第二話『怪盗ノワールと爆発』
「改めて。某の名は
「お、おう? よ、よろしくな……??」
……そういえば、僕の腕を斬り飛ばしたときは通信が途絶していた。だから、容姿については僕しか知らない。言動も特徴的だが、伝えるのは忘れていたような気がする。
という訳で誰もこの転校生が、あの日黒峰家の試練の中でも黒峰家前当主と行動を共にしていたことは僕以外は知らないのだ。その事にすぐ気付いた僕は科学者ちゃんに大慌てで伝えるべくここに走ったのだ。
……いやちょっと気付くの遅れたけど。ちょっとだけね。
でも僕があの時の怪盗ノワールだって言及はされてないし大丈夫大丈夫。
大丈夫だよね??
「なあ藤乃? この女が変だなーとか妙だなーとか思わないのか? まずここに呼んだ理由は何だ? 表、立ち入り禁止の看板は立てっぱなしのつもりだったんだが」
「え? 今日転校してきた転校生に学校隅々まで案内してねって先生に言われたから、ほら、せっかく面白そ……真面目そうな子だからね、ここも見せたくて」
「おい今面白そうな子って言い掛けなかったか??? ここのは見世物じゃないぞ、まったく……」
「よしっ、ここは面白いところだからね椿さん!!」
「そうで御座るか? 楽しみで御座るなぁ」
「おいぃっ!!? 見世物じゃないんだからな!!?」
第二物理室の壁際に飾ってある機械にずいずいと歩み寄っていく椿さん。それに追従するように黒峰さんが、そして科学者ちゃんが慌てて止めるように着いていき──おかしな事に気がついたようだ。
「なぁ、スマホが圏外なんだが」
「それは某のせいで御座るよ。昔から某はきかいおんち、だと爺に言われ、同僚には歩く公害電波とかも言われたでござるな……何の事かさっぱり」
同僚って……いや歩く公害電波……? 公害電波ってアレじゃないかな、地下五階で通信が途切れたやつ。それパッシブスキルだったの?
「いや機械音痴だったとしても電波は死なんだろうが。それは別に問題があるのではないか?」
「某に心当たりは…………な、ないでごじゃる!!」
「なんだ今の間は……心当たりがあるんじゃないのか?」
「な、なななないで御座るよ!!?」
色々突っ込みたいところではあるけれど、下手に関わってボロを出したくないので僕は黙っていた。
椿が誤魔化すように手をバタバタと振る、その手に接触した機械がいくつもバラバラになって崩れ落ちていく。
「あ、すまんで御座る」
「あああああああああ!!!!? 私の作ったロボット達がぁぁぁぁぁぁぁ!!? きさま、これ、マジふざけ、貴様ァ!?」
「あーこらこら椿ちゃんは悪気があったわけじゃないんだから、科学者ちゃん一回落ち着いてよ」
「そうで御座るよ、冷静に。カンカンに冠に血を昇らせては判断を失するで御座るからな」
「貴様、誰のせいで怒ってると……!!」
「んむぅ……?」椿はふと暫く考え込み「てへぺろ、で御座る」背を向けて逃げ出した。
「はあ……これはミサイルランチャーとかをモデルに製作した銃器だが安心しろ────『
科学者ちゃんは撃った。それはもう滅多撃ちである。乱れ撃ち。出し惜しみはナシである。
「ふぇ?」←これは状況に追い付いてない黒峰さんの声ですね。
「危のお御座るよ黒峰殿ー?」
────爆炎と共に扉ごと二人を吹き飛ばした────。
「ああ、ああ。まったく、どれだけ苦労してこの子たちを組み上げたのか。藤乃らはこれっぽちも理解してないんだろうが……さてさて、触れただけで機械を分解だと? 胡散臭いにも程がある。そんな事が出来るような理屈は思い付かん……となれば能力か。そしてあの転校生……名前は右衛門だったか……ああ、かなり前に話題に上がったのを聞いたことがある。……碓氷の腕を飛ばしたとあれば恐らくは記憶通りだろうか、であれば厄介を通り越してもはや死活問題────」
「────問答無用で撃っといてこっち無視なの科学者ちゃん!!? けほっ、けほっ……あー制服汚れちゃった、もー!」
砂のような埃が舞う廊下からひょっこり顔を出した黒峰さん。ところで廊下の天井近くまで舞ってる砂なのか埃なのか、その白い煙、どこから出たんだろう……?
「……? あぁ。藤乃か、無事だったのか」
「反応が薄い!? 」
えっ。今僕の悪口言いましたか!?(言ってない)
あ、あぶな。反応しかけちゃった。
「すまないすまない、ところで椿は?」
「科学者ちゃん私の扱い雑すぎない?? 椿ちゃんならそこに……ってあれえ!!? いないや!! じゃあ探してくる!! ごめんね科学者ちゃん!!! またね!!」
「おう、そうかもう来なくて良いぞー」
手を振ってバタバタと走り去っていく黒峰さん。適当に手を振り返して科学者ちゃんは疲れたようにバラバラにされた機械の前に座り込んだ。
「……行ったか。マジで何をしに来たんだあの二人は……はぁ」
たぶん黒峰さんのことだ、椿さんのことを科学者ちゃんに見せたかったのだと思う。勿論科学者ちゃんもその答えには辿り着いていて、善意が引き起こした目の前の惨劇にただどうしようもなく思ってるだけ。
「おうなんだ碓氷貴様その『僕は分かってるからね』みたいな目は。私はこいつらを修理しなきゃならん。気が散るから帰ってくれ…………あいや、助手として手伝ってくれると言うのなら話は別だが?」
「そんな目してた?」
「してたな。それで、貴様。今日は帰るのか?」
「うーん。まあ、素人が居ても邪魔でしょ? 帰るよ……実は用事あったので」
「嘘つけ。貴様が用事などあるわけないであろうが」
「嘘じゃないよ!? 僕だって放課後に用事の一つや二つくらいあるってば」
「そ、そうか……? 悪かったな?」
科学者ちゃんはばつが悪いと言った風に謝ってきた。いや用事二つあること滅多にないからね。うん。
「碓氷、一応忠告してやる。本来右衛門は黒峰家の懐刀と呼べる立場にあったはずだ……記憶違いでなければ、だがな。だから、まぁ、その。何だ、気を付けろよ、碓氷影人?」
「ふところがたな?」
「…………要は黒峰家の命令をなんでも実行する、何でも屋みたいなものだな。殺しだろうが、誘拐だろうが、なんだろうがな」
「……なるほど?」
へー。殺しだろうが誘拐だろうが何だろうが黒峰家の命令に従う人が、このタイミングで転校してきたってことかぁ。
それってつまり、僕達は黒峰家に何か、怪しまれているってことじゃない?
その何かっていうのは、黒峰家へ潜入した怪盗ノワールの正体が僕であることか、僕が黒峰家をどうにかしようって思っていることか。
椿さんにどういう狙いがあるのかは色々ありすぎて僕には分からないけど、何の目的もなくこの夏休み寸前の時期に転校。
少しおかしいので、まあ、怪しまれてることは確かだ。
「ま、私自身現状には何ら後ろめたいことはないからな。碓氷は気を付けろよ、貴様は何も黒峰家には関わりがなかったんだから。特に義手……そこら辺は勘繰られると良くないだろうな」
機械を弄る科学者ちゃんもこころなし少し心配してくれてそうな声音でそう言った。
えー。こわいー。
◇
────さて、僕はとある人物に呼び出されて高校最寄り駅のスタなんちゃらとかいうなんかリア充だかパリピだかよーわからんイケイケな人達が来そうな珈琲店に足を踏み入れていた。
ス○バだよ○タバですよいや伏せる必要ないか、スタバでございます。すごいメニューの名前が長いと噂のチェーン店。
夕方、放課後しばらくな時間帯だから高校生の集団もちらほらと居るみたい……とはいえぼっちには場違い過ぎてもう帰りたいですが。
「──やあ、碓氷影人くん。早かったね、こっちこっち」
さて、呼び出してきた人は探すまでもなく、店内の注目を一点にかき集めている男が僕に向けて右手を挙げて、振っていた。
悠々と、この場にいるのが当たり前のような、まるでスタバの王(スタバの王ってなんだろう? わかんない)のような態度で座っている彼の名は────。
「白板、白紙くん……」
「さあさあ、多少目立ってしまって悪いけれど気にせず座ってね」
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