第十五話『怪盗ノワールと機械の猫』
また下の階へと降りた。相変わらず無機質な白い床壁天井、音がよく響く廊下だ。
……相変わらず、って前の階では描写してないじゃないか? そうだっけ。じゃあそうなんですよー、ここ、深夜の病院みたいな廊下なんですよね。
遠くから響いて聞こえる靴音が怖すぎる。
『どう? 警備員は居る?』
「(幸いなことに、全員こっち見てない……。というか、なんか騒がしくない?)」
『…………またぞろ、しゅぱーとか変な機械音がしてるけど。どうよこれ』
『言われても貴様ほどイカれた耳しとらんからな。分からぬ……が、警備用で騒ぎになるような機械。心当たり…………ないこともない』
『イカれた耳って何よ。こっちは真面目にやってるの、仕事してるの、あんたのその妙に使えない秘密道具と一応高い気がする頭脳と曖昧な親のコネ知識と違って!』
『い、いざというときに使えるからよかろうなのだ!! 先の階では機械の知識が役に立ったであろう!!?』
そうかだったかなぁ……?
…………あーっと、どうだっけ。
………………まあそうかもなぁ。挨拶は大事、古事記にも書いてある。
「(そっちでちょいちょい喧嘩するの出来るならやめてくれないかなぁ……ところで先生は?)」
『さっき電話で学校に呼び戻されそうになって少し席外してる……あー、戻ってきた』
『……悪い悪い、マジで一つ下の後輩に賄賂渡す約束して平謝りしてきたぜ』
『チッ』
先生はヘラヘラと笑いながら帰って来たようで、完全に女子二人から顰蹙を買っている。……今舌打ちしたのどっち?
「────キャー!! カワイイーッッ!!」
…………?
「(今なんて??)」
『私じゃないし』『私でもないな』『俺も違うぞ。そっちだろ』
いやまあそうだろうけど、警備員がそんなこと叫、
「────やはり、警備ロボットで一番欲しかったのはやはりこの子だよなぁ」「ああっ、こっち向いて……!! ハアハア、怖くないよ……? そばにおいで?」「ぐへへ、やっぱこれ吸うのが一番効くよなぁ……ハァー……最高……っ!!」
叫んでんだけどぉ!!? いやこれ警備が言ってるの??? 犯罪臭がするんだけど!!? 吸うって何!??
『……正気度の低そうな声が聞こえるけど』
「(み、見てみるね)」
現在推定地下四階、警備員の集まっている場所は推定地下三階との階段とかなり近かったからすぐ見つかった。
バレないように声の方へと近寄ってみる。遭遇するのは嫌だけど、一応退路も確認したし。敵を知って己を知れば百戦錬磨とかそういう感じですね。知らないと詰みますし。
果たしてそこは大部屋だった。他の部屋と違ってカーペットが敷かれていて、その隅っこに何人もの警備員が集まっていた。
何を見ているのか。それは──。
「────にゃー」「にゃおー」「にゅいぇーん」
『猫の鳴き声? にしてはノイジーかな……碓氷?』
「(……あれが、NEKO……?)」
────確かに四足歩行の小さな機械は猫に見えなくもない。が、その機械の首からは銀色の煙が放たれている。警備員達は、その煙のなかでその奇妙な機械を愛でているようだ。
『猫の鳴き声のする機械、というと母がネットサーフィンの片手間に作った《ネコダス》の可能性が高いな』
『なにそのお天気レーダーみたいな名前の機械』
「(前の階から思ってたけど科学者ちゃんのお母さんって何者??)」
『……何者でもよかろう。黒峰家と縁があるなど、そもそも、ろくなものではない。それよりもその機械に近寄るでないぞ、離れられなくなるからな?
「(そこの警備員さん達みたいに?)」
「これはねこです」「かわいいね」「んほぉおお!!」
警備員さん達は機械へ頬擦りしたり齧ったり舐めたり吸ったり抱き締めたりしまいには転がったりと……猫好きというには完全におかしい動きをしていた。S◯Pかなにかだろこれ!?
しかももう目付きもまともじゃない。正気を失っている、と言うべきか目がイッてやがる。怖すぎる。警備員さん達もそうだけどこんな機械を作った製作者さんも怖いわ。
『ああ、お前を正気に戻すことが出来るか分からん。引っ掛かってくれるなよ?』
「(わ、わかった)」
科学者ちゃんの言葉に従ってその部屋をあとにした。
『……どうだ。わ、私も役に立つだろう?』
『それ気にしてたんだ』
「すっごい助かってる、ありがとう科学者ちゃん」
『ふふんっ! そうだろう!? そうであろう!!?』
────因みに推定地下四階は警備員が全部ネコダスに骨抜きにされていたので煙に気を付けるだけで安全に通り抜けることができた。ひょっとして、ここの警備……アホなのか……?
◇◇◇???◆◆◆
「よ、四層まで全滅……?? それは本当ですか?」
「はいっ!! ……(また仕様書読んでなかったせいでネコダス粒子に感染)……全滅したとのことです!!」
「……警備ロボの編成は完璧だったはずです」
「資料通りなら三層は《侵入者スレイヤー》で四層は《ネコダス》……でしたよね? どういった意図で?」
「自分で考えてはいかがでしょうか?」
「えっ? そ、そうですね。ええと……」
「いえ、いいです。意地悪が過ぎました。……怪盗というのはロボットに対して挨拶をしないものですから、当然怪盗の仲間にも刺さります」
「刺さります。」
「四層。猫、いっぱいいると癒されますよね。どんな人間も猫、勝てないですよね。これで完璧でした」
「(完璧さが浅い。あっちがロボを知ってたら余裕じゃねえか)」
「ですが突破してしまうとは……藤乃の実力には失望でしたがどうやら仲間には恵まれたようですね。その人のことが少し気になりますね、画像、もしくは動画はありますよね?」
「それが、監視カメラがどうも外部から干渉されているのか、一切残っていないのです……」
「一切」
「はい。一切合切残っていません」
「そ、そんなわけないでしょう、死角を埋める為に無数に設置し、そのどれも独立したシステムで稼働しているのですよ。一つ二つ干渉されたところでそう写らないなんて事……ありえません!! ……嘘を吐くのはよくないですよ?」
「(いやこの件は嘘吐いてないんだけど、マジでそれっぽい後ろ姿しか写ってないしな……)」
「なんです??」
「いえ。嘘だと思うのでしたら、六層の監視室に移動してご自身の目で見てください。画像が残っていないのは決して嘘ではありませんから」
「……そうですね、そうしましょう。いつまでも執務室に籠っていると体が鈍ってしまいますし。ついでに娘の顔も見てきましょうか……ふふっ、あの子と会うのはこれが最期かもしれませんからね」
「あの、黒峰さんはこれでいいと思っているのですか?」
「はい、当然でしょう? 怪盗はあの子には似合いませんから」
────くすりと、黒峰さんと呼ばれた女性は笑った。
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