エピローグ『怪盗ノワールと仲間達』
『ごめんなさいっ!! 本当に!! 私が迂闊に博物館の人に『アレ私のなんですけど……』って話し掛けたら捕縛されて……すっごい迷惑かけちゃってごめんなさい!!』
あーあれそんなヘボい理由で捕まってたんかい(皐月鈴音)
予告状送りつけたとか聞いてたんだけど阿呆なのかこの女は(科学者ちゃん)
『予告状……?』
おいぃ!!?(二人同時)
────かくして、黒峰家の試練という一連の事件は終息した。
黒峰家の試練などと大仰に名前の癖に騒ぎにならず、殆ど内々でカタが付いてしまったのは、ひとえに黒峰家の力の強さだろう。
それでも多少の変化はあった。
肩入れしたことがバレたのか、はたまたサボりのせいか。我が担任の先生は暫く自宅謹慎処分を言い渡されたらしく、あれから僕はまだ見てない。
皐月さんはどうも報償金が出たとかで新しく予備の眼鏡を買ったとか。この間見せてもらったけど普段使いの赤縁眼鏡と全く同じに見えた。そう思って配信見たら彼女のアバターに三パターンくらい眼鏡が増えてた。なんでや。
科学者ちゃんもまた同じようにお金を受け取ったらしいんだけど「貴様のせいでパアだ。反省しろ」とか言われた。返済のためにバイトを検討してる。出来るかわかんないけど。
あの日のことは妹には言ってないし、伊澄にも言ってないけど、翌日に何かあった事は秒でバレた。まあ深夜に帰れば妹はもう怒髪天を突く勢いで怒りますわよね、僕も妹の帰りが遅かったら多分家の中をぐるぐるし始めると思うし。
伊澄なんて出会い頭に「どうしたの……!? 今日は見えるじゃん!!」だよ? お前僕のことをなんだと思ってるの? 幽霊か何かかー??? はー? ……と言いたいところだけど。
衝撃の事実。僕は能力者だったらしい。
ええーっ!! な、なんだってー!!?(SE)
……まあテレビみたいなわざとらしい驚きのSEも入ったところで。どうやら僕の影の薄さは異能力とも呼べるそれらしく、だから、伊澄の反応はおかしくないのである。
とはいえ。…………なんか、話違くね? と思う人がいるかもしれない。
これひょっとして読む話間違えてない? いいえ間違えてないです。
これは○ンビですか? いいえ魔○少女です。それはちがうわ。
おうジャンルエラーじゃねぇか?? とも思われたかもしれない。
………………………………………それはそうかもしれない。
いやそうだよ!! 普通のラブコメは囚われのヒロインを奪還するべく敵地に突撃して並み居る敵をバッタバッタと薙ぎ倒して──とかやらないもん!! 言ってて気付いたこの文脈、マリ○ブラザーズだ。気分はメタル○アだったけど。段ボールに隠れておけば見つからないレベルのザル警備だったし。
ザルは言い過ぎか。見つかれば只じゃ済まないのであのときはどうこう言える感じじゃなかったけども、駆け抜けられたのはそれこそ能力ありきだったのは否定できない。
こらそこ盛ったとか言わない!! 敵を薙ぎ倒してないじゃん八割自爆だったでしょって!!? そうだが?? そうだよ。
とにかくあの地獄みたいな建物を往復して脱出できて、もう完全に終わったと言えるのだ。
何の致命的な変化は起こさずに。
「……はあ」
勘のいい人はお気付き戴けるだろう。
────結局何の解決もしてないのだ。
あいや。僕の話だ。僕のね。
僕はほら、黒峰さんがピンチで居ても立ってもいられずに首突っ込んだんだけどさ。あれを非日常とすると普段の日常で起こっていた問題は何ら変化無しでどっかり僕の目の前に鎮座してるわけで。
…………まあこれ、聞いた方が早いな。どうぞ。
「ねぇねぇ鈴音ちゃん、怪盗ノワール様って誰なの? 鈴音ちゃんは知ってる? 実はあれからずーっと気になってて。お礼言いたいんだ……ねえ知ってるんだよね!?」
「あー? うー? えーっとぉ……(碓氷!! こっち来い!! のアイコンタクトを僕に送ってくる)」
────とまあ、まるで恋する乙女のような顔で皐月さんを質問攻めにするのだ。しかも僕の目の前で。残念あなたの目の前の人が怪盗ノワール(の声担当)です。
そう告げたいところである。まあ、しないし、なんなら話し掛けることすら出来てないので。だってボロ出そうじゃん僕が今の黒峰さんへ近づくと。
というか変化してないとか言ったけど問題増えてたね怪盗ノワール。君の存在だ。君はほんと僕の邪魔ばかりして……どうしようも……。
…………。
ちがうな。この期に及んで何かを言い訳にして逃げようとしている僕には反吐が出る。そう言うところが、本当に駄目なんだよ、碓氷影人。
ずっと言い訳をしているわけにはいかないって、そう思ったんじゃないのか、君は。怪盗ノワール、君ならどうなんだ。
「────ねえ、黒峰さん……ちょっと、話せる?」
そりゃ、まあ聞いてもなにも答えは返ってこないわけで。怪盗ノワールはいないのだ、僕は僕で、無理でも歯を食い縛ってでも、頑張るしかない。
大丈夫、あの日よりも苦しいなんて事はあり得ないからさ。
◇
「本当にこの通り、一ヶ月前のカフェでの暴言について反省しておりますので許していただけないでしょうか!!!(土下座)」
「うんいいよ!!(即答)」
「えっ」
◇
地面に全関節の速度を載せた桜花頭突きをお見舞いする勢いで土下座した僕はあまりに快活な声音の黒峰さんの反応に超拍子抜けして、顔を上げた。
えっ。普通にここは風穴じゃないんですか?? ベランダから外へダイブしなくていい? あいや、ここ屋上だし、しかもそこ下海じゃないしコンクリートしか無いですけど。
「うん、全然気にしてない……って言ったら嘘だけどね? 今はもうぜーんぜん気にならないかなぁ」
「じゃあ、なんで……?」
「だってそもそも私は確かに碓氷くんの事を蔑ろにしてたかもだし、だいたい碓氷くんにも何か事情があってあんな嘘吐いたんでしょ?」
……うそ?
いや。あの言葉は殆どが本音だった。怪盗やるのに巻き込まないでほしいし、拳銃ドンされて喜ぶわけもないよねって思ったし、怖かったのも嘘じゃなし。それに嘘つきだと言われれば否定できない。応援してるって言うのは撤回したんだからね。
だからあの日嘘を吐いたよねと言われても何も引っ掛かりを覚えることはなかった。
「だって本当だったら……────ふふっ、碓氷くんは絶対に謝ってくれなかったでしょう?」
その根拠はどこから来るのか。僕には分からなかったけど黒峰さんはそう言って、満面の笑みを浮かべていた。
◆◆◆黒峰藤乃◆◆◆
(だって私が怪盗をやるって言って、応援してくれるって言ってくれた碓氷くんのあの言葉が本当に嘘なら、私はここに居ないもん)
私は、気付いてる。
あのとき私を救いだしてくれた怪盗ノワール様が碓氷くんだって。それに、私自身の気持ちにも。
私は、私をはじめて怪盗と受け入れてくれた碓氷くんの事が気にな……いや好きなのかな。好きだ。うん。好き。
じゃなきゃ、こんな簡単に許したりしな……いや、するかもしれない。私も悪いところあったし? あれ……? 私の気持ち如何で裁定が変わるところかわからないや。たぶんそうじゃないかな……? あれー? 違うかも。そもそも根拠はそこじゃないし。
怪盗ノワール様かっこよかったよね……碓氷くんもかっこいいよね。つまりそういう。私の目に狂いは……狂いは……。
あれ……? うん。仮面してたし、なんだか疑いだすと不安になってきた。もしかして違う? いやぁ、どうなの? たぶんきっとほとんどまちがいなく碓氷くんだと思うけど。
というわけでカマかけまーす!!
「実は昨日、すっごく危ない目に遭ったの」
「へっ?」
「そして危ない目を助けてくれた人はなんと怪盗ノワールと名乗りました!」
「へ、へぇ……?」
「怪盗ノワール様……私あの人の事があれからすごく気になっちゃって、好きになっちゃったかもしれない……!!!」
「そ、そっかぁ。それはよかったね?」
「よくな──っ!!」
「よくな?」
「………………えーっ……ごほん。碓氷くん?」
「な、なにかな? 黒峰さん」
「怪盗ノワール様に心当たりありますな?」
「目の前にいるもんね?」
「そうそう私は怪盗義賊! その名も怪盗ノワール!!(ポーズキメ)」
「わー(パチパチ)」
「ふふん!!(どやさ)」
────って、ちがぁう!! ここは碓氷くんが『僕が怪盗ノワールだよ……君の大好きな、ね?(イケヴォイス)』って言うところだよね!!?
これ、かんっぺきに碓氷くん勘違いしてるじゃん!! 私が怪盗ノワールの事を好きだって誤解してるじゃん!! 同一人物って気付いてないって思ってるじゃん!!?
て、訂正……訂正は……あの、それやると私は『碓氷くんのことが好きなので碓氷くんが自分から私の好きな人と名乗り出るように仕向けました』っていってる感じになりませんか?
あっ、詰み……?
「黒峰さん」
「なぁに……?」
「危ない目に遭ったんだよね。なのに無事でよかったよ、本当に」
「…………うん、ありがと……」
うわぁぁぁぁん!! 泣きたい、今すっごく泣きたい気分だよ!! どうしようこれぇぇぇぇぇ!!!
◇◇◇碓氷影人◇◇◇
「というわけでなんとか、許していただくことができました」
「それ、報告要るの?」
「藤乃が元通り面倒に復活してそうで何よりだな……」
科学者ちゃんには報告しておこうかな、と思い第二物理室に立ち寄るとそこには既に皐月さんもいた。ついでに聞いてもらったところ、上のような反応な訳ですね。皐月さんは辛辣だし、科学者ちゃんは遠い目をしていた。
「……僕はさ、黒峰さんに危ない目に遭わないでほしいって思ってるんだ」
「まあ、わかるけど」
「そうか」
二人とも微妙な反応だ。僕は右手を左手で擦る。
僕が、黒峰さんの危ないときには協力したいとか言うと思っているのだろう。消極的な、意思で。
たしかに、僕はそう思っている。だから────
「だから、僕はその元凶の黒峰家をぶっ潰したいって思ってる」
「「!?」」
「あんな家、ぶっ壊してやろう。僕たちで」
「おい、おいおいおいおい正気か貴様!?」
「本気だし正気だし、間違ってるとも思ってないよ」
科学者ちゃんは僕と対照的に慌てた様子で僕の右腕を引いた。皐月さんも、声には出さないが動揺している様子が見たら丸分かりだ。
「女の子一人を利用して絞り尽くそうなんて考える奴、許しちゃおけないでしょ。以上、碓氷影人の決意表明でした」
「「…………」」
「えっと、もしかして二人とも裏切り者はころせーとか言われてる?」
「まさか」皐月さんが笑う。
「……っ、馬鹿を言うな、そんなわけないだろう?」科学者ちゃんは肩を落とし、呆れたように口端を吊り上げた。
「よかった」
「で、大口を叩いた貴様はなにか考えがあるのか?」
「えっと、ないですね……」
「ないというのにそんなことを言ったのか貴様!?」
「はい、すいません……まあ、うん!そのうちなんとかなると思ってるし!! いいよね別に!! だって単なる決意表明だし!!」
僕は二人と全く違う窓の方を向いてそう叫んだ。
「────たっだいまーっ!!」
「藤乃、来たか」
「よーっす科学者ちゃん!! 碓氷くんも来てるねー!!」
「……あ、うん。お邪魔してます」
「いいよいいよ碓氷くんも仲間だもん!」
あっけらかんと笑い、黒峰さんは言い切った。当然のことのように。
「んで、藤乃? 今日は何をするの?」
「鈴音ちゃんいい質問だねぇ? 今日は初心に返ってー!!」黒板にカッカと文字を書いた「こう!!」
『第三回怪盗ノワールちゃんプロデュースしちゃお!! の会』
相変わらず、微妙なセンスが光っていた。
「おお、じゃあ巨大ロボとかどうだ藤乃」
「ロボもいいけどワイヤーアクションとかもよくない?」
「うーん、いいね!!」
科学者ちゃんはケラケラと笑いながら提案し、皐月さんは真剣にそんな提案をして、なにも考えてない風に見える黒峰さんが心底楽しそうに受け入れて。
「碓氷くんも何かないー?」
「……えっ」
あっ、完全にエピローグ〆モードに入ってた。傍観者気分でした。
「えーっと、じゃあ、こう、何でも開く万能鍵とかそういうの……」
「センスない」「夢もない」「さいごのかぎかよ」「理論上無理」「科学者ちゃん出来ないの?」「都度私が鍵を作ればいいじゃん」「それでいいの?」「やだ、めんどい」
全否定かよ。
「あ、もうぐだぐだ喋るだけだから〆ていいよ碓氷」
「雑ぅ!!?」
──隣の席は学校一の美少女です・完──
──でも僕、あの日右腕を切り落とされてるんだよね。
◇
「右腕。本当に気にしてないのか?」
暗い部屋だ。手術を終えたらしい。僕は意識朦朧としたまま答える。
「……まったく変わりないように見えるけど」
「馬鹿言え、変わらないわけあるか。そのうちわかるだろうが、文句言うでないぞ」
「言わないよ。そもそもラッキーとしか思ってない」
「ラッキーなわけあるか。右腕を無くしてピンク髪の小娘に背負われてカフェに現れた貴様を見て全員肝を冷やしたのだぞ。幸い藤乃は知らないようだが」
僕はそんな言葉をぼんやり聞きながら右手を動かす。すごいな、まるで自分の手のようにしっかり動く。これが義手とは全くわからないくらいに。
「うん、まあ、知られたくないし。そういうところはラッキーだったよ」
「ラッキーなわけ……はぁ、もういい。貴様の義手は定期的に見てやる。報償金が出たのは貴様のお陰だ、只でやってやろう。だがな、だが……金輪際無茶はするな」
「事情があったんだよ。黒峰さんのお母さんを庇うのにはこうするしか」
「あーあー!! 聞きたくないな!! 黒峰母など放置してしまえばよかっただろう!!?」
「でも」
「でももどうもないな!! わかったら一週間は安静にしろ!!? な!!? ……言いたいことは腐るほどあるが、送り出した手前、何を言っても仕方ない」
「……すいません」
「謝るな。無事でよかった。そうだろう?」
「黒峰さんのお母さんも護れましたし、よかったよ」
「…………」
「すいません」
「謝るなって言ったろうが」
「す」
「謝るな」
「……えっと、ありがとうございます?」
「……はぁ、どういたしまして」
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