二章〈隣の席は超高校級の探偵です〉

前編:探偵と刺客に板挟みにされた僕はもうダメです

第一話『怪盗ノワールと転校生』

 ◆◆◆????◆◆◆


 くらいおへやにわたしはひとり。


 ぴかぴかひかるまどをながめてもなんにもたのしくない。


 いつもいっしょのやさしいおねえちゃんは、ここにいればだいじょうぶっていったきり。


 でもここじゃ、たまにくるしろいふくのひとたちは、 おくすりってとってもにがいこなやおちゅーしゃをむりやり。


 ────やあ、どうしたんだい?? 浮かない顔だ。


 ひかるまどのなかにはかわいいおんなのこがひとり。くるくるくるくるおどってる。


 わたしとおなじおなまえで、だからわたしとおなじになるらしい。


 よくわかんないけど、しろいふくのこわいおばさんがそんなことをいってた。


 そんなのどうでもいい。




 おねえちゃんにあいたいなぁ。



















 ◇◇◇碓氷影人◇◇◇


「────ねぇちょっと聞いてよ科学者ちゃん」


「ひゃあっ!? ……し、少々気安さの度が過ぎてるのではないか貴様!!?」


 放課後になって真っ先に第二物理室に駆け込んだら、入り口に程近い机でのんびり科学者ちゃんが座っていた椅子を蹴っ飛ばす勢いで僕から距離を取ろうと飛び退いた。しかも科学者ちゃんの口から普段聞かないような悲鳴つきで。


 え、僕ってそんな話しかけられるのも嫌なくらいに嫌われてるのか。想定外ではないけども、実際目にしてしまうとそれはそれでショックだ。


「あ、いや、そうじゃない。まだ、ちょっと心の整理が」


「……心の整理?」


「き、きしゃまが!! ……こほん。貴様が気にすることじゃあ、ない」


「ちょっと今噛んでなかった?」


「噛んでない」


「いや噛んでたよね」


「噛んでないが!! それよりも何の用だ非常に急いで来たようだが」


 誤魔化すように科学者ちゃんは早口に捲し立てるように言ってきてるけれど、僕と彼女の間には机一つ挟まっている。この距離の取り方、感染症対策かな。


 誰が碓氷菌やねん誰が。(言ってない)


「あ、そうだよそう!! 科学者ちゃんだけ僕のクラスと違うから急いで伝えなきゃと思ってさ……」


「まあわたしは学年も違うからな。だが貴様らのクラスの話は無理やり藤乃に入れられたLINEのグループからしか情報は回ってくる。転校生のことならもう聞いているぞ」


「そ、そうなんだ……っていうかそのグループって何かな? 僕知らないんだけど」


「そりゃそうだ、貴様は藤乃の考える怪盗団とやらの仲間じゃないからな……表向きはな」


「表向きはって。僕は別に仲間じゃないし、そもそも怪盗に表なんてないでしょ、裏なんだから」


「なんだその理屈。裏があるのだから表もあろうが。……それと貴様の事は仲間だと私は思っているが?」


「え。いや、思わなくて結構なんですけど。ほら、あのときは勢いで黒峰家をぶっ潰すとか言っちゃったけどそういうの危ないじゃん……?」


「この男あれだけ堂々と決意表明しておきながらチキってやがるのか!!? アレ勢いだけで言ったのか!?」


「いや違うけど」


「違うのか……良かった。貴様はあまり冗談を言うタイプではないと思っていたから本気にしかけたぞ」


「ごめん。あー……ほら、なんというか、こう、ちょっと仲良くした方がいいかなぁって」


「仲良くするのにそんな冗談は必要なかろうが……」


 科学者ちゃんは本気で安心したような感じで胸を撫で下ろした。


「で、貴様は何の話をしに来たのだ? 転校生の話題なのだとは想像がつくが、その程度で急いで貴様が単独で連絡に来るものか?」


「それね……その転校生、学校なのに制服でもない和服で、しかも帯刀して教室来たんだ。変な人だよね」


「ああ、その程度なら聞いているぞ。この高校は服装にはある程度の自由は認められているからな、風紀を乱すと判断されなければ実は私服登校も可能だしな」


 科学者ちゃんも白衣ずっと着てるもんね。下に制服着てるけど。


「口調も何だか創作上の人かってくらいにコテコテに古風な感じで、所作もキリッとしてて、しかも美人だから今日ずっとその人の話題でクラスが持ちきりになってたんだけど……困ったことにさ。その人僕の腕を切り飛ばした人なんだよね。驚きだよね」


「ほぉ? コテコテに…………ん? い、今なんと言ったのかちょっとよく聞こえなかったな??? もう一回言ってくれるか??」


「えっと、和服で帯刀してる女の人?」


「ちがう、そこじゃない」


「え、じゃあ黒峰さんの次くらいの美人だからクラスで話題に?」


「ちがう。そんなこと貴様言ってないだろうが!!? 貴様ひょっとしてまだ冗談を言おうとしているのか???」


「いや違うけど」


「今度は正気でいっているのか……貴様……貴様の腕を」


「あ、人来たみたい。隠れとくね」


「碓氷影人貴様ぁ!!!?」


 僕は気配を薄くする能力を使って部屋の角に座った。入れ替わるように開いたドア。現れ出たのは紫紺の着物を身に付けた背の高い女性。


「────ほほう、ここがあの女のハウスね。でござるな」


 どこでそんな言葉を覚えてきたのか、ポニーテールの侍女が黒峰さんと皐月さんと一緒に第二物理室に足を踏み入れたのであった。


 そもそもどの女やねん。それ。

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