第十四話『怪盗ノワールと挨拶』
『そのビル、一応見取り図あるけど、送ったほうがいい?』
『……送るべきじゃないな。その見取り図、十中八九役に立たんだろ。それ、地下の情報がないしな……そもそもどうやって送るんだ?』
『そりゃスマホで』
『ここにあるのは?』
『そうだった。碓井のスマホここじゃん。あ、これうま』
『どれどれ? ……ほう、美味いな』
一応僕、ヤバイところに潜入してるんじゃなかったっけ。なんかお菓子食べてる音すら聞こえるんですけど。呑気だなぁ……。
『
「(食べてから聞いてよ。……地下三階。二階の天井裏から通じてたのが地下一階だとすると、だけど。にしても先生はよく知ってましたよね、助かりました。こんなルート普通わかんないですよ)」
『俺は友人に聞いた。何ならそこの二人も知ってたんじゃないか? それ知らないと恐らく黒峰家の試練は成り立たんしな』
「(……そうだったんですか?)」
『『ひゅー、ひゅー』』←吹けてない
この人達は……!!
『ま、そこがあからさまなセキュリティホールとして残ってて良かったな。別ルートもあるにはあるがそっちじゃトンデモ警備だ、多分碓氷、お前でもすり抜けられない』
「(お前でもって……ちょっと前から思ってたんですけど僕の事なんだと思ってるんですか?)」
『ぼっち』『幽霊』『陰キャ』
「(……案外まともな属性で安心し──)」
『かくれんぼで一人取り残されてそう』『二人組つくってー、で二人余ってるのに気付かれないでもう一人が先生と組んで孤立しそう』『一人だけクラスのライングループからハブられてそう』
「(──そうだよね。そう思うだろう事は分かっていたけど何で急に具体的になったの!? 僕にそういうところあるっていうのはわかってるから総攻撃仕掛けるのやめてね!!? 即死するから!!)」
というか先生がなんで二人に混ざってふざけてるんですか!?
『──ほう、音?』
「(なんですか科学者ちゃん!? ……これ以上は精神に来るから控えめでお願いします)」
科学者ちゃんが何かに気付いたかのような声をあげたのを、トラウマを刺激されていた僕はさらに追い討ちが来るのではと思って身構える。
そんな僕に科学者ちゃんは淡々と告げた。
『いや、気付いたのは鈴音だ』
『──碓氷、今すぐそこを離れて!! 変な音が聞こえた。何か来る!!』
音を先に聞き取ったのは彼女自身の耳が良いのもあるけれど、そもそも僕の状況を三人に伝えるために持たされたマイクの拾音能力が異常なのだ。そして、そのお陰でここまで大した問題もなくやってこれたのだ。
えーっと……名前はなんだっけ……《超小型!! 強力集音マイク~ノワールエディション~》とかそんなふざけた名前なマイクのお陰で。
このマイク、多分……というかほぼ確実に黒峰さんが科学者ちゃんに無理言って作らせたもの…………だよね? 違ったらその人にどういう気持ちで名付けたかを聞きたいところだ。
これで先にどこに人がいるかを皐月さんが音で察知して教えてくれる。はっきり言って、このマイクが無かったら多分昔のドラクエ並みに警備と遭遇してなかまをよぶされていたであろう。
因みに普通にスマホで通話するとまず間違いなく場所が割れるとのこと。
今更の描写だけど僕は今インカムで皆の言葉を聞いてます。
────ドドドドドドドドド!!!
「なにこの揺れ」
恐らく揺れるほどの動きから発されるこの音を僕より先に聞き取ったのであろう皐月さんはかなり焦っていた。
『今の黒峰で屋内、廊下で行動可能な戦闘機には幾つか思い当たるものがある。恐らくそのどれも、今の碓氷に持たせた道具で破壊可能だが……荒事は平気か?』
そう言われて装備の確認をする。一応科学者ちゃんに持たされた道具で武装はしているけど、それでどうにか出来る? いや無理じゃない? 出来たらこんなコソコソしてないよ。
ほらこの武器なんて、引き金を二回引いてもまるっこい三羽のペンギンが踊るだけ。かわいいね。和む。
「(んなわけないでしょ!! なに来るか分かんないけど正面突破なんて以ての他、逃げます!! 逃げたい!!!)」
『あ、もう遅い。残念だったね、この音の移動速度とあんたの足を考えるに間違いなくあんたが逃げるのは間に合わない』
マジですか。
『そもそも今どこなの? なんかそこ、やけに音が響いてるけど』
「男子トイレの個室だね。落ち着けるところ探してたら辿り着いた」
『そこで落ち着いちゃダメじゃん。そこ袋小路じゃん』
音は目の前で止まった。
「んね」
『ね。……じゃないでしょ!!?』
こらこら皐月さん怒らない怒らない。怒られると死にたくなるからね。もちつけ。僕は震える手で武器になりそうな物を取り出す。
「『ドーモ』」
「……?」
ノック。扉の向こうから合成音声のような声で話し掛けられた。
どうも……? なにも、されないの、か?
扉の向こうの何かは動かない。モーターのような音がウィンウィンと鳴っているのは聞こえるが、何もしてこない。そんな謎めいた空白が緊張感をさらに強める。
それにしても、モーターのような音が段々と大きくなっているような気がしてきた。なんかキュインキュインいってるし。
『アイサツだ』
「挨、拶……?」
『……恐らく私の母が鈍器とSNSを片手に作ったヤツだろう。そこそこの速さと、敵は見境無く倒す凶暴性が売りの戦闘用ロボットだな』
凶暴性て。ロボットだよね??
『……その鈍器ニンジャ○レイヤーって名前の本じゃないよな?』
「(ど、どうしよう)」
『アイサツだ!! アイサツを返せ!! ウスイ=サン!!』
「(ば、馬鹿なの!? そんなこと言ったら僕がここにいるのバレるんだけど!? 僕を殺す気!!? 戦闘用の何かなんでしょ!!? ねえ死ぬぞ!!?)」
────キュインキュインギュイイン────
『いやアイサツされた時点でバレている』
「(でもアイサツしなきゃ動かなそうじゃん!!?)」
────ギュインギュインギュゴッ────
『甘いな。アイサツしないとそいつ爆発四散す────』
「どーもこんにちはあああああああああ!!!!」
爆発? 冗談じゃない。思い切り鍵を開けてから扉を蹴破った。それから後ろには見向きもせずに駆け出した────。
「────見つけたぞ!!」
「あーあーあーあー見つかっちゃったよ!! どうするのこれ!!」
ぞろぞろと足音が聞こえる。声を聞き付けた警備員だろうか。あーもう監視カメラ避けながら移動できてたのに……!!
『……扉を開けずに一撃で仕留めればよかったろうな。手遅れだがな?』
「科学者ちゃんそれ言うの遅いよ!!!!」
『言ったろうが!! 貴様の武装でやれるとな!!! それを勝手に逃走したのは貴様!! 貴様の自業自得だ!!』
「理不尽!!!!」
『ちょっと、喧嘩しないでよ!! 聞こえないじゃん!!』
「『ドーモ』」「『ドーモドーモ』」「『ドーモ』」
「うるさいなお前ドーモしか言えないの!!? ○HKの茶色いマスコットかよぉ!!!?」
『うわ懐かし、最近の子は知ってる?』『一応。でも何のキャラだったか全然覚えてないんですよね。あれ、先生は覚えてます?』『さあ?』
「そっちはそっちで雑談するなよぉもうこっちは修羅場だってのにぃ!!!」
「『ぐわー!!』」「『わっしょーい!!』」「『たわばァ!!!』」
「────ウワーーッ!!」
「────ナンデ!!? ロボットナンデ!!?」
「────あべしッ!!?」
何故か背後で爆発音がした。最後のは違くない??
『見ろ、アイサツしなかった警備員が全員アフロになったぞ!!! あのロボットの性質を一瞬で理解してそう行動するとは……貴様、よくやったな!!』
「ええぇ……?」
……振り返ると警備員は全滅していた。爆発に巻き込まれたのだろう、黒い煤まみれになって呻いている。いや、科学者ちゃんから見えてないし警備員さん達アフロにはなってないけどね?
というか、そろそろ怒られない? これ。
謎の不安に駆られつつ、僕は先を急いだ。
────因みにそれから四回、全く同じ展開で警備員が吹き飛んだ。
……僕はこのビルに入ってからまだ挨拶しかしてないけど。なんで??
◆◆◆???◇◇◇
────地下某所。
「第三層が全滅……!!?」
「ハッ。その様に伺っております!!」
「……なるほどね、あの子は失敗作だと思ったけれどどうやら早とちりだったようね? まさか三層の警備を全滅して押し通るお仲間が居たなんてね」
「ハァ……(バカどもがロボットの仕様忘れて全滅したとか言えねぇ……面倒い役回りになっちまったなぁ、成り代わる相手間違えたわ)」
「なにか?」
「い、いえっ! 第四層、こちらは万全の警備を以て当たっているとの報告があります!!第六層に囚われているお嬢さ「様ぁ?」いえ、黒峰藤乃を奪還されぬようにする備えは万全でございます!!」
「まあ、そうね。よろしい。四層……あそこは完璧ですからね。あの誘惑に屈さないなんて人間には不可能です」
「(誘惑……?)完璧!! では安泰ということですね!?」
「ええ、では、良い報告を期待していますね?」
「はいっ!!」
「ふふっ、良い返事です」
「……(よくわかんねえけど、まあどうせすり抜けてくるんだろうな、期待してるぜ? 碓氷影人よォ)」
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