏やかな顔で首を振った。


「そんなことないよ。だってキャディは優しいじゃん。虐めてたのだって本意じゃなかったんでしょ?」

「まあそうですけど……でも百パーセント自分の為です。自分が生き抜くためにあなたを虐めてました」

「うん、それでも。虐めた後はちゃんと謝ってくれたし、誠意を示してくれた」

「そ、それも自分のためです。あのまま虐めているといずれあなたに殺されると思って……」


 こ、これは少し暴論か? シナリオがそうなってるんです! って言っても信じてもらえないだろうしな……

 エドウィンを見るとこれ以上ないくらい眉間に皺を寄せている。うううこわっ!


「アイツもそんなこと言ってたな……ふっ、そんなわけないのにね。僕がキャディを殺すなんて……」


 いやだからアイツって誰だよ。


「ああでも、こうやって僕から必死に逃げようとするキャディを見てるといっそ殺してでも自分のものにしたくなるよ」

「は、はい!?」


 なんでそうなる!? お前言ってることヤバイなんてもんじゃないぞ!?


「確かに僕は正気の沙汰じゃないかもしれない。キャディ、責任とってよ」

「!!!」


 いや、ちょ、待てって。だから落ち着けって。

 なんなのコイツ完全にイカれちゃってるよ。誰がお前と結婚するって!? もうお前がバッドエンドみたいなもんじゃん!!


 そんなの、そんなこと……


「むむむ無理ィイイイ!!!」


 気付いたら教室を飛び出していた。

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